
働くクルマの世界は、見た目の華やかさよりも、日々の仕事でどれだけ役立つかという実用性と経済性が最優先されるシビアな市場。その中でダイハツ・ハイゼットは、プロフェッショナルの厳しい要求に応え続けてきたロングセラーモデルだ。ここでは、誕生から60年以上の歴史を持ち、現行型で11代目を数えるハイゼットの尽きない魅力を紹介しよう。
●文:川島茂夫/月刊自家用車編集部
働く現場を熟知した、実用性とタフネス設計
ハイゼット(アトレー)の設計思想の根幹には、「いかに効率よく、そして確実に荷物を運び、仕事をこなせるか」という、働くクルマとしての明確な目的意識がある。それを強く実感させてくれるのがエンジンを前席の真下に配置する「キャブオーバー」レイアウト。軽自動車の限られた全長の中で最大限の荷室・荷台スペースを確保するための伝統ともいえる選択だ。
さらに2WD(二輪駆動)車が後輪駆動(FR)を採用していることもポイントのひとつ。普通の乗用車が前輪駆動(FF)を採用する中、ハイゼットがあえてFRにこだわるのは、重量物を積載した際の走行性能を重視しているため。重い荷物を積むと、車体の後方に荷重がかかるが、このとき後輪が駆動輪であれば、タイヤが路面をしっかりと捉え、坂道発進や加速時にスムーズな駆動力を得やすくなる。特に荷台に多くの荷物を載せるトラックや、荷室いっぱいに荷物を積むバンにとっては非常に重要なポイントだ。
また、ハイゼット トラックのシャシーには、堅牢な「ラダーフレーム構造」が採用されていることも見逃せない。本格的なオフロード車にも用いられる伝統的な構造で、走行時の耐久性にアドバンテージを生んでくれる。このタフな骨格と、悪路や雪道で力強い駆動力を発揮するパートタイム4WDシステム(一部グレードに設定)の組み合わせは、舗装路だけでなく、農道や林道、建設現場といった厳しい環境でも確実に仕事をこなしてくれる。ボディサイズは小さくても、頼もしさを感じさせてくれるわけだ。
多様な「働く」に応える、多彩なバリエーションが選べる
一口に「働く」と言っても、その業種や用途は千差万別。ハイゼットは、そうした多種多様なニーズにきめ細かく応えるために、実に幅広いバリエーションを展開している。
まず、箱型のボディを持つ「ハイゼット カーゴ」は、荷物を雨風から守りながら効率よく運搬できるモデル。
以前はハイゼットが軽貨物車、アトレーが軽乗用車と明確に分かれていたが、現行型はどちらも4ナンバーの軽貨物車として販売。外観は似ているが、細かい点で差別化が図られている。この車両はハイゼットカーゴで、内外装の加飾はかなりシンプル。パワーユニットもNAエンジンが中心になっている。
アトレーは上級商用車という立ち位置。現行型は全グレードにターボを搭載するほか、内外装の加飾やシート素材などが1ランク上の仕立てになっている。趣味のクルマとして選ばれるケースも多い。
一般的なパネルバンの他に、後席部分から後ろを開放的なデッキ(荷台)としたユニークな「 デッキバン」もラインナップ。これは「4人乗車しながら、汚れた道具や濡れた荷物も気兼ねなく積みたい」といった、特定のニーズに応えるための個性的な一台だ。
デッキバンは、4人乗りでありながら後部を開放的な荷台(オープンデッキ)としたユニークなボディを採用。撮影車はアトレーデッキバン。
通常のバンやトラックとは異なり、4人がしっかりと乗れるキャビンと、濡れたものや汚れたもの、高さのあるものなどを気兼ねなく積めるオープンデッキを両立している点が最大の特徴。
一方、荷台を持つ「ハイゼット トラック」は、農業や建設業、配送業など、さまざまな現場で活躍する日本の軽トラックの代名詞的存在になる。標準的な仕様に加え、キャビン上方を拡大して室内の圧迫感を軽減した「ハイルーフ仕様」や、さらにキャビン自体を後方に延長し、シートリクライニングの角度を大きく取れるようにしたり、シートバックスペースに小物を置けるようにしたりと、室内の居住性や利便性を大幅に向上させた「ジャンボ」も人気。長距離移動が多いユーザーや、休憩時の快適性を求める声に応えたモデルになっている。
さらにハイゼット トラックの大きな特徴は、工場出荷時から特定の用途に合わせた架装が施された「特装車」が豊富なこと。土砂や農作物の積み下ろしに便利な「ダンプシリーズ」、重量物の昇降を助ける「リフトシリーズ」、生鮮食品などを運ぶための「保冷・冷凍車シリーズ」などがカタログモデルとして用意されているので、ユーザーは購入後すぐに専門的な業務に投入できる。
荷台を傾斜させるパワフルなダンプ機構を備える特装車も複数ラインナップされている。
冷凍庫を備える冷凍車は日本全国で活躍するベストセラーモデルのひとつ。
60年超の歴史が物語る信頼性と、プロが惚れ込む機能美
初代ハイゼットが誕生したのは1960年のこと。以来、半世紀以上にわたり、日本の経済成長と庶民の暮らしを支え続けている。11代にもわたるモデルチェンジの歴史は、まさに日本の軽商用車の進化の歴史そのものであり、その過程で培われてきた技術と経験、そしてユーザーからの信頼は、ハイゼットの最も大きな財産といえる。
ハイゼットは、常に「プロの道具」としての機能性を最優先に開発。華美な装飾や、実用性に直接結びつかない装備は潔く削ぎ落とされ、その代わりに、使い勝手、耐久性、経済性といった、働くクルマに求められる本質的な性能が徹底的に磨き上げられている。一見すると無骨で飾り気がないように見えるだろうが、そのシンプルな佇まいには、長年にわたりプロフェッショナルたちに鍛えられ、研ぎ澄まされてきた機能美が宿っている。
