今のクルマはキャビン後部のCピラーには何も付けていない車両が多いですが、旧車の時代は、バッジやエンブレムがついているクルマが多かったようです。実はこのバッジやエンブレム、見た目のルックスを高めるドレスアップパーツではなく、機能的に「どうしても必要だった」ということをご存知でしょうか? 今回はCピラーのバッジやエンブレムの秘密をお教えしたいと思います。
●文:往機人
ピラーに装着されたエンブレムやバッジの謎とは?
今のクルマはキャビン後部のCピラーには何も付けていない車両が多く、その部分はボディの一部としてプレーンな面を見せて、目線に近い高さのデザインの見せ場となっています。
それが、今からだいたい50年くらい遡った1970年代の旧車と呼ばれるクルマには、高確率でC(またはD)ピラーに、エンブレムやバッジ、ルーバーなどの装飾パーツが装着されていました。
あの部分は上記のようにボディの中で目線に近い部分なので、見せ場としてその車種のアイコンであるバッジやエンブレムなどを装着してアピールしているのだと思っていました。
しかし、あのパーツたちは、車種をアピールする以外に重要な役割が隠されていたのです。
今回はあのピラーに装着されたエンブレムやバッジの謎についてちょっとだけ掘り下げてみましょう。
「日産・フェアレディZ(S30)」のピラーをチェック
まずは旧車界のトップアイドルの1台、「日産・フェアレディZ」から見ていきます。
1969年に発売されて、日本のみならず欧州や北米で大ヒットした「S30系」の「日産・フェアレディZ」。
ファストバック(ハッチバック)スタイルの流麗なスタイリングが人気の源ですが、サイドウインドウとリヤウインドウの間のCピラー部分には、どの年代、どのグレードにも丸いバッジが付いています。
ぱっと見は上記のような理由で、ただ目に付きやすいところに装着されたエンブレムだとしか見ていませんでした。
しかしあるときにS30のスクラップを見掛け、何となしに見回していると、エンブレムが付いていた場所に、指が入るくらいの穴が空いていることに気付きました。
「あれ、エンブレムを付けるだけなら両面テープで事足りるのでは?」ということに気付きます。
実際にリヤゲートに付くエンブレムは両面テープのみで装着されています。
あとで詳しい方に確認してみたところ、あれは“エアベント”用の穴だということが判明しました。
その穴は、室内の気密を外に逃がすための穴だったのです。
クルマのドアは、外からの水や砂埃、あるいは熱気や冷気などが不要に入ってこないようにするためにパッキンが装着されています。
そうは言っても空調の目的で外の空気を採り入れる部分があったり、配線やロッドなどを通すために完全には塞がっておらず、わずかに空気が出入りしています。
しかし、ドアやリヤハッチのような大きなパネルが閉まるときには、その面の空気が押されて室内の気圧が高まります。
その瞬間に室内の気圧が一瞬高まり、その影響で乗員の身体に影響を及ぼすことがあります。具体的には目や耳にダメージを与える可能性があるようです。
あのピラーの穴は、その気圧を逃がすために空けられているんです。
そのピラーの室内側を見てみると、その近くにエアを通すための樹脂製のグリルが装着されているのを発見できるでしょう。
そして装着状態のエンブレムをよく見ると、ただの円盤ではなく、周囲にエアを抜く穴が空いていることに気付きます。
ちなみにS30の最初期型では、リヤハッチの後端付近に横長の小さめなグリルが1対装着され、その見た目からマニアの間では「ヒゲ付き」と呼ばれていますが、あれも気密抜きのためのエアベントです。
そのピラーのエンブレムが1980年代以降のクルマにあまり装着されなくなったのは、車体設計が進んだおかげでエアベントの通路が他の場所(多くはリヤフェンダー付近)に移動したためです。
「日産・スカイライン(ケンメリ)」のピラーをチェック
ピラーに装着されたパーツのもうひとつの用途は給油口です。
この用途は1972年に発売された「日産・スカイライン」独自のもののようです。
通称「ケンメリ」こと4代目「日産・スカイライン」は、ワゴンとバンを除く全てのグレードで、左側のCピラーの丸いバッジが給油口になっています。
表をいくら見回しても給油口のフタが見つからないので、初めて給油するときは戸惑うこと必至でしょう。
左側のバッジの中央には鍵穴があり、それを開けると中から給油口が現れます。
この頃のスカイラインは、先代の「ハコスカ」のときからリヤのタイヤハウスの間に横長のガソリンタンクが装着されているために、左リヤフェンダーの上付近に給油口があるのがパターンでした。
ケンメリではショルダーのラインをキレイに見せるため、少しコストを掛けて給油口をピラーのバッジに隠してシンプルかつお洒落にまとめているんです。
ちなみにケンメリの右側ピラーのバッジはエアベントになっています。
当時のデザイナーのセンスを垣間見ることができる、個性的なデザインに注目
ここでは日産の2つの車種の例を紹介しましたが、他にもこの年代の旧車にはメーカーを問わずCピラーにエアベントのためのパーツが装着された車種が多く存在します。
上の例のように分かりやすい例もあれば、ウインドウの延長のようなデザイン処理で馴染むように装着されているものもあったりして、当時のデザイナーや設計者の工夫が見て取れます。
