英国の高級車ブランド・アストンマーティンから、同社初のハイブリッドミッドシップカー「ヴァルハラ」が2025年後半にリリースされる運びとなった。自らスーパーカーを名乗るヴァルハラは、4リッターV8エンジンに3基の電動モーターを加え、最高出力1079ps/最大トルク1100Nmを発揮するハイパフォーマンスモデルであり、現状もっとも高性能なスポーツカーの1台になる。日本円で1億数千万円を悠々と超えるだろうと囁かれるプライスもさることながら、限定生産数999台のみという希少性も話題を集めている理由。そして北欧神話の世界で「戦死者の館」を意味する車名からしてタダモノではないのは明白だ。その魅力をしっかりと深堀りしたい。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:アストンマーティン・ラゴンダ・リミテッド
メーカー自身が“スーパーカー”とカテゴライズ。そのすべてが過激すぎる
「スーパーカー」の語源は諸説あるが、1970年代に発生したスーパーカーブームを端緒とする和製英語だという説が有力で、当時の欧米ではこの単語は存在しなかったらしい。
ところが今や、フェラーリやランボルギーニをはじめ、スポーツ性能に特化したモデルを「スーパーカー」とメーカー自らが名乗るように、広く世界に一般化している。
アストンマーティンのPHEV「ヴァルハラ」も、メーカー自身が“Supercar”とカテゴライズする、究極のスポーツ性能が与えられた1台だ。
エアロダイナミクス性能を追求してデザインされた流線型の滑らかなシルエット、利便性よりも速く走るために設計された2シーター&ミッドマウントエンジン構成、そして一般ユーザーには手が届かないだろう車両価格など、まさにすべてを超越するモデルである。
最高出力は1000psオーバー! 4リッターV8+3モーターの怪物PHEV
ヴァルハラほど見どころや語るべき要素が多いモデルはないが、スペースにも限りがあるので、かいつまんでそのエポックメイキングな素性を見ていきたい。
まずはなんと言ってもパワートレーン。搭載する4リッターV型8気筒ガソリンエンジンは今や絶滅に瀕している大排気量/多気筒ユニットで、おまけにツインターボで過給して最高出力828psをリアアクスルにのみ伝達する。
2基のツインスクールターボチャージャーはローラーベアリングマウントして優れたレスポンスを発揮し、ドライサンプのオイル潤滑システム、クランクピンを180度にオフセットしたフラットプレーンクランクシャフトの採用など、エンジン単体だけでも一線級を超えるパフォーマンスを実現する。
これだけでも十分「スーパーカー」だが、英国を代表する世界有数のスポーツカーメーカーであるアストンマーティンは、さらに最高出力251psを発揮する電動モーターを3基も追加した。うち1基はトランスミッションに加わりリアアクスルを駆動し、残る2基はフロントアクスルに備えて前輪を駆動する。
0-100km/h加速の目標値は、驚愕の2.5秒
電動モーターのみで走行可能な「ピュアEV」モードでは前輪駆動となり、航続距離14km、最高速度140km/hを計上。
4リッターV8ツインターボエンジンとトリプル電動モーターを協調させた結果、ヴァルハラはシステム最高出力1079ps/システム最大トルク1100Nmのハイスペックを手に入れ、8速DCTトランスミッションを介して最高速度は350km/h、0-100km/h加速は2.5秒を目標値に上げている。
ドライブモードはデフォルトが「スポーツ」で、手動で「ピュアEV」「スポーツプラス」「レース」のいずれかのモードが選択可能。サーキット走行専用のレースモードでのみリアのウイングが299mm立ち上がる。
ハイテク満載の革新的なエアロダイナミクスと軽量ボディ
パワートレーンと並び重要視されるエアロダイナミクス性能は、アストンマーティン独自の設計による「アクティブエアロダイナミクス」システムによって担保。
フロントアクスル前方に備わる「アクティブフロントウイング」はデフォルトでドラッグの抑制に働き、レースモード時にはダウンフォースを最大化するためフルレンジで機能する。
さらに車両の走行状況に応じて「DRS(ドラッグリダクションシステム)」が作動すると、リアウイングはエアブレーキとして機能し、フロントウイングと連携してダウンフォースを適正化。ブレーキング時やコーナリング時の安定した挙動に寄与する。
また、最先端のIVC(インテグレーテッドビークルダイナミクスコントロール)とインテグレーテッドパワーブレーキシステムが、フロントおよびリアアクスルを継続的に監視および制御。フロントアクスルのトルクベクタリングとリアアクスルの電子制御リミテッドスリップディファレンシャル(E-デフ)が、ドライバーの要求に応じて4輪の駆動力を調整してトラクション、安定性、俊敏なハンドリングを融合させる。
カーボン製モノコックの他、カーボンを多用したボディにディへドラルドアを採用し、ライトウェイト性能はもちろん、優れた乗降性によって日常使用もスポイルしていないあたりは、さすがアストンマーティンといったところか。
天に召されるほどのドライビングプレジャーをもたらすインテリア
インテリアはすっきりとしたシンプルなデザインを採用。ヒップからかかとまでの低い着座位置に対応した高めのフットウェルと、最大限のドライブサポートを提供する軽量な一体型カーボンシートを備え、F1にインスパイアされた上下フラットなステアリングホイールもカーボン製だ。