ハイゼットは徹底した実用本位の設計思想、多様なニーズに応える幅広い選択肢、そして長年にわたり培われてきた揺るぎない信頼性で、多くのプロフェッショナルに選ばれ続け、日本の「働くクルマ」を代表する一台として活躍している。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ダイハツ)
大阪の商人らしい、「商いのうまさ」で誕生したコンパーノ コンパーノは、ダイハツが戦前から築き上げてきた商用車メーカーとしての地位から、乗用車市場へと本格的に参入する転機となった記念すべきシリーズモデル[…]
ポップアップルーフがもたらす圧倒的な開放感 まず注目したいのは、ポップアップルーフによって実現した最大2000mmという室内高。この高さがあることで、室内で立ったまま着替えたり、作業したりすることがで[…]
上質感のある内外装が、子離れ層を含む幅広い世代に支持されている ダイハツ・ムーヴは、1995年の誕生以来、30年にわたり販売されている軽ハイトワゴンのロングセラーモデル。 今回で7代目となる新型は「今[…]
一年中快適。冷暖房完備の“住める”軽キャンパー これまでの軽キャンパーに対する常識は、スペースや装備の制限を前提とした“妥協の産物”という印象が拭えなかった。しかしこの「TAIZA PRO」は、そんな[…]
人気の高いメーカーオプションを標準設定したおトクな特別仕様車 今回導入される特別仕様車“Limited”シリーズは、ユーザーから人気の高いメーカーオプションを標準設定したおトクなモデル。 「タント X[…]
最新の関連記事(軽自動車)
クーペのかっこよさと手頃な価格水中メガネの愛称で人気者に ホンダが1967年春に発売したN360は大ヒットし、軽自動車ブームの火付け役になった。N360が街にあふれるようになると、並みの軽自動車では飽[…]
おしゃれなベージュカラーを内外装に散りばめた特別仕様車 今回導入される特別仕様車「クリームコーデ」は、ワゴンRスマイル HYBRID Xをベースに、おしゃれなクリームデザートをモチーフとしたボディカラ[…]
ホンダ N360(1966〜1968) 半人前扱いだった軽自動車を若者の憧れに変身させた、二輪車で培った高性能技術。 民主的、という言葉を自動雑誌で使うのは勇気がいる。けれど、ホンダN360という軽自[…]
ルームミラータイプの変更で、価格を抑えた特別仕様車 今回導入される特別仕様車T Premium Limited Edition/G Premium Limited Editionは、上級グレードのT […]
天然木×三河家具職人による機能的で温もりのある内装が『ちょいCam』の魅力 『ちょいCam』は、愛知県豊田市の(株)ルートが手がける軽キャンピングカー。内装に天然木を使用し、三河家具職人による丁寧な仕[…]
人気記事ランキング(全体)
トラブル時にも対応可能。万が一に備えて安心ドライブ 車に乗っていると、どうしても避けられれないトラブルに遭遇することがある。どれだけ用心していても、不可抗力で発生することもある。例えば、釘やネジを踏ん[…]
ミニバンの可能性を拡張する、スマートなキャンピングカー「DAYs」 街乗りにもキャンプにも使える“ちょうどいい”サイズ感と、独自開発の回転シートやロフト空間といった遊び心ある装備。これまでのキャンピン[…]
夏の猛暑も怖くない、ロール式サンシェードが作る快適空間 夏のドライブで誰もが感じる悩みは、車内の暑さだ。炎天下に駐車すれば、シートやダッシュボード、ハンドルが触れないほど熱くなる。さらに紫外線による内[…]
奥まで届く薄型設計で内窓掃除が快適に 近年の車はフロントガラスの傾斜が鋭角になり、従来の内窓ワイパーでは掃除しづらいケースが増えている。特にプリウスなど一部車種ではダッシュボード付近に大きなモニターや[…]
たった1秒でサンシェード。ロール式で驚きの簡単操作 ワンタッチサンシェードは、サンバイザーにベルトで固定しておけば、あとはシェードを引き下ろすだけ。駐車するたびに取り出す必要はない。収納もワンタッチで[…]
最新の投稿記事(全体)
自動車での物流に先駆け、安価なオート三輪を開発 マツダの自動車製造の第一歩 1920 年(大正9年)、中国地方の山間部で自生していたブナ科の落葉樹「アベマキ」を使用したコルクを製造するメーカーとして、[…]
触らず、傷つけず、瞬時に汚れが落ちちゃうなんて… 今回注目したいのは、ドライアイス洗浄機ブランド「Dry Ice Energy」の製品だ。クルマのボディに付着する汚れに向けてドライアイスを噴射すること[…]
初代センチュリー(VG20) 政財界のVIPにより認知度を上げていった国産ショーファーカー ショーファードリブン。後席に乗る主役のために運転手つきで運用される大型セダンは、専属の御者が操る貴族の自家用[…]
消えゆくロータリー車を救え!部品供給と未来への挑戦 このイベントで注目となるのは、「RE Club Japan」の狙いだ。過去、日本だけでなく世界中に、ロータリー・エンジン車のオーナーのためのクラブは[…]
トラブル時にも対応可能。万が一に備えて安心ドライブ 車に乗っていると、どうしても避けられれないトラブルに遭遇することがある。どれだけ用心していても、不可抗力で発生することもある。例えば、釘やネジを踏ん[…]
- 1
- 2