武器の名前? そう思ったとしても無理はない「シールドビーム」 実は旧車では必須のアイテムです【ヘッドライトの歴史について】

現在のクルマのヘッドライトの光源はLEDランプが主流となっていますが、旧車の時代は「シールドビーム」というヘッドライト関連のアイテムの存在は欠かせません。ここでは明るさの追求を課題として進化してきた自動車のヘッドライトの歴史と共に、内容を振り返ってみたいと思います。

●文:往機人

最初期のヘッドライトは、灯油を燃やすランプ式

クルマにヘッドライトが装着され出したのは1890年頃です。

初期の頃は灯油を燃やして光源としていました。

その後明るさを高めたアセチレンガスを燃料としたランプに切り替わっていきます。

それらの燃焼系の光源は明るさが足りないこともさることながら、点灯消灯の手間や、燃料漏れなどによる火災が問題になっていました。

1904年式のランチェスター(イギリス)。振動を抑えるために設計されたエンジンなど、随所に先進的な機能装備を装着したことで有名なモデル。ヘッドライトは灯油を燃料とするランプ式が採用されている。

その後、1910年頃に初めて電球式のヘッドライトが実用化されます。

当初は電力供給が不安定な面もありましたが、燃焼式よりも明るく扱いやすいことから一気に広まりました。その後しばらくは明るさや耐久性などの安定性の向上が図られて熟成が進みます。

1912年式のベンツ 14/30HP。モダンなスタイルに電気式ヘッドライトを採用したことで、ライバル社たちに大きな影響を与えたことでも有名な一台。

大きな変化があったのは1940年頃でした。

それまでは各社バラバラの筐体に電球を収めたヘッドライトを用いていましたが、アメリカで「シールドビーム」が登場して、ヘッドライトの規格化がおこなわれました。

ちなみにこの頃、欧州ではシールドビームを使わず独自の路線でヘッドライトを設計。角形などデザインの自由度を高め、その影響で角形のシールドビームの登場が促されます。

北米では1940年からシールドビームの装着が義務付けされたことで、一気にシールドビーム式の普及が進んだ歴史がある。この車両は1948年式のタッカー’48。ビック3に挑むべく設立された悲劇の自動車メーカー「タッカー社」の代表モデルとして知られている一台。

1960年代になると、光源にハロゲンガスを封入したバルブが登場します。それまでの光源はフィラメントのタングステンが蒸発してバルブの内側に付着し、次第に黒ずんでしまうのが宿命でしたが、ハロゲンガスを封入することによってその現象を抑制。結果として発酵温度が上げられ、明るさを大幅にアップすることができました。

これ以降はバルブ交換式が一般的となり、いろんな形状のヘッドライトが生み出されます。

1990年代の前半には、蛍光管内に高電圧を掛けてアーク発行させる方式の「HID」が登場します。HIDは「High Intensity Discharge」の略で、ディスチャージ、キセノンなどなど様々な呼び方があります。日本語では「高輝度放電灯」などと呼ばれたこともあります。

それまでのハロゲン比で圧倒的な明るさと独特な青白い色味、そして高い耐久性と省電力性能を備え、一気に流行が広がりました。

そして現在は、発熱が少なく省電力性能に優れたLED光源のヘッドライトが主流となっています。さらには、ハイパワーレーザーダイオードを使って遠方まで光を届けるレーザービーム式も登場しています。

まだまだヘッドライトの進化は続くようです。

「シールドビーム」とは、そもそもなんぞや?

1970年代の中盤辺りまでの旧車の顔を思い浮かべてみてください。そのほとんどが丸いヘッドライトを備えていることに気付くでしょう。

あの丸形のヘッドライトユニットが「シールドビーム」です。

「シールド」とは英語で「shield」もしくは「sealed」と書きます。意味を調べると前者は「盾、または盾のように守るもの」という解釈がまず出てきますが、ヘッドライトに盾は当てはまりませんね。

クルマの「シールドビーム」の場合は、もうひとつの解釈「遮蔽する覆いや壁、または封じ込めるもの」の意味合いが使われています。つまり何かをランプユニットに封じ込めたものというわけです。

ちなみに「ビーム」は英語で「beam」と書きます。意味は「光線,光束」というのが一般的です。
40代以上の人なら、ヒーローや巨大ロボがおでこや指先などから出す光線のことを連想するかもしれません。クルマでは前方に向けて放たれるヘッドライトの光をビームと呼びます。

1968年式の2000GT。

「シールドビーム」は1940年頃のアメリカで開発された「規格式ヘッドライト」です。それ以前は各社それぞれの設計で電球を反射板とレンズを備えた筐体に収めていました。

しかしこの方式では部品点数が多いことや電球の負担が大きいこと、整備性の問題などを抱えていました。それらの問題点を解決するために「シールドビーム」が開発されました。

1970年式のダットサン・ブルーバード。

「シールドビーム」の構造を簡単に説明しますと、円錐形の反射板の頂点部分に発光源であるフィラメントを備えています。開口部には対向車や歩行者などがまぶしくないように余計な光を屈折させてカットするレンズでフタをして、全体をガラスで密封しています。中に封じ込めているのは、フィラメントが自身の発する高い熱で劣化しないための不活性ガスです。これによってフィラメントのエネルギーが効率よくビームに変換でき、明るさも増しました。一体化とすることで整備性が増し、フィラメントの劣化問題が緩和されたことで寿命が大幅に延ばされました。

1970年式のセリカ。

このシールドビームはアメリカの生産車両に装着が義務づけられたことで一気に普及しました。そしてアメリカをターゲットとしていた日本を始めとする他国のメーカーでも採用率が高まっていき、その当時は多くの車のヘッドライトに採用されることとなりました。

規格は丸形の7インチ(約180φ)と4インチ(約100φ)が一般的に使用されていたサイズです。大きい方の7インチが2灯用で、小さい4インチは4灯用として使用されていました。当時のアメリカでは5.75インチサイズもあったようです。そして1960年代の中程には大小2サイズの角形タイプも登場します。

1989年式のユーノス・ロードスター。初代NA型はシールドビーム式ヘッドライトを採用している。

旧車らしさをキープするには必須のアイテム、復刻してくれたらなあ……

そんなシールドビームですが、今ではめったに見掛けませんね。実際には商用車などに1990年代まで採用例があったようですが、いまではほぼ絶滅してしまいました。

そのため、旧車のヘッドライトの交換用の品物が入手困難になりつつあります。

探せば海外のメーカーから細々と発売されているとの話も聞きますが、現状はそれら海外製の新品か、あるいは国内製の中古を使い回すかという選択が悩ましい状態のようです。

細部にこだわるユーザーの中には、旧車らしい表情はシールドビームでしか出せないという信念を持っている人も少なくなく、代替品の入手問題は深刻でしょう。

当時製造をしていた国内メーカーが動いてくれることを願うばかりです。

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