日常生活の中で何気なく目にするガソリンスタンドですが、その屋根の形状に注目したことはあるでしょうか。ガソリンスタンドの屋根は、建築用語で「キャノピー」と呼ばれ、ほとんどが平らになっています。ごく普通の建物は、雨水の排水を考慮して傾斜が設けられていますが、いったいなぜこのような独特な形をしているのでしょうか。
●文:月刊自家用車編集部(ピーコックブルー)
ガソリンスタンドの屋根が平らな理由は複数も!
実はガソリンスタンドの屋根がほとんど平らな理由には、数多くの実用的な目的が隠されています。ガソリンスタンドの屋根「キャノピー」の最も重要な役割の一つは、給油作業中に雨水が燃料に混ざるのを防ぐことです。
通常の屋根だと滑り落ちた雨水が混入する可能性がありますが、キャノピーに溜まった雨水は、緩やかな傾斜によって中央と外側に集まっていき、配管を通じて排水されます。この工夫により、給油口付近での雨水の侵入リスクが最小限に抑えられるのです。
さらに、雪対策の観点からもキャノピーの形状の恩恵は大きく、基本的には太陽光で自然に雪が溶けるよう設計されていますが、雪の多い地域などでは融雪用ヒーターを内蔵することも少なくありません。ヒーターを利用することで、屋根への積雪や凍結を未然に防ぎ、氷柱の防止などにも貢献しています。
なお、平らなイメージの強いキャノピーですが、実はアーチ型も存在しています。
平らなキャノピーは、施工が容易で工期が約2週間と短く、コストも約500万円と比較的低いという利点があります。これに対し、アーチ型キャノピーは見た目が美しく重厚感がありますが、施工が困難で工期が約1ヶ月と長くなってしまい、費用も約1000万円かかってしまうというデメリットがあります。
これは、平らなキャノピーが単純な骨組みと平板な屋根材で組み立てられるのに対し、アーチ型のキャノピーは複雑な骨組みを屋根材で覆う必要があることが要因です。
平らなキャノピーが全国各地で採用されている理由は、こうした実用性とコスト面が大きく関係しているのです。
数少ないキャノピーの建設基準とは?
ガソリンスタンドは、ガソリンや軽油などの危険物を取り扱う施設のため、厳格な建設基準が設けられていますが、意外にもキャノピーに関する規定はほとんどありません。
キャノピーの数少ない規定としては、給油設備から60cm四方は耐油性の素材を使用することと、建築素材全体としての難燃性です。また、車両の出入りを考慮して、ガソリンスタンドの屋根の高さは5.6m以上であることが指定されています。
しかし、キャノピーの形状そのものに関する具体的な規定はないため、個性的な外観のガソリンスタンドも存在します。
たとえば和歌山県和歌山市には、クジラの模型がキャノピーを貫通しているような斬新なデザインのガソリンスタンドがあります。ほかにも円柱状や三角屋根のキャノピーなど、オーソドックスな平らの形状から大きく逸脱したデザインが少ないながらも見ることができます。
このように、ガソリンスタンドの屋根がほとんど平らである理由は、給油時の雨水侵入防止や従業員の保護、効率的な雨水排水など、多くの実用的な利点があるためです。
また平らなキャノピーは、施工の容易さとコスト面での優位性も兼ね備えており、現在のガソリンスタンドではほとんどが平らの形状を採用しています。
しかし、ときには斬新なデザインのキャノピーも見られるため、ドライブ時にはガソリンスタンドの屋根の形状に注目してみると楽しみが増えるかもしれません。
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