
「高級車」と言われて思い浮かぶブランドは数あれど、“最高級車”となれば選択肢は絞られる。その筆頭格はなんと言っても「ロールスロイス」だろう。設立してから約120年、世界中のセレブに選ばれてきたヒストリーと贅を尽くした品質は、まさに“The Most Excellent”。中でもオンリーワンの魅力を詰め込んだビスポーク=特注モデルは、最高にして最上だ。100年間車名を継承してきた「ロールスロイス ファントム」ビスポークモデルの世界を覗いてみよう。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:Rolls-Royce Motor Cars
100年前から継承される最高級車「ロールスロイス ファントム」
ロールスロイスは1925年にそれまで生産していた「シルバーゴースト」に換え、後継モデル「ロールスロイス ファントム」を発表。以来、ファントムはロールスロイスブランドを代表するモデルとして、BMW傘下に加わってからからも8世代にわたり生産されてきた。
現行モデルは、全長5762×全幅2018×全高1646mmの堂々たるボディに、最高出力571ps/5000rpm/最大トルク900Nm/1700-4000rpmを発生する6.75リッターV型12気筒ツインターボ+8速ATを搭載し、足まわりはセルフレベリングシステム付きのエアサスペンションと電子制御式ダンパーを採用。
ロールスロイスを語る上で枕詞のように使われる「魔法の絨毯の乗り心地」と、車体全体に130kgもの遮音材を贅沢に配して異次元の静粛性能を実現している。まさに限られたセレブのためのショーファー(お抱え運転手)ドリブンだ。
車体価格は6050万円からとされるが、このてのクルマを購入するカスタマーが吊るしで満足できるはずもなく、またロールスロイスはカスタマーのいかなる希望にも応える体制をとるため、要望次第で最終納車価格は青天井もいいところ。
そしてロールスロイスの職人とデザイナーがとくに受注制作で仕立てる個体が「ビスポーク(be-spoken)」モデルと呼ばれ、もはやただの自動車ではなく精緻を極めた芸術作品にまで昇華されている。
ロールスロイス ファントム ドラゴン:最新のビスポークは“龍”がテーマ
ロールスロイス ファントムはこれまでにもさまざまなビスポークモデルのキャンバスに選ばれ、世界中の目の肥えたエンスージアストを楽しませてきたが、2025年早々に発表された1台が「ロールスロイス ファントム ドラゴン」だ。
ロールスロイスのフラッグシップモデル・ファントムは、最上級のハイエンドカーでありつつ、さらなる特注装備を施すキャンバスでもある。世界のミリオネアから要望を受けて仕立てられるビスポークモデルは最上級を超えた存在であり、このロールスロイス ファントム ドラゴンもその1台だ。
龍をモチーフにした意匠から窺えるように、中国のカスタマーからオーダーを受けて制作されたファントム ドラゴンは、ファントム EWB(エクステンデッドホイールベース)が素体であり、真珠を持つ2匹の龍という古代中国の伝説を現代的に表現し、依頼主の成功と個人的哲学を体現するものだという。
フェイシアの幅いっぱいに広がるギャラリーには、297個の個別のピースと4種類の異なる木材で作られたビスポークの寄木細工を収めるが、これはロールスロイス本社の職人が3ヵ月かけて制作したもの。光沢のあるスモークドユーカリ材の要素や、天然のオープンポアスモークドユーカリ材で作られたカナデルのドアパネルなど、卓越した木工技術が随所に表現されている。
さらに、セレニティのリクライニングシートの前部と後部にはそれぞれアーデントレッドとブラックのレザーがあしらわれ、クライアントの姓が対照的な色の綿糸を用いた古代中国の筆跡でヘッドレストに刺繍されるほか、ビスポークの時計自体に真珠を守る2匹のドラゴンもあしらわれている。
このテーマは、赤と白で描かれた2匹の龍の抽象的な表現を描いた特注スターライトヘッドライナーに引き継がれ、768個の赤い光ファイバーライトと576個の白い光ファイバーライトで構成されており、それぞれ個別に手作業で取り付けられた24個の流れ星も備わる荘厳なものだ。
ロールス・ロイス ファントム ドラゴンは、ファントム誕生100周年のメモリアルイヤーを飾るビスポークモデル。中国の伝統的な図像を繊細かつ深い知識に基づいて解釈し、ロールス・ロイスブランド独自の演出で唯一無二の存在を実現した。
中国のカスタマーの意を受けて制作されたファントム ドラゴンのインテリアは、紅白の龍が至るところに表現され、天井のスターライトヘッドライナーにも及ぶ。ヘッドレストにはカスタマーの姓が古代中国の筆跡で刺繍される。
ギャラリー(ロールスロイスではフェイシアをこう表現する)はロールスロイスの職人が3ヵ月かけて制作した297個の個別のピースと4種類の異なる木材を用いた寄せ木細工で彩られる。
ロールスロイス ファントム ゴールドフィンガー:英国諜報部のスパイをオマージュ
