
手軽に乗れて、奥深く使える――そんな軽キャンパーの世界で、ひときわ異彩を放つ1台がある。ラクネルが手がける「バンツアー・アトレーver.匠」だ。このモデルは、軽バンの可能性を突き詰めると同時に、クラフトマンシップの極みにも到達した、まさに“旅するための別荘”と呼ぶにふさわしい完成度を誇る。
●文:月刊自家用車編集部
温もりと強さを両立したリアルウッドの家具
2010年に登場したファーストモデルから数えて十数年。ユーザーの声を反映しながら細部を改良し続け、今やシリーズの中でもひときわ特別な存在となっているのが、この“匠”バージョンである。最大の特徴は、量産を前提としない、家具職人による一点一点の手仕事にある。
「匠」モデルの象徴といえるのが、室内に張り巡らされたリアルウッドの家具だ。一般的な木目調シートではなく、本物のパイン材をベースに丁寧なエイジング加工を施すことで、まるで北欧のログキャビンのような落ち着きと温もりを空間に与えている。天井やオーバーヘッドキャビネット、カウンターまでもが同様の仕上げで統一されており、ひとたび車内に足を踏み入れれば、そこは自然と呼吸を合わせる癒しの空間へと変貌する。
この素材感を最大限に引き立てているのが、特別仕様のブラックアルミフレームである。ベッドやテーブルなどの構造体に使われるアルミチャンネル材は、実用新案を取得するほどの堅牢性を備えつつ、インダストリアルな雰囲気を演出。木の柔らかさと金属の重厚感が織りなすコントラストが、唯一無二の空間美を生み出している。
変幻自在のシートアレンジと優れた実用性
限られた車内空間をいかに快適に使うか。軽キャンパーにおいてこれは永遠のテーマだが、「匠」ではこの課題に見事な回答を与えている。日中はテーブルを中心に据えた対面式のダイネットモードにすれば、大人2〜3人がゆったりと腰を下ろして食事や会話を楽しめる。就寝時にはシートとテーブルを巧みに組み替えることで、フラットなベッドモードへと早変わり。2人が十分に足を伸ばして眠れる寝心地の良いスペースが広がる。
注目すべきは、その構造の堅牢さと使い勝手だ。ベッドの骨格には3D構造のアルミフレームを採用しており、寝返りを打っても軋むことがなく、安心して眠ることができる。また、ベッドフレームは軽い力で簡単に脱着できるため、旅先では快適な寝室、日常では実用的な荷室と、使い分けが容易だ。
小さな車体に詰め込まれた多彩な収納とギミック
「匠」が単なる“オシャレな軽バン”ではなく、本格派のキャンパーであることを示すのが、その緻密に計算された収納スペースとギミックの数々である。例えばオーバーヘッドキャビネットは容量たっぷりで、日常用品からアウトドアギアまでしっかりと収納可能。運転席側にはアイアン調のゴム付きオープンシェルフが設置されており、使用頻度の高いグッズをさっと出し入れできる。
ベッド下のラゲッジスペースも見逃せない。この空間はフィッシングロッドや折りたたみチェア、長尺のアウトドア用品なども収納できる設計になっており、荷物の多い週末の旅でもストレスを感じさせない。冷蔵庫を使わないときはカウンターとして活用できる助手席側のスペースや、工夫を凝らしたテーブル収納ギミックなど、細部にまでユーザビリティへの配慮が行き届いている。
電装面も妥協なし、安心のロングステイ対応
内装の完成度だけではない。「匠」が本物志向の旅人に支持される理由には、電装系の充実も大きく関係している。心臓部となるのは、CTEKの最新型走行充電システムとAGM100Ahバッテリーの組み合わせ。さらに1500Wの正弦波インバーターを搭載し、18Lのコンプレッサー式冷蔵庫やLED照明をはじめとした家電類をしっかりとサポートする。
4連スイッチパネルやデュアルボルトメーターで電圧管理もスマートに行える構成となっており、車内での電力使用状況がひと目で把握できるのも安心材料だ。オプションとしてFFヒーターや200Wソーラーパネルも用意されており、電源の確保が難しいフィールドでも快適なロングステイが可能となっている。
ベース車両の機動力と信頼性
ベースとなるのはダイハツ・アトレーRSまたはハイゼットカーゴクルーズ。全長3395mm、全幅1475mmというコンパクトなサイズながら、4人乗車に対応し、2人の就寝スペースをしっかりと確保する。エンジンは水冷直列3気筒DOHCターボを搭載し、街乗りでも山道でも不足のない走りを実現。パートタイム4WDの設定もあり、雪道や未舗装路といったシチュエーションにも対応できる。
燃料はレギュラーガソリンで、38Lのタンク容量は旅先での給油回数を減らすうえでも有利だ。最小回転半径は4.2mと非常に小さく、狭いキャンプ場や都市部の駐車場でも取り回しに苦労することはない。
限定生産だからこその価値
この「匠」モデルは、1台1台が手作りで仕上げられるという特別な存在だ。大量生産には向かない製法をあえて選んだのは、家具の質感や空間の一体感を大切にするラクネルの哲学の表れだろう。年間の製造台数はわずか30台前後。所有することそのものがプレミアムな体験となる。
価格は税込280万1000円から。決して安価とはいえないが、その分手にするのは唯一無二の「自分だけの空間」だ。オプション装備によってさらに自分仕様に仕立てる楽しみもあり、アウトドアにこだわる大人の旅人にとっては、価格以上の満足感を得られるはずだ。
終わりなき旅の“はじまり”を、この一台から
ラクネル・バンツアー・アトレーver.匠――この軽キャンパーには、単なる移動手段を超えた「旅の空気」が詰まっている。自然を感じながら、静かに、自由に、自分のペースで時間を過ごしたい。そんな願いを叶える相棒として、この一台はきっと応えてくれるはずだ。
「ホンモノ」にこだわるなら、是非一度、展示場でその手触りと空気感を味わってみてほしい。そこには、まだ見ぬ景色への扉が、確かに存在している。
写真ギャラリー
車内はボックスシート型のレイアウトとなっている。適度な広さを保ちつつも、車内活動がしやすい。
シートはクッション性も高く、座り心地や寝心地は非常に快適。
シート下にはコンテナボックスや長い荷物などを積載することができる空間が設けられている。
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