
「BMW アルピナ B8 GT」は、自動車ブランド・アルピナの創業者であるブルカルト・ボーフェンジーペンをオマージュしたモデル。アルピナはBMWの生産車に独自の手法でモディファイを加え、ストリートからサーキットまであらゆるステージで活躍してきたが、2025年末をもってその商標をBMWに譲渡するため、創業家による“純粋なアルピナ”は幕を閉じる。そんな節目の年に、アルピナ史上最強のストリートモデルとして「BMW アルピナ B8 GT」が限定販売される。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:ニコル・オートモビルズ
アルピナは、2025年末をもってBMW社に商標権を譲渡
1965年にブルカルト・ボーフェンジーペンは「アルピナブルカルトボーフェンジーペン有限&合資会社(ALPINA Burkard Bovensiepen GmbH+Co KG)」を設立。「アルピナ」の名は、独立資本の家族経営企業がBMW社とのパートナーシップを通じて開発/製造する、BMW車をベースにしたハイエンドモデルのブランドとして広く知られてきた。
アルピナがプロデュースする各モデルは、一貫して“高品質”だ。それはサーキットマシンでもストリートマシンでも変わらない。BMW社から供給されるホワイトボディに、独自のチューニングを加えたエンジン/トランスミッション/サスペンションなどの足まわりを搭載し、そのほとんどが手作業で施されてきた。
大量生産を前提にしたモデルと、手組みで高度に調整したモデルでは仕上がりに大きな違いが生じるのは自明であり、いわばスイス製高級時計にも通ずる精緻でロマン溢れるプロダクトをアルピナは提供してきた。そこには見てくればかりのカスタムカーやチューニングマシンとは一線を画する“真の上質”さがあり、派手なエアロパーツや爆音マフラーなどは採用しないため一見すると地味なアピアランスだが、それはアルピナが美徳とするアンダーステートメントの発露である。
そんなアルピナが2025年末をもってBMW社に商標権を譲渡し、車両生産を終えることは既報の通りで、60年の歴史を築いた創業家によるアルピナの活動は今年がラストイヤーになる。
BMW8シリーズグランクーペをベースに、アルピナによるチューニングと装備をもつ「BMWアルピナB8GT」。エクステリアはアルピナの哲学である「形態は機能に従う」という原則に基づいて設計され、細部に至るまで洗練された造形が与えられた。
フロントバンパーのエアダクト/サイドダイブプレーン/エアブリーザーのトリム/新デザインのディフューザーは、いずれもカーボンファイバー製を採用する。
創業者をオマージュした世界限定99台の「BMWアルピナB8GT」
そのタイミングでアルピナは、創設者であるブルカルト・ボーフェンジーペンをオマージュした特別モデル「BMWアルピナB8GT」を、世界限定99台(日本への割り当ては30台)リリースすると発表した。
BMWアルピナB8GTは、BMW8シリーズグランクーペをベースに車体全体をモディファイ。エクステリアでは、カーボンファイバー製のフロントバンパーエアダクト/サイドダイブプレーン/エアブリーザートリム/新デザインのディフューザーを装着するほか、Bピラーに控えめな「B8 GT」のロゴや、ブルカルト・ボーフェンジーペンのサインが入った専用デザインのドアシルプレートを装着する。
足元にはアルピナを象徴する大径かつ20スポークデザインの「アルピナクラシック鍛造ホイール」を採用。BMWアルピナB8GTでは21インチサイズを履き、他モデルではオプション設定の「アルピナハイパフォーマンスブレーキシステム」も標準装備。マルチピースのフローティングタイプとなるドリルドベンチレーテッドディスクと摩擦係数の高いブレーキパッドの相乗効果で優れた制動力を発揮する。
BMW8シリーズのエレガントなサイドシルエットを引き立てる21インチのアルピナクラシック鍛造ホイールがひと際目を惹く。
634馬力ツインターボ、0−100km/h加速は3.3秒
控えめなアピアランスとは対象的に、動的パフォーマンスを企図した施策は多岐にわたる。
搭載する4.4リッターV8ツインターボはレスポンスと性能の向上に重点を置き、吸気システムの高効率化とエアフローの最適化を行った2つの新しいエアボックス、それに合わせたエンジンマネジメントとブースト圧を見直した結果、最高出力466kW(634ps)/5500-6500rpm、最大トルク850Nm/3500-5000rpm、巡航最高速度330km/h、0-100km/h加速3.3秒という、スーパースポーツモデルにも引けを取らないパフォーマンスを実現。
