2024年4月18日に発売されたトヨタランドクルーザー新「250シリーズ」。この2.8L直噴ターボディーゼルエンジン搭載モデルに試乗する機会に恵まれた。フィールドは愛知県にある「さなげアドベンチャーフィールド」。同時に「300シリーズ」、「70(ナナマル)シリーズ」、旧型となるランドクルーザープラド(150型)試乗し、新「250シリーズ」の走りの進化とそのポジショニングを確認した。
●文:まるも亜希子 ●写真:澤田和久/トヨタ自動車株式会社
車体が軽く感じるほどのオフロードでのキビキビさと安心感を両立。そんなバランスの良さが250シリーズの大きな魅力!
1951年の誕生以来、自動車として初めて富士山六号目への登山に成功するなど、前人未到の道なき道を切り拓いてきたランドクルーザー。多くの人々の命と暮らしを支えるという使命を背負い、「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」を開発思想に掲げ、現在では世界約170の国と地域で支持されている、まさにキング・オブ・オフロードと呼ぶに相応しいモデルとなっている。
ただし、近年はやや高級・豪華指向にシフトしていた感があり、とくに日本では「ランクルといえば高級車」というイメージを持っている人も少なくない。そうした状況に危機感を抱き、もう一度ランクルの原点に立ち返り、DNAを継承していかなければならない。そうした想いで開発が進められたのが、今回新たに誕生した「250」シリーズだ。
これにより、ランドクルーザーは役割と使命が異なる3つのシリーズに刷新された。まず、2021年8月に登場した「300」シリーズはランドクルーザーの「象徴」であり、常に最新技術を投入して本格クロカンから高級志向まで幅広いニーズに応え、どんな道でも運転しやすく疲れにくいクルマ。「70」シリーズは業務用途や過酷な環境下での使用を主体とし、どんなに過酷な道でも壊れずに帰ってこられるクルマ。そして「250」シリーズはその2つのど真ん中に置かれ、悪路走破性をベースに扱いやすさ、快適性を備えてどんな道でも誰でも運転しやすく楽しいクルマという位置付けだ。従来はこの役割をプラド(150系)が担っていたが、250シリーズはプラドの後継という形を取らず、名称をランドクルーザーに統一してランクル本来の姿に戻したとの説明を受けた。
メカニズムでは、250シリーズではランクル初採用となる技術が2点ある。オフロード性能はもちろん、オンロードにおいても性能向上につながるシステムとして、まずはこれまで本格クロカンでは難しいとされてきた、電動パワーステアリング(EPS)を採用したこと。これは路面の凹凸などによって生じるキックバックを低減し、スッキリとした扱いやすいステアリングフィールを叶え、低速時の取り回し性能もアップさせることが狙いだ。耐久性に関してはテストを重ね、将来的な自動運転との親和性の高さなども吟味しながらゴーサインを出したという。
もう1つは、スイッチ操作でフロントスタビライザーのロック/フリーを切り替えることができる、SDM(Stabilizer with Disconnection Mechanism)の採用だ。オフロードではロックをフリーにすることで、サスペンションの動きの自由度を高め、より高度な悪路走破性と乗り心地を実現。オンロードではロックすることで、高速域などでの操縦安定性を高めることができるという。
ベースとなるのは「300」シリーズと同じラダーフレーム構造のGA-Fプラットフォームで、最新の溶接技術「非線形テーラードウェルブランク」や、超高張力鋼板の配置の最適化、スポット溶接点数を160点増加するなどでフレーム剛性はプラドと比べ50%向上。車両全体の剛性としては30%の向上を実現している。
4WDシステムはセンターデファレンシャルにトルセンLSDを採用し、前後のトルク配分をコントロールするフルタイム4WD。サスペンションは新型用に新たに開発したハイマウント・ダブルウィッシュボーンをフロントに、トレーリングリンク車軸式をリヤに採用。モーグルなどではとくに肝となるタイヤの浮きづらさでは、プラドに比べて標準で10%アップ、SDM装着車はさらに10%アップとなっている。
そのほか、オフロード走行時に6つのモードから路面状況に応じた走行支援を行う、最新のマルチテレインセレクトを搭載。スイッチを押して作動させると、4つのカメラで車両周囲の状況確認を行うことができるマルチテレインモニターが画面に表示され、アンダーフロアビューなどに切り替え可能となる。後退時に後輪周辺を拡大して表示させることができる、バックアンダーフロアビューはトヨタ初採用となっている。
