
自動車の専門家たちも絶賛した機能美とハンドリング。開発に携わったスタッフたちもこぞって購入したという完成度の高さ。その乗り心地や安定性は速度が増すほどに高まり、合理的なパッケージングによる実用性はまさに欧州車そのものだった。
●文:月刊自家用車編集部
国内テストドライバーのレベルアップなくして目指す「アシ」の実現なし

クルマの足回りの出来映えは、複雑なメカニズムほど上等といったような単純なものではない。確かに、バブル景気で潤沢な開発資金を得た日本メーカーは、この時期に電子制御を中心とした多くの先進技術をものにしたし、プリメーラの足回りも電子制御こそされていなかったが、路面や姿勢が変化しても、しっかりと接地する凝ったマルチリンクサスペンションが採用されていた。しかし、欧州車の優れた走りの味付けを最終的に決定づけているのは、実はそうした工学的な技術より、実験部のテストドライバーのセンスという事実も、この時代に世界を学んだ日本人が発見したことだった。
テストドライバーが車の乗り心地に大きく影響
ジャガーにもBMWにも、三ツ星レストランのシェフのようなカリスマテストドライバーがいて、彼がウンと言わなければ、新型車を世に出すことはできなかった。すなわち彼が作り上げる乗り味こそが、そのブランドの走りのアイデンティティだったのだ。レースでもドライバーの運転技術だけでなく、セッティング能力が勝敗を左右するように、安心、快適で気持ちいい市販車のハンドリングの味付けには、設計者以上にテストドライバーのセンスや見識がモノを言うというわけだ。
テストドライバーの育成と、新しい見識
901活動で世界の道を走り込んだ日産の実験部隊も、そうして「良い走りとは」という問いに対する膨大な選択肢を持ち帰り、走りを進化させた。他のメーカーでも同様の認識が高まり、マスターテストドライバーといった立場の実験部員が育成されるようになって、今では各メーカーの乗り味に、それぞれの個性が感じられるようになってきている。しかし、’90年当時はまだ欧州メーカーのレベルには到達していなかった。プリメーラの味付けを担当した日産の実験部隊が目指したのは、「150㎞ /hで走りながら、床に落としたコインを安全に拾える走り」だったという。それまでの「良く曲がるクルマ」という価値観とは違う新しい見識だ。
欧州で受け入れられる仕上がりに
だが、それだけのスタビリティ(安定性)とこれまで通りの切れ味のいい曲がりを両立させるには、まだ経験もノウハウも足りなかった。結果、乗り心地は犠牲になり、自動車メディアを始めとする走り好きには好評を得たものの、日本のごく普通のユーザーには受け入れ難かったのだった。とはいえ、速度域の高い欧州の市場では、プリメーラの走りはそれ以前の日本車の評価を塗り替える支持を得た。英国工場でも生産された欧州仕様のプリメーラは、その目論見通り成功したのである。
当時の写真で見るプリメーラ 5ドアハッチバック2.0eGT(’92年)

●主要諸元
5ドアハッチバック2.0eGT(’92年)
○全長×全幅×全高:4400 ㎜ ×1695 ㎜ ×1385㎜ ○ホイールベース:2550㎜ ○車両重量:1280㎏ ○乗車定員:5名 ○エンジン(SR20DE型):直列4気筒DOHC1998㏄○最高出力:150PS/6400rpm ○最大トルク:19.0㎏ ・m/4800rpm ○最小回転半径:5.4m ○10モード燃費:8.8㎞ /ℓ ○燃料タンク容量:60ℓ(プレミアムガソリン) ○変速機:電子制御4速オートマチック ○サスペンション(前/後):マルチリンク式独立懸架/パラレルリンクストラット式独立懸架 ○タイヤ(前/後):195/60R14 85V ○価格(東京地区):251万5000円




当時の記事で振り返る試乗記追想DRIVING IMPRESSIONプリメーラ2.0Te/2.0Tm
月刊自家用車1990年4月号 文:川島茂夫より

国産車的高級感からの脱却
国産車、とくにセダンはステップアップを前提としたクルマ選びが多い。カローラからコロナへ、そしていつかはクラウンへ。そこで優先されるのは立派に見える大きさやデザイン、高級感だ。一方プリメーラは全然大きく見えない。最近のミドルクラスセダンではコンパクトな車体寸法になっているが、見た目はさらに小さな印象。これは空力や実用性を追求した結果なのだが、今までの価値観やヒエラルキーでは計れないのがプリメーラの魅力なのだ。ハンドリングはこれまでの日産FF車の味付けを踏襲。具体的には後輪を踏ん張らせてコントローラブルなアンダーステア領域を広くするというもの。ただその進化が大きい。操舵初期から反応はマイルドで、キビキビと向きを変えるタイプではない。しかし始めから反応は確実で、操舵量と変化、回り込み感覚が上手く一致する。また自分がどのくらい限界に近いところで走っているか、反応やグリップ感の増減でしっかりと把握できる。限界付近のコントロール性がいいだけでなく、状況を理解しやすいから高速コーナーでも安心していられるのだ。

超高速の乗り心地と安定感
乗り心地に関しては意見が分かれるところだろう。非常に剛性感が高く、ドライビングトレーンのスナッチング(ギクシャク感)を含めて、タイトなドライブフィールを持つ。サスチューニングもかなりハードだ。ただ伝わってくる振動には角がない。プリメーラの硬い乗り心地はとげとげした金属的なものでなく、質感でいえばかなり良質である。しかし100 ㎞ /h以下の領域では路面の凹凸がはっきりと意識でき、荒れた路面ではかなり揺すられる。国産の標準的セダンの乗り心地を好むドライバーには容認できないだろう。好みもあるが筆者の感覚で乗り心地が良くなるのは140 ㎞ /h以上。路面の凹凸による振動は減少し姿勢もフラット。安定感の高さも申し分ない。ただ法規上、国内にこの速度で走れる道路はなく、この乗り心地と安定感を体験するにはサーキットしかない。宝の持ち腐れなのだ。欧州志向もいいが、もう少し設定速度を下げたサスチューニングでも良かったかもしれない。室内で気に入ったのはシート。ラグジュアリー志向のTmでも腰のある適度な張り。形状面でのホールド性はスポーツグレードのそれよりわずかにルーズになるが、長時間走行でも疲労しにくいしっかりした座り心地。荷室容量もたっぷりしている。しかし一番の長所は容量ではなく高さのゆとりと荷室の形状。最も大きなスーツケースを2個入れられる。
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