トヨタ自動車株式会社は、愛知県にある同社の貞宝工場、明知工場、元町工場で取り組まれている様々なモノづくり技術を「トヨタモノづくりワークショップ」としてメディアに公開した。そこには初公開となる、デジタルと革新技術でTPS(トヨタ生産方式)と現場力を進化させ、”もっといいクルマ”を生み出す新たな土壌が待っていた。
●文:月刊自家用車編集部
「技能/技術」と「デジタル・革新技術」の融合でモノづくりを進化させ、そしてリードタイムを短縮して、すばやく、何度も何度もチャレンジする!
ワークショップ冒頭で挨拶に立った執行役員Chief Production Officer(CPO)の新郷 和晃氏は、初代プリウスのHEVシステム開発、カローラ、プリウス、ヤリスなどの車両企画を担当するなど、開発畑を歩いてきた人物だ。ご本人は現職の内示を受けた時は正直、何かの間違いかと驚いたというが、「正解のない時代に開発と生産が垣根を越えてベンチャー企業のように一体となって未来を作ってほしい」という期待があったからだ」と語る。
また、豊田章男会長からは「働く人がイキイキともっと活躍できる工場にしてほしい」と言われ、そこから半年間に渡って世界中の現場を回り見えてきたことがあったという。それが「『誰かの仕事を楽にしたい』、『みんなの笑顔のために』という創業期から変わらぬ精神」、「モノづくりの『高い技能と技術』のしっかりとした継承」、「人財を鍛える現場の力」の3つだという。
かつて豊田佐吉が自動織機を開発したように、今も無から有を生み出して、カイゼンを積み重ね魅力ある製品を世に出していく、スタートアップの力は健在である! とも語る。ハイブリッド用のモーターや電池、FCスタックやタンクなども外注委託に出すのではなく、自ら開発して生産して生み出してきたのもこの精神である。
さらに、現場で感じた3つのトヨタしか持ちえないモノづくりの強み、トヨタの「技」 をしっかり「継承」していくことこそがますます重要と語る。それは、2023年の今、これまでのエンジン車、HEVからPHEV、BEV、FCEVへと、自動車業界はゲームチェンジとも言える、生き残りを賭けた変革の時代を迎えているからだ。
この大変革を突き進むために、新郷 和晃CPOは「トヨタの技で、モノづくりの未来を変えたい」と言う。そのために、「技能/技術」と「デジタル・革新技術」の融合でモノづくりを進化させ、そしてリードタイムを短縮して「すばやく、何度も何度もチャレンジする」ことが必要と力説する。
例えば、ランドクルーザーに採用されているフレームの溶接では、熟練技能者は溶接する板と板の間の隙間に合わせて溶接棒の速度を細やかに調整することで高品質な溶接ができている。しかし、そのままロボットで自動化すると隙間がどうあろうと一定の動きしかできないため、隙間がアジャストできずに品質がバラついてしまう。人がどうやって隙間に合わせて調整するのか、ロボットに教えることで高い品質と生産性を両立する。その人の技能をさらに高めて、その高めた技能をさらにロボットに教えて高めていく。トヨタでは、このようなサイクルを回し続けて技能と技術を磨き続けている。
また、トヨタ生産方式(TPS)が根付き、全員がモノづくりへの情熱を持って、自らカイゼンを続けられる。そういった人を育てることもまさに現場の力であるという。完成車生産を行う元町工場ではここ1年間で4つの新作プロジェクトを立ち上げることができたといい、これはチームでのカイゼン活動、混流生産に対応した多能工化、さまざまな人作りを進めた現場の力でお客様の多様なニーズに応え、1000万台のフルラインナップを実現することができたと胸を張る。
トヨタのモノづくりスタートアップ拠点である貞宝工場では、設備の開発にあたり技能を持ったメンバーが、デジタルの3D空間上でカイゼン活動を重ね、それをリアルの設備生産に反映する仕組みがすでに動いている。また、全固体電池生産ラインでは技能者の創意工夫により、高速かつ高精度の生産が出来るようになってきているという。
こうした技能・技術のデジタルや革新技術の融合に加え、トヨタにはトヨタ生産方式(TPS)を基軸としたリードタイム短縮という技がある。以前は3年以上かかっていたクルマ開発ではあるが、「GRヤリス」や「水素エンジンカローラ」のように、レースの現場に開発やモノづくりの全員が集まり、走っては壊し、また走っては壊し、カイゼンしていくというサイクルを繰り返し、繰り返し、クイックに何度も回すことで、よりスピーディに新しいクルマをカタチにできるようになってきたとのこと。
リードタイム短縮と言えばもう一つ、今回初公開された明知工場のギガキャスト試作用設備だ。ギガキャストは、定期的な鋳造の型の交換が必要で、通常その交換に24 時間程度かかるという。トヨタでは、すでに創業から現在に至るまでエンジン製造などで培ってきた鋳造技術があり、金型への知見は豊富。これらにより、型交換に必要なリードタイムを約20分にまで短縮したという。これこそトヨタ創業以来の無から有を生みだすスタートアップの力とトヨタ生産方式(TPS)の融合によるカイゼンの一例と言えるだろう。
今回、公開された3工場を回り感じたことは、トヨタの工場は普通の自動車工場とは大きく雰囲気が異なるということだ。2021年に貞宝工場の一角に開設されたスタートアップスタジオをはじめ、一部の工場ではオフィスデスクと生産ラインが密接に並び、中にはラウンジもありメンバー同士が意見交換を行い、すぐにモノづくりにフィードバックしていく、まるでベンチャー企業のような風景が広がっていたのだ。「工場の風景を変え、クルマの未来を変えていく」。今回のワークショップのテーマを実感した瞬間だった。
挨拶の最後に新郷 和晃CPOは、CPOとしての決意を次のように宣言した。「トヨタの持つ技とデジタル・革新技術で、工程 1/2 を実現します。また開発と生産の垣根をなくし、 新しいモビリティをすばやく提供します。そして工場カーボンニュートラルや物流などモノづくりの基盤の課題解決にも取り組んでいきます」。この変革の中で、どんな新しいクルマが生まれてくるのか、その時はもうすぐそこまで来ている。
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