瞬間的に到達する最高速度を記載するのではなく、継続して発揮する巡航最高速度をスペックシートに掲げるのは、アルピナが自らのプロダクトに絶対の自信とプライドを持つがため。また、コンフォートモードとスポーツモードでそれぞれ異なる性格を任意に選択できることにも、スポーツ性能とエレガントなドライブを両立するアルピナらしさが窺える。
トランスミッションは850Nmという高トルクに最適化されたZF製8速スポーツATに「アルピナスウィッチトロニック」を備え、ダイナミックなギアチェンジと改良されたローンチコントロールを提供。サスペンションはテスト走行を重ねてセットアップし、新たにドームバルクヘッドストラットを装着してフロントエンドの剛性を向上している。
4.4リッターV8ツインターボは、最高出力466kW(634ps)/5500-6500rpm、最大トルク850Nm/3500-5000rpmを発揮。巡航最高速度330km/h、0-100km/h加速3.3秒というパフォーマンスは、もはやスーパースポーツモデルの域だ。
アルピナの集大成が伺えるハイクオリティなインテリア
BMWアルピナB8GTには、専用のフルレザーシートを4種類用意。いずれも高品質なメリノレザーとアルカンターラのシートセンター部分を組み合わせたバリエーションで、フロントシートバックレスト上部にはブルカルト・ボーフェンジーペンのサインが刺繍されている。
アルピナウォールナットアンソラサイト仕上げのウッドトリムと、ブルカルト・ボーフェンジーペンのサインを刻んだカップホルダーの蓋、金属製のインサートは、すべてのBMW アルピナB8GTに標準装備となり、豪華だが華美ではないアルピナらしい落ち着いた空間を創出している。
他にも「BMW ALPINA B8 GT」のメタルエンブレムを付したラゲッジコンパートメントマットとフロアマット、インテリアとエンジンルームに施されたステンレススチール製シリアルプレートなど、ハイエンドモデルと呼ぶにふさわしい全身隙のない装備を満載。
また、最上級のブラックラヴァリナレザーを用いた2つの専用ウィークエンダーバッグが付属し、さらには納車の際にスイスの時計/宝飾店であるカール F. ブヘラと共同開発した限定クロノグラフ(車両と同じく99個限定)も贈呈されるなど、アルピナの世界観をもカスタマーに提供するという至れり尽くせりなプロダクトを実現している。
高品質なアルカンターラ製ヘッドライナーと調和するコクピット。ステアリングホイール中央にはもちろんアルピナのエンブレムが施される。アルピナ社内のレザー工房が提供する、最高級の天然なめし革「ラヴァリナ」を使用したフルレザーインテリアもオーダーメイド可能だ。
シルバーのアルピナ製フルアルミニウムシフトパドルは、インテリアのアクセントであるだけでなくスポーツドライビングに寄与。シフトノブ後方に備わるカップホルダーの蓋にはブルカルト・ボーフェンジーペンのサインが刻まれる。
今後その価値は高まりこそすれ、廃れることのないレアモデル
アルピナほど「乗ればわかる」という言葉が正しいクルマは少ない。エンジンフィールはどこまでも滑らかで、運転時に一切のストレスを感じさせず、エレガントな空気を纏いながらも卓越したパフォーマンスを提供する、ハイエンドモデルのお手本のような存在だ。
創業家による純粋なアルピナ製モデルは打ち止めになるため、このBMWアルピナB8GTは自動車史に残るモデルになる。選択肢は標準の左ハンドル仕様と、いずれ希少モデルとして評価が大化けする可能性を秘めた右ハンドル仕様、さらに世界限定20台の2トーンカラーも用意される。
アルピナ60年の集大成とも言えるBMWアルピナB8GTは、エンスージアストはもちろん、真に血肉が通ったハイエンドカーを求めるカスタマーすべてにオススメしたい1台だ。
世界限定20台の2トーンカラーを纏ったBMWアルピナB8GT。アルピナブルーまたはアルピナグリーンとブラックサファイアを組み合わせたカラーコンビネーションから選べるが、入手難易度は高いだろう。
スペック&プライス
おもな車両諸元
全長5092×全幅1932×全高1428mm ホイールベース3023mm 車両重量2175kg 車両総重量2600kg 排気量4395cc V型8気筒ツインターボガソリンエンジン 最高出力466kW(634ps)/5500-6500rpm 最大トルク850Nm/3500-5000rpm トランスミッション8速AT(アルピナスウィッチトロニック付き) WLTPモード燃料消費率8.47km/L 巡航最高速度330km/h 0-100km/h加速3.3秒
車体価格
- BMW アルピナ B8 GT(左ハンドル):3495万円
- BMW アルピナ B8 GT(右ハンドル):3540万円
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