アストンマーティンの新しいインテリアデザイン言語の重要な特徴であるアンフィシアターラインにより、キャビンを包み込みコクピット感覚でドライバーと乗客を迎える車内は、カーボンブレイスがキャビンの幅いっぱいに広がるスポーティかつエレガントな設え。
革新的なアストンマーティンHMIシステムは、道路やトラックでの使用に不可欠な情報をドライバー中心のとてもクリアなコラムマウントディスプレイで表示する。ディスプレイには公道走行中にフルスクリーンナビゲーションマップなどの拡張表示機能が与えられており、ストリートでの使いやすさも抜かりない。
現代のスーパーカーらしく、ADASも選択可能。また、すべてのアストンマーティンモデルと同様に無限の特注およびカスタマイズを可能としたパーソナライゼーションサービス「Q by Aston Martin」に対応しているから、オーナーの好みによりオンリーワンのヴァルハラを手にすることができる。
限定生産数999台。2025年後半にマーケットへ投入予定
これまでに何度かプロトタイプが発表され、2022年には日本国内でお披露目されたこともあるヴァルハラ。ようやく生産モデルの発表にこぎ着け、総生産台数は999台とアナウンスされた。
気になる価格は未発表だが、過去に1億数千万円と言われてきた経緯を鑑みると、ミリオンダラーカーであるのは間違いないだろう。
アストンマーティンの技術を総動員して、ブランドの頂点を担うスーパーカー、ヴァルハラ。その名の謂れである「戦死者の館=天国」に誘う別格のモデルは、はたして日本にもオーナーカーとして上陸し公道で見ることができるのか? 2025年後半に開始されるデリバリーを待とう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(アストンマーティン)
「ザ・ペニンシュラ東京」内に位置するショールーム アストンマーティンは、2023年にオープンした初のグローバル・フラッグシップ拠点「Q New York」に続き、格式高いラグジュアリー・ホテル「ザ・ペ[…]
セーフティカーに採用された新型Vantage チューニングされ、さまざまな特別装備をまとったセーフティーカー仕様の新型Vantageは、2024年3月6日~3月9日に開催される「フォーミュラ1® ST[…]
アストンマーティンを象徴するグリーン モータースポーツ界の視線が2024年F1®シーズン第1戦のバーレーンに向けられる中で新たに公開された販売データによると、新車購入の4分の1近く(24%)でアストン[…]
クラス最高位の665PS/ 800Nmのパワーを発揮 新型のアストンマーティンVantageは、アストンマーティンの伝統と最新の技術の融合を象徴するモデルだ。Vantageは、アストンマーティンのスポ[…]
アストンマーティン創立110周年を記念して、日本国内11台限定生産 DBX707は、強烈なパフォーマンス、クラスをリードするダイナミクス、紛れもないスタイル、そして紛れもないウルトララグジュアリーを完[…]
人気記事ランキング(全体)
なぜ消えた?排気温センサー激減のナゾ 排気温度センサーは、触媒の温度を検知し、触媒が危険な高温に達したときに排気温度警告灯を点灯させるためのセンサーだ。このセンサーは、いつのまにか触媒マフラーから消滅[…]
東洋工業(マツダ)は、戦後復興に貢献した3輪トラックのトップメーカーだった プロ野球チーム広島東洋カープは、かつて野武士集団にも形容された個性的なこの市民球団の歩みは、長く球団オーナーを務める松田家が[…]
日本車が手本とした、美を優先する伊デザイン。その代表が117クーペ 日本において、商品のデザインが売れ行きを大きく左右することに最初に気づいたのは、松下電器器具製作所(後の松下電器産業、現パナソニック[…]
+ネジはナメやすい!確実に外すためには…? 数あるハンドツールの中で、ドライバーはもっとも使用頻度が高い物の一つにあげられる。 ところが、意外に正しい使い方をしている人は少ない。ネジを緩めたり締めたり[…]
ある日突然点灯したマークに困惑…。なにコレ? いつもの見慣れた、マイカーのインパネ(インストルメントパネル)に、突然、見慣れぬマークが点灯…。 「ん? 何だこの表示は…? 変なところ触っちゃったかな…[…]
最新の投稿記事(全体)
オーテックの独自チューニングが注がれた、純正カスタマイズモデル 今回導入されるノート オーラ「AUTECH SPORTS SPEC」は、「AUTECH」シリーズとして、ハンドリングや加速感をチューニン[…]
フロントとリヤに床下ブレースを採用することで、ねじり剛性を強化 レクサスのスポーツモデル「LC」は、2017年の発売以降、基本性能の改良を重ねながら進化を続けている、フラッグシップスポーツに相当するモ[…]
理想は年内に1回目の商談、そして年明けに一気に決めるやり方 松本 いま新車市場では、1年で一番の〝最大の売り込みキャンペーン〟が始まっている。 ーー歳末商戦ってやつですか? 松本 いやいや〝初売り〟の[…]
低燃費性能や省資源化といったサステナブル性能も追求 2024年2月に発売された「REGNO GR-XⅢ」(レグノ ジーアール・クロススリー)は、深みを増した空間品質と磨き抜かれた走行性能に加え、低燃費[…]
2026年からグローバル市場への投入を予定しているEV「Honda 0(ゼロ)シリーズ」 ホンダは2024年1月の「CES 2024」においてHonda 0シリーズと、その開発アプローチである「Thi[…]