映画『007/ゴールドフィンガー』の公開60周年を記念し、同名の悪役が劇中で乗っていた1937年式ファントム III セダンカドヴィルへの精巧なオマージュを捧げたビスポークも印象深い。
2024年に映画『007/ゴールドフィンガー』の60周年を記念して制作されたファントム ゴールドフィンガー。劇中で敵役が利用した1937年式ファントム III セダンカドヴィルから得たインスピレーションをもとに、3年間を費やして完成した。
特注を手がけたロールスロイスのスペシャリストは、オリジナルモデルの黒と黄色の外装仕上げを忠実に再現。さらにジェームズ・ボンドと劇中で敵対したオーリック・ゴールドフィンガーが対面する際、ゴールドフィンガーが使用した金色のゴルフパターからインスピレーションを得て、センターコンソールに18金のミニチュアが収まる隠し金庫を与えた。トランクにはそのままズバリ黄金のゴルフパターが備わる。
その他にも金をモチーフにした設えは、1964年に映画のために開発されたのと同じフォントでエンボス加工された金メッキのトレッドプレート/末尾が007の数字を刻んだ24金メッキのVINプレート/光沢のある金仕上げのオルガンストップ/シートブレット/スピーカーフレットが目に留まる。
ギャラリー(フェイシア)にはジェームズ・ボンドがゴールドフィンガーを追って精錬所に向かうフルカ峠の等高線図を描いたステンレススチールのアートワークが備わり、スターライトヘッドライナーには撮影最終日にスイスのフルカ峠に現れた星座を反映する凝りよう。仕上げとして、トランクを開けると伝説の「007」ロゴが表示される隠しプロジェクターも装備されている。
フロントとリアのセンターコンソールのベースも、グローブボックスの内側と同様に美しいゴールド仕上げを施す。グローブボックスの内蓋には、劇中の有名なセリフ「これがゴールドです、ミスター・ボンド。私は生涯、その色、その輝き、その神聖な重みに恋をしてきました」と刻印されている。
ロイヤルウォルナットのピクニックテーブルには、米国の金の埋蔵量が保管されている架空の地図を22カラットの金でインレイ。センターコンソールには18金の延べ棒を想起させる、ファントムの形をしたミニチュアを収納した照明付き隠し金庫が。
インテリアには至るところにゴールドをイメージしたアイテムが据えられ、スピーカーのフレットも同様に金仕上げ。ギャラリーには劇中で登場したフルカ峠の等高線地図があしらわれているが、この凝った意匠には1年もの開発期間がかけられた。
パルテノングリルの先端で翼を広げるマスコット「スピリットオブエクスタシー」は、映画の中では純金に銀メッキを施していたが、現実では金に銀メッキは不可能なため、純銀に金メッキすることで再現。トランクルーム内には「007」のロゴをプロジェクターで投影可能。
ロールスロイス ファントム シンティラ プライベートコレクション:女神をオマージュ
「ロールスロイス ファントム シンティラ」は、ロールスロイスのビスポークモデルをアピールするプライベートコレクションとして、2024年に世界限定10台のみ制作された。
ロールスロイス ファントム シンティラは、ロールス・ロイスのプライベートコレクションとして10台のみ生産。ボディ上部はアンダルシアンホワイト、ボディ下部はトラキアブルーのビスポーク仕上げで、サモトラケ島の海の色にインスピレーションを得ている。
そのデザインテーマは、ロールスロイスの象徴である「スピリットオブエクスタシー」のローブの動きからインスピレーションを得たもので、インテリア全体に施された優美な刺繍が特徴。スピリットオブエクスタシーの優雅なダイナミズムを複雑なギャラリーアート作品に仕上げている。
ドアの刺繍モチーフはロールスロイス史上もっとも複雑なドアデザインで、ブルーグレー/アークティックホワイト/スピリットブルー/パウダーブルー/パステルイエローの糸を組み合わせた63万3000ステッチで構成。照明付きのミシン目を採用することで暗くなると刺繍は魅惑的な輝きを放ち、内側から輝いているように見える。
シートは微妙な反射光沢を持つツイル生地で装飾されており、ブルーグレー/アークティックホワイト/スピリットブルーの糸で施された23万6500ものステッチが、4つのドア全体に広がる複雑なグラフィックを表現する。この豪華かつ手間を惜しまず作成したインテリアの完成には、40時間が費やされた。
ちなみに、シンティラとはラテン語で「スパーク」を意味する言葉に由来し、これはスピリットオブエクスタシーを制作したクロード・ジョンソンが、マスコットをつくる際「サモトラケのニケ」が瞬時に思い浮かべたという故事に沿ったものだ。
シートはエレガントな反射光沢を持つツイル生地で装飾。スピリット・オブ・エクスタシーのローブから着想を得たという、優美かつ複雑な曲線で演出されている。ピクニックテーブルなど木製パーツはすべてアークティックホワイトで塗装された。
