
日産自動車の電動パワートレーン技術「e-POWER」が、さらなる進化を遂げた第3世代へと移行する。その国内初搭載モデルとして次期「エルグランド」が予定されており、欧州では「キャシュカイ」のマイナーチェンジモデルから導入される見込みとなっている。エクストレイルやノートなどの現行第2世代でも電動ならではの滑らかなパワー特性が好評なだけに、その上を目指したという第3世代はどのような走りを披露してくれるのだろうか? 大きな注目を集める新システムの実力は如何に?
●文:川島茂夫/月刊自家用車編集部 ●写真:日産自動車
発電用エンジンの進化が見逃せない
今回、先駆けて試乗できたキャシュカイの第3世代e-POWERは、第2世代にあたるノートやセレナ(スモールシステム:1.2もしくは1.4Lエンジン)やエクストレイル(ラージシステム:1.5LのVCターボエンジン)で分岐した2系統のe-POWERの長所を融合させることで、さらなる高みへと引き上げたシステム。具体的には高速長距離を中心とした燃費改善を主目的に開発されていることが特徴になる。
BEVの電動駆動技術を基盤とするe-POWER(シリーズ式ハイブリッド)にとって、スペース効率や重量も含めた電動コンポーネント全体の高効率化はもちろんのこと、発電に特化したエンジンの性能向上が不可欠な要素になる。最新のキャシュカイに搭載される第3世代e-POWERにおいても、最も注目すべきは発電用エンジンの進化ぶりだ。
第3世代e-POWERには、新開発された1.5L・3気筒ターボエンジンが組み合わされる。
発電に徹するe-POWERならではの着眼点
以前から日産が持つ高効率エンジン技術としては、「エクストレイル」などに搭載されている可変圧縮比技術「VCターボ」が存在し、現行キャシュカイe-POWERのマイナー前モデルにも、1.5L・VCターボエンジンが採用されている。
ただ、第3世代e-POWERに搭載される新しい1.5L・3気筒ターボエンジンは、このVC(可変圧縮)機構を採用していない。こう聞くと、機構的には一歩後退したかのように感じるかもしれないが、現実的なメリットを考えれば、VC機構が無い新エンジンの方がシンプルで高効率になるそうだ。
この新エンジンの効率向上における技術的な要点は、主に以下の3点に集約される。1つ目は、シリンダー内に強力な縦渦(タンブル流)を発生させることで、混合気の均一化と燃焼速度の向上を図る「強タンブル流吸気」。
2つ目は、排出ガスの一部を再度吸気させることで燃焼温度を下げ、ポンピングロスを低減し熱効率を高めてくれる「大量EGR(排出ガス再循環)」。
そして3つ目は、混合気を素早く燃焼させることでノッキングを抑制し、より高い圧縮比設定や効率的な運転領域の拡大を可能にする「急速燃焼」だ。
この3つの要点は、近年のエンジン設計開発における基本的なトレンドであり、特に目新しいものではないが、第3世代e-POWERのエンジンの斬新さは、発電という単一の目的に特化するために、それ以外の性能を大胆に割り切った点にある。
例えば、タンブル流の減衰を最小限に抑えるために球形に近づけた燃焼室形状を採用すると、ドライバビリティや最高出力面で不利になるが、発電効率向上という面では有効な手法。この考え方は、エンジンは直接タイヤを駆動せず、あくまで発電に徹するe-POWERならではの設計思想といえるだろう。
さらにターボユニットを大型化&低過給圧としたこともポイントのひとつ。これにより、過給レスポンス(アクセル操作に対するターボの効果が現れるまでの応答性)は低下するが、エンジンに瞬時の応答性を求めない発電特化型であるため、過給システム全体として見た場合だと、高効率化を優先した設計になっている。
そんな設計思想の大転換もあって、この新エンジンは既存エンジンの派生型ではなく、e-POWER専用として新たに開発されたものであり、エンジン型式もこれまでとは異なるものになるという。
現行型は3代目モデル。主戦場となる欧州では、全長約4.4mの扱いやすいボディサイズながら、シャープでモダンなエクステリアデザインと上質なインテリアを武器に堅調な販売実績を積み重ねている。
運転感覚やドライバビリティが明らかに異なる
そんな第3世代e-POWERの実力を測るため、従来のVCターボエンジンを搭載したe-POWER仕様のキャシュカイ(マイナーチェンジ前)と、新世代e-POWERを搭載したキャシュカイ(マイナーチェンジ後)を比較試乗した。動力性能面では劇的な変化は感じられなかったのだが、運転感覚やドライバビリティには明確な違いを感じられた。
前者は俊敏でキビキビとした動き出しが強めだったのに対して、後者の第3世代e-POWERは、加速フィールがよりスムーズで滑らかになっており、アクセル操作に対する車両の応答性も洗練されている。急加速時や高負荷走行時における絶対的な動力性能自体には大きな差はないが、操りやすさやコントロール性の違いで、第3世代e-POWERの方が好みと感じるユーザーも多いだろう。
さらに意外に感じたのは、エンジンの稼働頻度。発電効率を重視するあまり、第3世代e-POWERはエンジンの稼働時間が長くなるのでは?と思っていたが、実際には第2世代のVCターボe-POWER以上にエンジンが停止している時間が長く感じられる。
最新世代のキャシュカイは、マイナーチェンジで日産の最新電動技術になる第3世代e-POWERを初搭載。第2世代と比べて燃費性能や静粛性の向上が期待できる。
マイナー前のキャシュカイe-POWERには、エクストレイルに搭載されている第2世代e-POWERを搭載。
さらにエンジン稼働中の音も非常に穏やかで、6気筒エンジン並みの滑らかさと評されるVCターボエンジンと比較しても、静粛性は同等だ。こう感じる理由としては、車体側の遮音・吸音対策が進んだことに加え、発電に特化したことでエンジンを最も効率の良い回転域で静かに稼働できるようになった、と考えられる。
この第3世代e-POWERは先述の通り、欧州で発売されるキャシュカイのマイナーチェンジモデルで初採用され、その後は北米市場で販売されている「ローグ」や、来年には新型「エルグランド」にも搭載される。個人的には、この悠々として洗練されたドライブフィールは「エルグランド」にこそ最もふさわしいシステムにも思える。エルグランドのような大型ミニバンには、静粛で滑らかな走行性能が求められ、また、長距離移動の機会も多いことから、高速燃費の改善という第3世代e-POWERのメリットが最大限に活かされるからだ。
現在ミニバン市場では、トヨタ「アルファード」「ヴェルファイア」が圧倒的なシェアを誇っているが、そんな強力ライバルに対して頼もしい武器となる可能性がある。日産のフラッグシップミニバンが、この新しいe-POWERを得て、市場にどのような変革をもたらすのか、今からとても楽しみだ。
2026年に発売が予告されている次期エルグランド。パワートレーンは第3世代e-POWERが搭載される。
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