
国産のミッドシップスポーツは? と聞かれてどの車種を思い浮かべるでしょうか。一般的にはホンダの「NSX」が筆頭に挙がると思いますが、国産で初めてミッドシップ(MR)レイアウトを採用したのはトヨタでした。ここでは国産初のMR車「MR2」にスポットを当ててすこし掘り下げていきたいと思います。
●文:往機人(月刊自家用車編集部)
エンジンやトランスアクスルはFFカローラのものを前後逆にして流用することで、低価格を実現。ミッドシップ2シーターでありながら、MR2は豊かな時代のセカンドカー需要を見据え、経済性や合理性まで考慮されて開発された。
エンジンをリヤミッドシップに搭載するため、エンジンルームと居住空間を遮断するかのようにリヤガラスはシート後部に垂直に設置。エンジンルーム後部には小さいながらもトランクルームを装備する。
国産初の2シーターミッドシップスポーツをトヨタが発売したことが驚きだった
トヨタ「MR2」が発売されたのは1984年です。前年の東京モーターショーで「SV-3」というMRレイアウトの車輌が発表されましたが、この段階ではあくまでもショーモデルとしての展示で、見る側も「こんなクルマが出たらいいなあ」という感じで夢を見ている状態だったと思います。
しかし事情通の見方は違ったようで、ほかのハリボテ感の強いコンセプトカートは違って、そのまま市販できそうなつくりだったことに注目して密かに話題になっていたようです。そしてそのショーでの好感触に自信を持ったトヨタは、早くも翌年に「MR2」と名を変えて発売しました。
当時のトヨタは、実用的でコストを抑えたつくりをベースにしてガワだけを華やかに飾ったクルマを作るメーカーという認識で、筆者の周囲もそういう見方をする人が多かったのですが、そんなトヨタから突然、他社に先駆けてミッドシップスポーツを発売したため、かなり驚いた記憶があります。
パーソナルカーとはいえ、刺激的なクルマ=高い走行性能と魅力的なスタイリングが必須条件だった
この「MR2」はけっして気まぐれやお遊びで生まれたわけではないようです。当時の社長を務めていた豊田英二氏は、在任の版年となる1970年代の後半から、今のままの自動車生産を続けていたらマンネリで立ちゆかなくなると危機感を募らせていたようで、社内の開発部門などに向けて「従来の発想では考えられないようなコンセプトの車両が将来のトヨタにはあってもよいのではないか」という意向を示していたそうです。
その意志を受けて新たなパーソナルカーの開発がスタートします。初期からMRレイアウトを前提で進められていましたが、欧州のスーパーカー的なジャンルのクルマを出すのはトヨタとしてはまだ時期尚早なので、もっと身近でリーズナブルな価格帯のパーソナルカーとして方向が定められます。パーソナルカーとはいえ、刺激的なクルマにするためには高い走行性能と魅力的なスタイリングが必須となります。
それまではFR方式にこだわってきたトヨタですが、乗員重視のパッケージが求められるようになってきたことを受けてFFレイアウトの開発を進めていました。実際に1983年に発売された「カローラ(E80系)」でそれが実現されて、エンジン横置きFFレイアウトに切り替わっていきます。
クラスター左右の大きなロータリースイッチが特徴。左がワイパー、右がライトの操作レバー。
G-Limited専用の7ウェイのスポーツシート。黄×黒のほか、赤×黒の2トーンを用意。
エンジンや足回りを他車と共有しながらも、プラットフォームは独自開発だった
その流れがあったため、「カローラ」の翌年に登場した「MR2」は、カローラのFFレイアウトをそのままミッドシップに転用しただけのインスタントなMRだと評するメディアも少なくなかったと思います。先に発売されていたのフィアットの「X1/9」GMの「ポンティアック・フィエロ」などがそのやり方でMRをつくり上げたため、余計にその意見は強く通っていました。
しかし「MR2」は先述のように、豊田英二氏の旗振りの元で始動したプロジェクトのため、FFのそれと平行で進められていたようなので、先に完成したFFシャーシをモディファイしてできたものというわけではないようです。そのため、プラットフォームはこの「MR2」のために新たに設計されたもので、エンジンから前のパートに他車種と共用の部分はほぼありません。