ロールス・ロイス史上もっとも広範囲の刺繍密度を実現したインテリア。レザーとファブリックは各々ステッチに対して異なる反応を示すため、36枚の刺繍パネルを個別に選別して位置合わせし、インテリア全体をシームレスに流れるよう作成されている。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ロールスロイス)
宇宙空間をイメージした特別なロールス・ロイス ロールス・ロイス「ブラック・バッジ・カリナン・ブルー・シャドー」は、宇宙空間にあるカーマン・ラインからインスピレーションを得て、ロールス・ロイスのトップ・[…]
ハイパフォーマンスなコーティングを自分で! 「コーティングだけに集中する」とのスローガンを持って立ち上げたコーティング剤専門ブランド「KATIBA」。「誰もが容易に作業ができ、満足できるパフォーマンス[…]
W杯5大会でゴールを決めた唯一の選手 クリスチアーノ・ロナウド選手が初めてワールドカップに出場したのは2006年のドイツ大会。その後2010年の南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、2018年ロシア[…]
最新の関連記事(セダン)
最高のマイバッハを唯一無二の特別装備で、さらなる高みへ この特別仕様車は、究極のラグジュアリーを追求するメルセデス・マイバッハに大自然からインスピレーションを得た特別な要素を組み合わせていることが特徴[…]
仕向け地に合わせて作り分けられた”双生児”の個性 最近では少なくなってきましたが、かつてはいわゆる兄弟車がたくさんありました。トヨタならカローラとスプリンター、日産ならサニーとパルサーとラングレーにロ[…]
コンテッサ1300クーペ(1965年) 高い技術から生み出された美しいクルマは、大きな注目を集めることに 今では、日野自動車が乗用車メーカーだというと、首を傾げる人も多いかもしれない。日本初の国産トラ[…]
コストパフォーマンスに優れた、本格スポーツセダン アルファロメオ・ジュリアは、ブランドの象徴であるトライローブグリルや流麗なボディライン、優れたハンドリング性能を兼ね備えた、イタリアンスポーツセダンの[…]
1989年「レクサス」誕生。最初は「LS」と「ES」の2本立て レクサスの最初の商品は、日本では初代セルシオとして販売されたLSと、カムリのV6エンジン車、プロミネントがベースのES。LSの完成度と比[…]
人気記事ランキング(全体)
車内には、活用できる部分が意外と多い カーグッズに対して、特に意識を払うことがない人でも、車内を見渡せば、何かしらのグッズが1つ2つは設置されているのではないだろうか。特に、現代では欠かすことができな[…]
日常擁護型の本格キャンパー 街乗りの実用性とキャンピングカーの快適性。その両立は多くのモデルが言葉として掲げるが、実際に成し遂げるのは容易ではない。その点、日産のディーラー直営ショップが手掛ける「スペ[…]
ブラック加飾でスポーティ感を演出した、日本専用の上級グレードを投入 2022年より海外で展開している6代目CR-Vは、国内向けモデルとしてFCEV(燃料電池車)が投入されているが、今回、e:HEVを搭[…]
ホイールベース拡大を感じさせない、巧みなパッケージ設計が光る 2012年に登場した初代CX-5は、魂動デザインとSKYACTIV技術を全面採用した、マツダ社内では6世代商品と呼ばれているシリーズの第一[…]
オフローダーとしてのDNAをプラスすることで、アクティブビークルとしての資質をよりアピール 「デリカ」シリーズは、どんな天候や路面でも安全かつ快適に運転できる走行性能と、広々とした使い勝手のよい室内空[…]
最新の投稿記事(全体)
2026年度内の量産化を公言 スズキブースの目玉は「Vision e-Sky」と名付けられた、軽EVのコンセプトモデル。 スズキは「日々の通勤や買い物、休日のちょっとした遠出など、軽自動車を生活の足と[…]
BEVとしての基本性能を大きく底上げ 2021年にスバル初のグローバルバッテリーEV(BEV)として登場したソルテラは、電動駆動の利点を追求しつつ、余裕あるSUVボディや先進の安全装備機能が充実するな[…]
クルマ好きに贈るとっておきの一冊 自動車がとても珍しかった戦前から、販売台数過去最高を記録した1990年代までのクルマ業界の成長を振り返ることで、ニッポンの物づくりの力強さと開発者たちの熱い想いを肌で[…]
ホイールベース拡大を感じさせない、巧みなパッケージ設計が光る 2012年に登場した初代CX-5は、魂動デザインとSKYACTIV技術を全面採用した、マツダ社内では6世代商品と呼ばれているシリーズの第一[…]
STIと並ぶもう一つの柱として、大きな期待を持ってデビュー ベースとなるプラットフォームは生産もトヨタに委託しているソルテラと共通だが、スバルのBEVとしては初めて自社の矢島工場での生産となるトレイル[…]
- 1
- 2







