さて、今回の試乗はさまざまなオフロードコースが用意されている「さなげアドベンチャーフィールド」で、新型の250シリーズの2.8Lディーゼルモデルをはじめ、300シリーズ、70シリーズ、プラド(150)の4台を乗り比べることができた。
まず走らせたのはプラド。新車から9年ほど経過したモデルで、エンジンを始動すると大きなノイズが室内にも容赦なく届き、振動が伝わってくる。発進時には巨体が動き出す感覚があり、パワーの出方がマイルド。でも速度を上げていくと乗用車らしい上質感も感じられる。序盤の急な下り坂では見切りがよく、カーブでの取り回しのよさがあったが、ステアリングフィールがやや大雑把で、路面の凹凸が大きいとキックバックで意図しない方へ大きく動くことも少なくない。モーグルではストロークそのものは足りているものの、空転している車輪のリカバリーまでにやや時間を要する場面もあった。
ただ、大きな岩が積み上がる山をのぼるロックセクションでも、アクセルを一定に保って巨体を上へ上へと押し上げていくパワーに不足はなく、ライン取りさえミスしなければ一気にクリアすることもでき、さすがの実力を見せつけてくれた。
次にランクルの象徴である300シリーズ。スタートボタンを押しても、ディーゼルエンジンとは思えない静かさで、どっしりとした安定感と上質感は抜群。ボディサイズも大きいため、タイトな林道では左右の木や岩などに気を遣い、内輪差を頭に入れながら操る必要があるが、軌道予測がディスプレイに表示されるので実際の視界とディスプレイを交互に見て確認しながら進めるのは安心だ。モーグル、ロックセクション、泥ですべりやすい急な上り坂など、すべてにおいてまったく不安を感じることなく、悠々とクリアすることができた。終始、後席との会話も普通にでき、乗り心地などはモーグルでも「まるでクラウンのよう」と後席から絶賛の声が届いたほど。これならオフロードを長時間走ったとしても、ずっと快適なのではないだろうか。
続いては70シリーズ。2023年11月に国内再導入されたモデルで、デザインはあえてレトロ感を残し、メカニズムにも余計なものはいれず、極力シンプルな構造で高いオフロード性能を実現しているのが特徴だ。始動するとエンジンの存在感がしっかりあるが、出足のもたつきはなく頼もしい加速フィール。ただステアリングが重い上にいっぱいに切らないと曲がらず、路面からの入力にもそのまま応答するため、常に修正舵を入れながら切り遅れないように回し、右へ左へと忙しい。アクセルのコントロールもやや重く、ロックセクションなどでの微小な力加減には足が攣りそうになることもしばしば。モーグルでは車体の傾きと同じように身体が揺すられ、遊園地のアトラクションのごとくドタンバタンとした衝撃がくる。でもその分、うまく操作できてクリアできると面白くなり、自分が70の一部になったような一体感が味わえ、最後はとてつもない達成感。スポーツをしたあとのような、爽快な気分になれるのは70がピカイチだ。
そして最後に250シリーズは、まず発進から軽やかさがあり、肩の力を抜いてリラックスして運転できることに感心。ボンネットの中央部が低く抑えられ、両端は盛り上がっている形状で、車両感覚がつかみやすいのもその一因かもしれない。サイドのベルトラインも低く抑えられているので、すぐ横の路面やサイドミラーでリアフェンダーのあたりも確認しやすくなっている。そしてカーブでのステアリングフィールは、これがEPSと油圧の違いなのかと歴然とするほど、スルスルと扱いやすい。ねっとりとした泥の轍が大きな路面などでも、ハンドルを取られるような違和感がなく、オンロードかのように操作できる。
モーグルではSDMをフリーにしてみると、4輪がより路面に追従していける自由度の高さを実感。クリアしてすぐに急カーブといったシーンでも、忙しくステアリングを切る必要がなく、明らかに扱いやすい。車体が軽く感じるほどキビキビとしており、でも決して浮ついた挙動ではなく安心感もある。そうしたバランスの良さが250シリーズの大きな魅力だと感じた。
今回はオンロードや市街地を走る機会はなかったが、きっと250なら普段は市街地を走ることが多い人でも、取り回しがしやすく普通の乗用車と同様の感覚で運転ができ、高速道路などでのロングドライブではしっかりと安心感が手に入るという、理想的な1台になることだろう。それ以上の上質感や乗り心地の良さを重視するなら300をおすすめするが、どちらかというとカジュアルな使い方をしつつ、頼もしさや安心感を求める人には250がハマるはず。近年の「高級車」な一面しか知らなかった人たちには、「これがランクルなのか」と再び知らしめる1台になりそうだ。
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