
「コンセプトカーがそのまま市販化されたような」という表現を見かけるが、かつて、真にデザイナーの構想がそのまま1/1に具現化したような、夢のクルマが実際した。ハンドメイドでその美しいボディを仕上げられ、最上級サルーンを超える価格で販売された、宝石のような輝きを放つ名車。初代シルビアの生き様を振り返ってみたい。
●文:月刊自家用車編集部
コンセプトカーのイノセントなデザインが、そのまま市販車として生み落された
この美しいクルマが初めてその姿を現したのは、1964年の第11回東京モーターショーの会場だった。出展車の名称は「ダットサン クーペ1500」。翌1965年に、ギリシャ神話に登場する美しい女神に由来した名称を授かって発売された初代「シルビア(CSP311型)」は、流麗で優美な国産車離れしたスタイリングのパーソナルクーペとして、市販車の中にあっても圧倒的な存在感を放った。
エッジの利いたシャープなデザインの中に流麗な曲面を多用することで、エレガントな雰囲気を醸し出す初代シルビア。
製造ラインのプレスでは到底出すことのできない優美さは、ハンドメイドならではの力感がある。
じつはこのシルビア、発売の直前まで、広く大衆車に用いられていたダットサンブランドのネーミングを冠される計画だったが、最終的に、当時は高級モデルのみに限定採用されていた日産ブランドに変更されたという。それもやはりこのスタイリングがあればこそ、といえよう。
この外観に漲る生々しい力感や優美さは、製造ラインの機械によるプレスでは到底出すことのできないもので、ボディ周囲に継ぎ目が見当たらないことからもわかるように、これらはハンドメイド、すなわち1台ずつの手作業による叩き出しで仕上げられている、まさに工芸品さながらの車体なのである。
いっぽうこの初代シルビアに搭載されたエンジンは、ショーモデルが積んでいた1.5LのG 型エンジンのボアを広げてショートストローク化したR型1.6L直4OHV。このエンジンは吸排気系形状の見直しや高圧縮比化、さらには強化型コンロッドメタルの採用などにより、90psの最高出力と13.5kg-mの最大トルクを発生。初採用されたポルシェタイプボルクリングサーボフルシンクロの4速トランスミッションと組み合わせられることにより、100マイル (165km/h)の最高速度と17 .9秒の0→400m加速という、当時の水準としては特筆ものの快足ぶりを誇っていた。
また、シャーシに視点を移すと、X型メンバーのラダーフレームにフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがリーフリジッドというサスペンション構造。そしてじつは、これらの基本メカニズムは、シルビア登場の1ヶ月後にデビューしたフェアレディ1600とまったく共通、つまりこの両者は姉妹車の関係にあったのだ。
ボディ周囲に継ぎ目が見当たらないことからもわかるように、その造りはまさに芸術品。
G型エンジンのボアを広げてショートストローク化するとともに吸排気マニホールドの形状変更、9.0の高圧縮比とSUツインキャブ、さらにはF770コンロッドメタルの採用などにより高性能化が図られた1.6LのR型エンジン。
当時のフラッグシップサルーン以上の高級クーペらしく、外観にたがわず上品でスタイリッシュなインテリア。スピードメーターは180km/hまで刻まれ、タコメーターとの間にはアナログ時計が配されている。
何よりも佇まいが雄弁にその価値を表現している名車。生産554台、孤高の元祖国産スペシャリティ
とはいえ、シルビアのスタイリングの存在感はやはり比類なきもので、元祖2ドアクーペのスペシャリティカーとして大きな注目を集めたほか、遠く海外のメディアからもそのルックスを高評価する声が聞こえてくるほどではあった。にもかかわらず、この初代シルビアがその5年間のモデルライフの間に生産されたのはわずかに554台。
その生産工程からも導かれる必然とはいえ、2人乗りの2ドアクーペに、当時の上級サルーンであったセドリックカスタム6よりもさらに20万円も高価な120万円という車両価格設定が、販売の面でもシルビアを孤高の存在にしてしまったのかもしれない。
主要諸元 ●全長×全幅×全高:3,985×1,510×1,275(mm) ● ホイールベース:2,280mm ●トレッド(前/ 後):1,270/1198mm ●車両重量:980kg ●エンジン:R型(直4OHV SUツインキャブ)1,595cc ●最高出力:66kW(90ps)/6,000rpm ●最大トルク:132Nm(13.5kgm)/4,000rpm ●サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン/半浮動リーフリジッド ●ブレーキ(前/後):ディスク/ドラム ●タイヤ(前/後):5.60-14-4PR(前後とも)
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