●文:山本シンヤ ●写真:トヨタ自動車株式会社
明確に「アスリートの後継」と呼べる味付け。路面入力もまろやかで、シットリした足の動きがイイ!
トヨタの乗用車の中で、最も歴史を持つモデルがクラウンだ。トヨタ自身、クラウンに対してこのような想いを語っている。
「いつの時代も、クラウンが目指してきたものは『幸せの量産』。日本の豊かさ、『ジャパンプライド』の象徴であり、世界に誇る日本の技術と人材を結集したクルマでした」。
そして2022年7月に16代目となる新型が世界初公開された。
「16代目クラウンにも、そんな日本の底力が詰まっております。『日本のクラウン、ここにあり』。それを世界に示したい。さぁ、新しい時代の幕開けです」。
その第1弾として登場した「クロスオーバー」は序章に過ぎず、エモーショナルなSUV「スポーツ」、アクティブライフを楽しむ相棒「エステート」、そして正統派サルーン「セダン」の登場を控えている。
これは多様性が求められる時代に合わせたラインナップと言えるだろう。ちなみにクラウンの歴史を振り返ると、様々な用途に合わせてセダン、2/4ドアハードトップ、ステーションワゴン、バン、ピックアップなど、様々なボディバリエーションがラインナップされていました。つまり“原点回帰”だ。
今回紹介するのは、クラウンシリーズの中で最もエモーショナルな存在の「スポーツ」だ。2023年秋に発売予定と発表済みだが、それに先駆けてプロトタイプに短時間だが試乗ができたので報告したい。ちなみにクラウンシリーズは横軸が「理性⇔感性」縦軸のグラフで「基盤⇔創造」でキャラクターが分けられているが、スポーツは「感性/創造」のモデルとなる。
エクステリアはすでに公開済みだが、これまでのトヨタ車には無かった妖艶なデザインだ。最新トヨタデザインのアイデンティティの一つ「ハンマーヘッド」をより強調としたフロントマスクはスポーティさと先進性が上手にバランスされている。ちなみにヘッドライトはデリカD:5のようにバンパー内に設置、上部のLEDはデイライト&ウインカー用だ。
サイドはクロスオーバーよりも短い全長/ホイールベース、前後オーバーハングを活かした凝縮感あるデザインでFF横置きベースを忘れるバランスの良さだ。リヤフェンダー周りの立体感はトヨタ車史上最大と言っていいレベルで、ポルシェやマセラティ、フェラーリなどのスーパーSUV顔負けのセクシーさを備える。ちなみに左右独立4灯のリヤコンビランプは歴代クラウン・アスリートがモチーフになっているそうだ。
インテリアは基本的なデザイン・操作系はクロスオーバーと同じだが、スポーツ専用アイテム(シート、ステアリング、シフトノブ)に加えてアシンメトリーのカラーコーディネイトでパーソナル感を演出。エクステリアデザインとのマッチングはクロスオーバーよりも良く感じたが、欲を言えばスポーツ専用の「プラスα」があっても良かったかな……と。
シートはクロスオーバーに対してヒップポイントが高められていますが、パッと座った印象はほぼ変わらず。リヤシートはウィンドウ面積が小さいので閉塞感はあるものの、居住性に不満は感じず。足元スペースはホイールベース短縮(-80mm)の影響がないと言えば嘘になるが、170cmの筆者がフロントシートのポジションを取った状態だと足元スペースは拳2.5個以上の余裕を確認できた。
ラゲッジは左右にゴルフバック用の“エグリ”が設けられているが、上下左右、奥行き共に割り切った設定。この辺りはデザイン優先のためだが、たくさん荷物を積みたいならエステートを選べばいいだろう。
メカニズムは未公表の部分も大きいが、基本はクラウンクロスオーバーと基本は同じと考えていい。パワートレインは2タイプが用意され、普及版がハイブリッド(HEV)、上級版がプラグインハイブリッド(PHEV)だ。ハード自体はRAV4/ハリアーと同じ2.5L+THSⅡ+E-Fourの組み合わせだが、クラウンスポーツに見合う専用制御になっているのは言うまでのないだろう。
プラットフォームはフロント・セダン用GA-K、リヤ・SUV用とクラウンクロスオーバーと同じだが、基本素性の違い(ホイールベース短縮/前後オーバーハング低減)を活かしたスポーツ専用のチューニングを実施。恐らく専用AVS(電子制御可変ダンパー)&専用DRS制御、更には235/45R21サイズのミシュラン・eプライマシー(クロスオーバーは225/45R21)などに加えて、TNGAとしての進化・熟成も盛り込まれているはず。
今回はPHEVのみの試乗となったが、一言で言うと、「見た目はエモーショナルだが、中身は極めてジェントル」と言った印象。
EVモードはドライバーのペダル操作に合わせて必要なだけ力強さが増すフィーリングはRAV4 PHVなどと共通だが、より滑らか、より操作に忠実で、「スーっ」と走るように感じだ。HEVモードはRAV4 PHVと同じならばシステム出力306PSだが、体感的には「おっ、力強い!!」よりも「おっ、余裕あるね」だった。この辺りはよりリニアなパワートレーン制御だけでなく、アクセルを踏んだ時の車両姿勢の変化の少なさも寄与しているはずだ。
この辺りの印象は「クラウンの世界観」と言う意味では正しいが、クラウンスポーツの“エモーショナル”な立ち位置を思うと、プラスαが欲しいと思ったのも事実だ。
