
クルマのメカニズム進化論 駆動系編(3)〜4輪駆動〜
軍用やヘビーデューティな仕様が主だった4WDはレオーネの登場によって乗用市場が開拓された。その後、センターデフを採用したフルタイム方式のアウディの登場によって“市民権”を得るようになっていった。
※この記事は、オートメカニック2017年5月号の企画記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック編集部
もともと4WDはレース目的で造り出された駆動システムだった
4WDというとヘビーデューティなジープタイプのクルマを連想するが、ガソリンエンジン世界初の4WDはヒルクライムレースのために造り出されたものだった。1902年に現れたオランダのスパイカー兄弟の手による“スパイカー”は世界の4WD 1号車でありながら、2速のトランスファーを持ち、センターデフまで与えられていた。
それ以後も4WDは少数ながら造り出されたが、いずれもレースでの勝利を目的とした特殊なものだった。アメリカではインディ500に出場するミラーが製造され、ヨーロッパでもGPのためにブガッティ、チシタリア・ポルシェなどが登場した。F1では1969年にはロータス63、マクラーレンM7、マトラMS84が登場したが、成功を収めることなく退場した。
レースでは勝利をつかめなかった4WDだが、軍用では高い走破性が評価された。ダイムラー社によって世界初のオフロード用軍用車が製造され、1940年にはアメリカでジープが誕生する。
その後ヨーロッパではランドローバー、アメリカではハードトップを付けた大型4WDが開発され、軍用から民生、レジャーに用いられるようになっていく。国内ではスバルがレオーネバンをベースに4WD化し1972年に発売。ヘビーデューティな4WDに対し、乗用4WDと呼称された。
“ヨンク”といえばジープタイプがすべてだった時代に現れた乗用4輪駆動車がレオーネエステートバン。マニュアルトランスミッションで、2WD、4WDを手動で切り替えた。
アウディ・クワトロの登場、フルタイムで全輪を駆動
1980年、アウディ・クワトロが登場した。フルタイム4WDを標榜し、前後の駆動軸の間にセンターデフを採り入れた。アウディは市販直後、WRCに“クワトロ”を投入。FRによるドリフト全盛だったラリーの世界では4WDを懐疑的に捉えていたが、参戦2年後、アウディにワールドチャンピオンシップをもたらした。アウディはラリーでの成功を格好の宣伝材料として、ロードゴーイング4WDの新しい世界を切り開いたのだ。
ビスカスカップリングの実用化も4WDの世界を押し広げた。西ドイツのビスコドライブ社によって開発されたそれはシンプルな構造ながら、主駆動軸と従駆動軸の間に回転差が生じると、自動的に動力を伝えるという特性を持っている。
国産車で最初にこれを採用したのは1986年のニッサン・パルサーで、GNKと栃木富士産業のジョイントベンチャーであったビスコドライブジャパンによって供給された。以後、低コストの4WDとして定着し、今では多くの軽自動車にも採り入れられている。
乗用4輪駆動車に革命をもたらしたアウディ・クワトロ。センターデフを備えた常時4WD。新しい駆動方式の登場には懐疑的な意見も見受けられた。
アウディはクワトロをWRCに登場させ、女性ドライバーが初ウィナーとなった。これによって4WDのハンドリングへの懐疑が払拭された。
1986年からアウディのセンターデフに用いられたトルクセンシング型。遊星歯車で構成され、かかるトルクによって解放、締結が自動的に行われる優れた構造だ。
多板クラッチと遊星歯車で構成されたスバルのVTDと呼称されるセンターデフ。スバルは車種によって4WDシステムを使い分けてきた。
4WDは前後の駆動配分だけでなく、左右の駆動配分も制御し、操縦性を向上させる時代に入った。ニッサン・ジュークは電子制御カップリングをリヤに設け、操縦性を向上。
4WDのメカニズムは大きく4種に分類
4つのタイヤを駆動する4WDにも様々な種類がある。パートタイム4WD、オンデマンド4WD、フルタイム4WD、アクティブトルクスプリット4WDの4種に大きく分類できるが、それらの方式の中で、動力分配機構やセンターデフにも違いがある。また、FR車をベースにしたものとFF車をベースにしたもの、縦置きエンジン、横置きエンジンなどによっても分類できる。
前後の駆動配分にもさまざまなバリエーションがある。電子制御方式では0対100から50対50の間で、路面状況やグリップ状況に合わせて最適に制御されるものもある。
モーターとのハイブリッド駆動を備えたものも登場した。トヨタ、ニッサンはスリップしやすい路面での駆動力を補うものとしてサブ的なモーターを後輪に取り入れた車種をラインナップしているが、ホンダ・NSXは前輪に二つのモーターを備え、トルクベクタリングを可能にし、積極的に操縦性に関わらせる方式を採用している。
4WDの代表車、“ジープ”のイメージとは大きく変わり、現代の4WD車は様々なメカニズムによって成り立っている。
アクティブ4WD。電子制御によって多板クラッチの締結を制御し、運転状況に応じて前後の駆動配分を制御する。図は1998年に登場したトヨタアクティブトルクコントロール。
ハウジングの中に複数の向かい合わせたクラッチを内蔵し、粘度の高いオイルを封入したビスカスカップリング。オイルのせん断抵抗によって動力を自動断続する。