旧車イベントやオフ会などで見掛ける機会があれば、注目してみてください。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
1:トヨタ マークII/チェイサー/クレスタ[X70] デビュー:1984年8月 ボディカラーは”スーパーホワイト”ほぼ一択”だ。ワインレッドの内装に、柔らかなシート表皮。どこか昭和のスナックを思い起[…]
日本人のマイカー観をスポーティにスイッチした、カローラDNAの象徴 カローラを開発した長谷川龍雄主査が、「80点プラスα主義」を標榜したことはよく知られている。すべてが100点満点のクルマを作ることは[…]
航空機エンジニアが心血を注いだ国産車たち 今ではよく知られていることですが、工業製品の商品企画にはプロダクト アウト型とマーケット イン型というふたつのスタイルがあります。 ごくごく大雑把にいうと、プ[…]
圧倒的な高性能ぶりでライバルを圧倒したN360だが、当時の世評は世知辛くて…… 1967年春にホンダが発売した軽自動車のN360は、レースでの活躍ですでに世界に名を轟かせていた同社の2輪車用をベースと[…]
最初期のヘッドライトは、灯油を燃やすランプ式 クルマにヘッドライトが装着され出したのは1890年頃です。 初期の頃は灯油を燃やして光源としていました。 その後明るさを高めたアセチレンガスを燃料としたラ[…]
最新の関連記事(ニッサン)
ベース車両は日産のNV200バネット ベースとなる車両は日産のNV200バネット。 荷室が広くカスタムの自由度が高い。一方で、キャラバンより小ぶりなため、運転しやすく駐車スペースで悩むことも少ない。4[…]
オーテックオーナーが一同に会する名物イベント 11月16日(土曜)に開催された「AOG(AUTECH OWNERS GROUP)湘南里帰りミーティング2024」は、2004年にメーカー主催によるオーナ[…]
1:トヨタ マークII/チェイサー/クレスタ[X70] デビュー:1984年8月 ボディカラーは”スーパーホワイト”ほぼ一択”だ。ワインレッドの内装に、柔らかなシート表皮。どこか昭和のスナックを思い起[…]
往年のNISMOモデルがデモ走行を実施。歴代のレーシングカーが揃い踏み 今回で25回目となる今年の「NISMO Festival」では、今年で40周年を迎えたNISMOブランドを記念した特別企画を実施[…]
べース車両は日産のキャラバン ベースの車両は日産のキャラバン。カスタムの幅が広く、アウトドアを中心としたユーザーに、非常に人気の高い車だ。 キャラバンはなんと言ってもクラス最大級の荷室の広さが魅力。普[…]
人気記事ランキング(全体)
ナメたナットを切って外すツール 角をナメてしまったナットは、外れたとしても再利用することは難しい。であれば、壊してして外す、という選択肢もある。それを可能とするツールが「ナットブレーカー」だ。ナットを[…]
ベース車はスズキ・エブリイワゴン/キャビン 2mini Frozoo(マリナRV) ベースとなる車両はスズキ・エブリイワゴン。釣りやキャンプなどアウトドア趣味のユーザーに人気が高い軽バンコンは、キャン[…]
ネジはナメやすい! だからこそ、ちゃんとした外し方をマスター まず断っておきたいのが、本記事で紹介するテクニックは、自動車整備を前提にしている。それ以外のシチュエーションは想定していないのでご注意頂き[…]
ベース車両はダイハツのアトレー ベースとなる車両はダイハツのアトレー。燃費が良く小回りの効く軽自動車でありながら、車内スペースが広く、多くの荷物も積み込める人気の車。キャンピングカーイベントではベース[…]
タイヤに被せるだけの簡単取り付け 降雪地帯やアウトドアレジャー好きの方であれば、スタッドレスタイヤは当然用意するもの。しかし「稀に雪に見舞われる」程度の地域であれば、場所をとり、交換の手間がある上に”[…]
最新の投稿記事(全体)
ベース車両は日産のNV200バネット ベースとなる車両は日産のNV200バネット。 荷室が広くカスタムの自由度が高い。一方で、キャラバンより小ぶりなため、運転しやすく駐車スペースで悩むことも少ない。4[…]
特別仕立てのラジエターグリル&フェンダーで、〝AMG〟イメージをアピール 今回導入される「Mercedes-AMG CLE 53 4MATIC+ Cabriolet 」は、AMG専用デザインを採用した[…]
フロンクスに標準装備される純正メモリーナビシステムに対応 データシステムの「TV-KIT/TV-NAVIKIT」シリーズは、装着することにで走行中でも純正ナビのテレビ視聴や、ナビ操作も可能になるユーテ[…]
三角表示板とオサラバできる、ありがたい新世代の停止表示器材 エーモンから発売されている「パープルセーバー」は、〝三角表示板〟の代わりに使用できる停止表示器材。三角表示板は畳んだ状態でもラゲッジ内で大き[…]
A PITオートバックス東雲の担当者に聞く、コーティング剤の売れ筋とその理由とは? 愛車へほどこすのが当たり前となりつつあるカーコーティングで使用する、「コーティング剤」はどういった商品が人気なのか?[…]
- 1
- 2