ハンドリングは駆動方式の概念を変える「コーナリング時の旋回姿勢」、コーナリングの一連の流れに連続性の高さ、滑らかでスムーズなクルマの動きなど、「気負いなく高性能を味わえる」はクロスオーバーと共通だが、スポーツはそれに加えて「より機敏」、「より俊敏」、「より曲がる」がプラスされる。
例えるならば、クロスオーバーは「アスリートとロイヤルのいい所取り」だが、スポーツは明確に「アスリートの後継」と呼べる味付け。分類上はSUVだが、走りはスポーツセダンに近いと言っていい。
乗り心地はハンドリングの印象からクロスオーバーよりも引き締められている方向かと思いきや、路面入力のまろやかな伝わり方、シットリした足の動き、少しだけ早めの吸収スピードなど、むしろ快適性はクロスオーバーよりも高く感じた。この辺りはエアボリュームの高いタイヤや重心の低さ(バッテリー搭載の影響)もあるが、クロスオーバーでやりきれなかった部分のブラッシュアップも効いていると予想。つまり、将来クロスオーバーにも年次改良でフィードバックされるのは間違いないだろう。
そろそろ結論に行こう、クラウンスポーツは16代目の「革新と挑戦」と言う根っこは不変だが、よりパーソナル、よりクルマ好きなユーザー向けの商品に感じた。まさに左脳ではなく右脳で楽しめる「エモいクラウン」の誕生と言えるだろう。恐らく、争奪戦になるのは間違いないので、決断はお早目に!!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(新車)
誕生から25周年を迎え、さらなる高みに達した911の人気バージョン 世界中のスポーツカーメーカーが指針とするポルシェ 911シリーズは、1963年のデビューから60年を経た現在もデザインや基本コンセプ[…]
原材料価格の高騰を理由とした、価格改定も実施 今回実施した一部仕様変更では、安全性能の向上が図られたほか、原材料価格の高騰を理由に価格改定も実施されている。 ●コペン グレードバリエーション&価格パワ[…]
「ナチュラルユニーク」をコンセプトに描かれる、新フロントマスクを採用 今回実施される一部仕様変更では、「ナチュラルユニーク」と定義したデザインコンセプトをもとに、フロントバンパーとフロントグリルの形状[…]
新グレード「XD SP」と特別仕様車「XD-HYBRID Trekker」を追加 今回実施される商品改良では、ハンドリングの良さはそのままに乗り心地の向上を施したほか、スポーティイメージを強めた新グレ[…]
フィアットブランドの遊べるクルマ「ドブロ」最新モデルを導入 フィアットのMPV(マルチパーパスビークル)となる「ドブロ」シリーズが、国内導入されたのは2023年5月のこと。全長4405mmの標準ボディ[…]
人気記事ランキング(全体)
知っているようで、実は見落としているマイカーの機能 全てを知っているつもりでいても、実は意外と活用できていない機能が存在するのがクルマ。今回は、給油にまつわる見落とされがちな機能を紹介しよう。 給油口[…]
車載ジャッキの使い方の基本 ジャッキというと、車載ジャッキを思い浮かべるビギナーは多いハズ。しかし、車載ジャッキはあくまでパンクのときなどのための応急用であり基本的にメンテナンスでは使用してはならない[…]
電波法関連法令の改正で、一部のETC車載器が使えなくなる ETC(Electronic Toll Collection System)とは、有料道路料金回収自動システムのことで、2001年より全国で運[…]
フロントガラスが曇る原因や時期を知っておこう フロントガラスの曇りは視界を妨げるだけでなく、悪天候/夜間など視認性が低下する状況では特に運転の安全性に影響を与えます。 フロントガラスが曇る主な原因は、[…]
車内を暖かく! カーエアコンの正しい使い方とは? 車内を快適な温度に保つために必要な、カーエアコンの正しい使い方を4つのポイントから見ていきましょう。 まずひとつ目のポイントは、カーエアコンの起動タイ[…]
最新の投稿記事(全体)
誕生から25周年を迎え、さらなる高みに達した911の人気バージョン 世界中のスポーツカーメーカーが指針とするポルシェ 911シリーズは、1963年のデビューから60年を経た現在もデザインや基本コンセプ[…]
車検ステッカーは、車検時に保安基準適合すると交付される 車検ステッカー(検査標章)は、新規検査・継続検査(車検)等において、保安基準に適合すると、自動車検査証とともに交付されます。これまではフロントウ[…]
新幹線をブチ抜く!! 最高速度は350km/h ランボルギーニはフェラーリと並ぶ、世界最高峰のスーパースポーツカーメーカー。その最新モデルのレヴエルトは、V型12気筒エンジンとモーターを併用する、現代[…]
ベース車両はホンダN-VAN ベースとなる車両はホンダのN-VAN。積載性を重視した作りである一方で、最新のNシリーズらしい走りの質の高さが特徴だ。 N-BOX(2代目)譲りのプラットフォームやパワー[…]
運転免許証が有効である理由について 運転免許証は、免許試験合格後に交付される公的な証明書です。試験に合格するには、運転技術の評価だけでなく、身元確認書類を提出し、顔写真を撮影するなどの手続きも必要にな[…]
- 1
- 2