新世代の4WD。ホンダ・NSXは後輪をエンジンとモーターで、前輪は左右二つのモーターで駆動する。加速性能だけでなく、ライントレース性能も高いレベルで追求されている。
前後、左右のトルク制御システムの塊のようだったランサーエボリューションの4WDシステム。ターマックでもグラベルでもドライバーの意のままに操縦が可能だった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
制約という「逆境」から生まれた世界初のミッドシップオープン、ホンダ・ビート 日本人というのは、制約があってこそ創意工夫の実力を発揮する民族なのかもしれない。狭い国土に人がひしめき、多くが山岳地で耕作面[…]
デートカー全盛期に現れた、美しきスペシャリティクーペ 5代目となる日産 シルビア(S13型)が発売されたのは1988年5月。日本がバブル景気へと突き進み、若者のライフスタイルが華やかさを増していた時代[…]
RR+2ストローク3気筒。59年前とは思えない意欲的なメカニズム 現在の軽自動車は、大人4人が乗れる室内空間と、高速道路を無理なく走れる性能を備えています。しかし、360cc規格が定着した1950年代[…]
軽量+ハイパワー+4WDという最強クラスの組み合わせが誕生 三菱「ランサーエボリューション」が誕生したのは1992年である。 三菱は1967年に初めて国際ラリーへ参戦して以来、モータースポーツを単なる[…]
RAV4 Lツインサンルーフ(1994年) RAV-FOUR(コンセプト) 華麗なショーモデルたちの中、トヨタの世界戦略車となる金の卵「RAV-FOUR」が登場 バブル景気真っ盛りの1989年。幕張メ[…]
最新の関連記事(ニュース)
各ブランドの「今」を体感! ステージや最新モデル試乗会も実施 「STELLANTIS ALL BRANDS DAY -JAPAN 2026-」では、フランス、イタリア、アメリカという多様な背景を持つ8[…]
BMWとMINIの計21車種が対象 今回のリコール対象車は、BMWが12車種、MINIが9車種の計21車種。 BMWは『X1 sDrive18i』『X1 xDrive20i』『X1 xDrive20d[…]
4WD化で異次元のトラクションを実現! モード切り替えで後輪駆動の挙動も楽しめる BMW M2は、伝説の名車「BMW 2002ターボ」や「初代M3」のスピリットを継承する、Mハイ・パフォーマンス・モデ[…]
50年の歴史を背負う中核セダンが「ノイエ・クラッセ」の時代へ BMW3シリーズは1975年の初代誕生以来、Dセグメントセダンの世界的な基準として市場を牽引してきた。今回の新型では電動化とデジタル化を進[…]
開発陣のこだわりとオーナー達の知恵が交差し、スズキへの愛着をさらに高められる オープンに先立って開催された事前座談会では、ファンから「オーナー同士で実用的な知恵を共有したい」「カタログには載っていない[…]
人気記事ランキング(全体)
雨の日に意外と困る「ドアミラーの水滴」 雨天時の運転では、フロントガラスならワイパーで視界を確保できる。サイドウインドウも、走行中であれば風によってある程度水滴が流れ、どうしても見えにくければ窓を一度[…]
キャッシュレス時代だからこそ「小銭だけ」を持ち歩く 今回、インプレするグッズとして選んだのは、ザ・ノース・フェイスの「ランブルコインワレット」だ。カラーは2色が用意されている。明るいフォールンロックと[…]
2026年8月 SUVランキングTOP5 2026年8月のSUVランキングでは、「ロッキー/ライズ/レックス」が1万958台で首位。トヨタ「ヤリス クロス」が5150台で2位、トヨタ「RAV4」が44[…]
独自の急速充電システム「EVOLITE II」の採用で、エアコン&家電をストレスなく使える バンコンのベース車として絶大な人気を誇るトヨタ・ハイエース。近年は新車供給の停滞により、需要があっても製作で[…]
制約という「逆境」から生まれた世界初のミッドシップオープン、ホンダ・ビート 日本人というのは、制約があってこそ創意工夫の実力を発揮する民族なのかもしれない。狭い国土に人がひしめき、多くが山岳地で耕作面[…]
最新の投稿記事(全体)
イタリアの専門家監修! 自然な一体感と圧倒的な上質感 今回のインテリアガーニッシュは、イタリアの専門家がデザインを監修。室内の上質さと品格を高めるため、細部に至るまで徹底的にこだわり抜かれている。 最[…]
1位「その手があったか…」水滴で見えない助手席側ドアミラー。運転席から一気にクリアにする方法。伸縮式ワイパーを実際に購入! 隠れた名作カーグッズだと確信した理由 この記事で分かること 雨の日に水滴が付[…]
RVパーク はこだて日吉 車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推進する「RVパーク」は、キャンピングカーやマイカーで旅行を楽しむユーザーに向けた、車中泊専用の[…]
堂々としたフラッグシップSUVに、メーカーワークスならではの「機能美」をプラス レクサスのフラッグシップSUVとして高い走破性とラグジュアリー性を兼ね備える「LX」。今回新登場したTRDの「F SPO[…]
各ブランドの「今」を体感! ステージや最新モデル試乗会も実施 「STELLANTIS ALL BRANDS DAY -JAPAN 2026-」では、フランス、イタリア、アメリカという多様な背景を持つ8[…]
- 1
- 2





