とは言え、身近なパーソナルカーとして低価格に仕上げないとならないため、エンジンは同時期に発売された「カローラ・レビン/スプリンター・トレノ(AE86型)」と共用の「4A-G型」エンジンにFF用のトランスミッションを組み合わせ、リヤサスペンションもFF車と共通のストラット式を採用するなど、コストを抑える工夫はあちこちに見られます。
エンジンを後輪車軸前にマウントすることで、前後重量配分は45:55とした。
【主要諸元】 MR2 1600G-Limited(1984年)
●全長×全幅×全高:3925㎜ ×1665㎜ ×1250㎜ ●ホイールベース:2320㎜ ●車両重量:940㎏ ●エンジン(4AGELU型):水冷直列4気筒16バルブDOHC1587㏄ ●最高出力(グロス):130PS/6600rpm●最大トルク:(グロス)15.2kg-m/5200rpm●10モード燃費:12.8㎞ /L●最小回転半径:4.8m●燃料タンク容量:41L●サスペンション(前/後):ストラット式独立/ストラット式独立●ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク●トランスミッション:前進5段・後進1段●タイヤサイズ:185/60HR14●乗車定員:2名 ◎新車当時価格(東京地区):179万5000円
軽量でスポーツ性が高く、しかも日常使いも可能なミッドシップ車は当時としても希少だった
そうして、1980年代のトヨタ全体としてもかなりエポックメイキングな車種となった「MR2」ですが、チマタの評価、評判はどうだったでしょう。評価のひとつの指標となる販売台数を見てみると約4万台となっています。比較として同じエンジンを搭載する「カローラ・レビン/スプリンター・トレノ(AE86型)」を見てみると約11万台で、2名乗車の特殊なスポーツ車としてはかなり健闘したのではないでしょうか。
デザインは賛否あり、前にエンジンが無いMRならではのクサビ形フォルムとリトラクタブル式ヘッドライトにスーパーカーを連想させるところが魅力的だと感じる派と、せっかくMRなのに華が無いと批判する派に分かれていたように思います。
搭載される「4A-GELU型(※横置きの型式)」エンジンは130psと数値上では頼りないですが、1000㎏前後の軽量な車重には充分で、すこし回せばグイグイ加速します。ちなみに1500ccの「3A-LU型」と、後に追加されたスーパーチャージャー付きの「4A-GZE」のバリエーションがあります。
乗り味はしっかりMRらしさが感じられます。2名乗車に割り切った短いホイールベースも相まって、重心が中心に集中したMRならではの回頭性の良さを堪能できます。MRはフロントの接地感の低さや、回頭性の良さの反面のオーバーステアが懸念材料とされていますが、開発段階でそのネガな部分を抑える設計が為されたため、タイヤのグリップ限界内で楽しむ分には神経質にならずにハンドリングの良さを楽しめます。軽量でスポーツ性が高く、しかも日常使いも可能なミッドシップ車という存在は希少で、今後も発売される可能性が高いとは言えません。
1983年登場の86レビン/トレノに積まれたトヨタの新世代ツインカム4A-GE。MR2のG系には、小型軽量・高性能・低燃費などを意味する「LASREα」の名が与えられたこのエンジンが積まれた。
1986年のマイナーチェンジで「パワフル・ミッドシップ」のカタログコピーとともに登場したスーパーチャージャーは、当時1.6Lクラス最強のパワーを誇った。
【主要諸元】
●全長×全幅×全高:3925㎜ ×1665㎜ ×1250㎜ ●ホイールベース:2320㎜●車両重量:1100㎏ ●エンジン(4A-GZE型):水冷直列4気筒16バルブDOHC1587㏄ +スーパーチャージャー●最高出力(ネット):145PS/6400rpm●最大トルク(ネット):19.0kg-m/4400rpm ●10モード燃費:11.8㎞ /L●最小回転半径:4.8m●燃料タンク容量:41L●サスペンション(前/後):ストラット式独立/ストラット式独立●ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク●トランスミッション: 前進5段・後進1段●タイヤサイズ:185/60R14 82H●乗車定員:2名 ◎新車当時価格(東京地区):225万円
4A-Gにトヨタ内製のSC12型スーパーチャージャーを組み合わせた4A -GZE 。2個のまゆ型ローターの回転で加給を行なうルーツポンプ式。
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