「クルマの未来を変えていこう」をテーマにした「トヨタテクニカルワークショップ2023」を開催したトヨタ自動車株式会社は、「クルマの新価値を提供する知能化」として、独自の車両用OS「Arene(アリーン)OS」を中心としたクルマの未来を公開した。そこにはバッテリーEVのMT車やLFA、パッソ、タンドラに変化可能なオンデマンドカーがあった。それって一体何!? という気になる中身をリポートしよう。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:トヨタ自動車株式会社
次世代バッテリーEVでは、車両OS進化で走る/曲がる/止まるなど「乗り味」のカスタマイズも可能に!?
4月7日、佐藤恒治新社長を中心に新経営体制による新体制方針説明会で説明された「トヨタモビリティコンセプト」。その一翼を担うのがクルマの知能化だ。今回ワークショップでは、独自の車両用OS(オペレーティングシステム)である「Arene(アリーン) OS」によってクルマの知能化を加速させることが宣言された。
最新のAI技術を活用し、まるでオペレーターと対話しているような、高速で高性能なレスポンスやシチュエーションや好みに合わせた提案をできる次世代音声認識を次世代グローバル量産モデルに搭載する予定で、「Arene(アリーン) OS」で200以上の車両機能を操作できるという。実際のデモ操作を見ることができたが、言語は英語であるものの、対話中に人間側が話を遮ったり、かぶせたりしてもスムーズにシステムが返答していた。
さらに、次世代バッテリーEVでは、今後のOSの進化で、走る/曲がる/止まるにこだわった「乗り味」のカスタマイズも可能になるという。
ワークショップでは、バッテリーEVに電気的に接続されたMT(マニュアルトランスミッション)を模したシフトレバーと、クラッチペダルを装着したバッテリーEV「レクサスUX300e」に試乗することができた。写真ではご覧に入れられないが、EV用シフトレバーがあった場所に6速マニュアルシフトレバー(バックはリング式)が装着されており、ペダルにもクラッチが追加されている。すべて電気的に接続されており、駆動制御などでバッテリーEVでもMT車のような走りを楽しめるというもの。
同乗したエンジニア氏の説明を受けながら、恐る恐るクラッチを繋いで走り出すと、4A-GEを積んだAE86レビン/トレノのようなエンジン回転音とスポーツマフラーを装着したようなエキゾーストノートで走行開始。2速から6速まで変速して速度を上げたが、ここまでの操作やシフトアップ時のショックなど、音も体感もエンジン車そのもの。だが、すべてソフトウェアにより動きや音が再現されているのだ。「6速に入れて走ってみてください」と指示をいただき走行するとギヤ比がきっちり再現されているので、ハイギヤでの加速体感そのもの。
テストコースを登り坂まで進むと、「ここで停めてください」と指示があり坂道発進を体験。ギヤをニュートラルに入れるとスルっと車両は後ろにずり下がり、まさにMT車のニュートラル状態である。ここからクラッチを繋いでアクセルを軽く踏んだのだが、どこかで「ホントにMT車か?」と信じていない気持ちもあり、繋ぎ方が甘かったのか見事にエンストとなった。ガクッという振動もエンジン車そのもので、「そこまで再現するのか?」というのが正直な感想。
エンストした時に、思わずシステムスタートボタンを押そうとしたら、「不要です」と言われてしまった。エンストした場合、自動でニュートラルになるそうだ。また、シフトがニュートラルの場合は、バッテリーEVの「D(ドライブ)」になるだけで、普通に走行することができる。
とても短い試乗時間だったが、衝撃的な体験だった。この衝撃はこの後に乗った「走りをオンデマンドで変更可能な車」でさらに強くなる。
次の試乗車はバッテリーEV「レクサスRZ」をベースにしたテストカー。「走りをオンデマンドで変更可能な車」ということで、レクサスのスーパーカーの「LFA」、トヨタのコンパクトカー「パッソ」、トヨタの北米向けピックアップトラック「タンドラ」の走りを体感できるという。
まずは、スーパーカーの「LFA」からスタート。筆者は「LFA」に乗った経験は無いが、アクセルを踏んだ瞬間から車室内全体を野太いエキゾーストノートが包む。あぁ、これが「LFA」なんだということはなんとなく分かった。短い試乗体験で乗り味の感覚までは感じ取れなかったが、明らかに特別な存在であることは体感できた。
続いて、「パッソ」。エンジニア氏が端末を操作してモードを変えると、一瞬で大人しいクルマに様変わり。3気筒エンジンの「パッソ」をシミュレーションしている割には、加速が良いのが気にはなったが、「パッソ」と言われれば「パッソ」かもしれない。そして最後は「タンドラ」。これまた乗ったことは無いのだが、ブルンという振動とともに発進する様は、縦置きエンジンを搭載するフレーム車の動きが見事に再現されていた。
試乗後にエンジニア氏に質問したところ、データさえあればどんなクルマも再現が可能という。昔乗っていたクルマあのクルマ、憧れの1台はもちろん、トヨタやレクサスではない他社のクルマでさえ、乗り味やエンジン音を再現できるトヨタのバッテリーEVの可能性を体感できた。
しかし、気になったのはその完成度の高さ。完成度の高さが気になるというのも変な話だが、今すぐ市場に出してもおかしくない精度と質感を持っていた。トヨタは次世代バッテリーEVを2026年から市場投入していくとアナウンスしているが、それを待てないほどの感動だった。「Arene(アリーン) OS」を中心としたクルマの知能化は、まさにブレークスルーと言えるだろう。
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