「佳き時代がよみがえる!これぞ王道のクラウンの走り」トヨタ・クラウンエステート 公道試乗

1955年の初代から数えて、ちょうど2025年で70周年を迎えたトヨタ・クラウン。15代までの「クラウン=日本を代表するセダン」という固定観念を打ち破り、16代目は多種多様な4タイプで登場することが発表され、大きな話題となったことはご存知のとおりだが、その現行世代の最後に投入されるのが、このクラウンエステートだ。ひさびさに登場するワゴンのクラウンということもあって、待っていたユーザーも多いと聞くだけに、その走りや使い勝手は、どのようなものに仕上がっていたのだろうか? 

●文:まるも亜希子 ●写真:澤田和久/奥隅圭之/編集部

18年ぶりに復活した“クラウンワゴン”

2022年、クラウン(クロスオーバー)から始まり、セダン、スポーツと続いていよいよ最後の4タイプ目となるエステートが登場した。これまでにも、クラウンには1970年代の60系にラインアップしていた「クラウンバン」や「クラウンカスタム」、110系の「クラウンワゴン」など、ステーションワゴンタイプのモデルは存在していたが、11代目クラウンの「エステート」が2007年に生産終了となってからしばらく姿を消していた。それから18年ぶりになる2025年に、自由な発想と先進技術によって、まったく新しい令和のクラウン(エステート)が誕生することとなったのだ。

クラウンエステートは、コンセプトを「大人のアクティブキャビン」と定め、多彩にスマートに使える荷室を持つ機能性を重視しながらも、クラウンらしい上質・洗練・余裕を持つモデル。長時間でも疲れない移動時間の質を高めるワゴンとSUVの融合を目指して開発されたことが特徴だ。

バンパーに埋め込まれるようにヘッドランプを配したキレのいいフロントマスクが印象的。

ルーフラインは水平を基調にリヤエンドへと緩やかな曲面を描くが、キャビン後半部の絞り込みは控えめ。

GA-Kプラットフォームを使った全長4930mm、全幅1880mm、全高1625mmのボディは伸びやかなルーフラインがリヤまでしっかりと貫き、カジュアルになりすぎない落ち着きを感じさせる一方、シャープなショルダーラインが新しいクラウンに通じるダイナミックさやスポーティさを演出するデザインとなっている。

バンパー一体型のフロントグリルはボディ同色で、上下に変化するメッシュパターンが個性的。フロントには水平基調のデイライトランプ、リヤには横一文字のコンビネーションランプを採用し、ワイド感を高めて堂々とした存在感を感じさせる。

前席は「ドライバー」後席&荷室は「ファミリー」と、キャビンの使い分けが巧み

インテリアは、クラウンシリーズに共通するアイランドアーキテクチャーを採用。運転席と助手席それぞれの乗員をぐるりと包み込み、ディスプレイやスイッチなどの機能を集約して島(アイランド)のようにレイアウトすることで、運転席では視線移動が少なく運転に集中でき、その他の席では長距離移動も苦にならない快適な空間を意識している。

メーターパネルやステアリング、スイッチも含めた操作系は、現行クラウンユーザーにとって馴染みのあるレイアウト。

全席特等席と評するだけに、前席も後席もゆとりのレイアウト。撮影車のRS(PHEV)の本革シートカラーは、深みのあるグレイッシュブルーが組み合わされる。

そしてエステートのキモといえるのが荷室だ。バックドアを開けた瞬間に、広さと機能性を感じさせる空間が出来上がっている。荷物を積むだけでなく、停車時に休憩したりペットを遊ばせたり、自由な発想で楽しんでほしいという想いを込め、5人乗車時でも570Lの大容量を誇っている。

通常時でも荷室奥行きは1070mmと十分な余裕が与えられているが、シート格納時には最大2000mmまで拡大。

感心させられるのは格納時の床面が完全にフラットになっていること。高めの荷室高(最小690mm/最大780mm)と相まって、レジャーシーンでもかなり使えそうだ。

フラットなフロアは地上からの高さも低めに抑えられており、左端を見るとクラウンマークがキュートな三角形のプレートがはめ込んであることに気づく。実はこれは、取り外すと折りたたみテーブルになる専用装備で、はき出し口をめくると引き出し式のデッキチェアが装備されている。景色のいい場所などでサッと引き出して、腰掛けながらコーヒーを飲んだり、これまでのクラウンのイメージにはなかったアクティブな使い方が広がりそうな粋な装備だ。

荷室左端にすっきりとセットされる折りたたみテーブル。

ゲート開口部後端に引き出し式のデッキチェアを配置。車中泊や休憩時を想定したアイテムのひとつ。

さらに後席は簡単に折りたたむことができ、最大で1470Lの大空間が生まれる。走っても停まってもさまざまな用途に応えてくれるところがエステートの大きな魅力だ。

しっかりと煮詰められた走行性能。ワゴンライクだけが武器じゃない

パワートレーンは2.5LのHEV(ハイブリッド)とPHEV(プラグインハイブリッド)が用意される。基本的なシステムは先行するクロスオーバー(HEV)やスポーツ(HEV&PHEV)と変わらないが、フロントモーターの出力は約5割向上させており、荷物を多く積んだ状態での走りにもストレスがないよう考えられている。

RSのパワートレーンは、2.5ℓ直4エンジンに駆動モーター+大容量バッテリーを組み合わせた、トヨタPHEVの最新システムを搭載。リヤモーターを備える電動AWDモデルで、エンジン+モーターを加えたシステム最高出力は225kWと、ひと昔前の高性能スポーツを凌駕するスペックが与えられている。

上位設定のPHEVはスポーツと同様に、大容量リチウムイオンバッテリーを床下に配置しており、純電動走行での航続可能距離は89km(WLTCモード)と、日常の買い物など多くのシーンでガソリンを使わずに走るBEV的なふるまいも可能だ。

PHEVに備わる充電イントレットは、通常充電のほかCHAdeMO規格の急速充電にも対応。一充電走行距離は89kmと、日々の走行をEV領域だけで賄うことも可能。

試乗時はバッテリー残量が70%程度の状態だったが、走り出しからモーターによる軽やかさとなめらかさが感じられる加速フィール。急な上り坂もスーッと余裕たっぷりで駆け上がり、落ち着きのあるステアリングフィールと相まって、ほっとリラックスした気分に包まれる。

剛性感がありながらも路面への当たりにはソフトさも感じさせる乗り味に浸っているうちに、幼い頃に叔父の運転でクラウンの後席に乗せてもらった、安心で幸福なドライブの記憶が呼び覚まされた。何もかもが新しいクラウンのはずなのに、どこか郷愁を誘うような乗り味を感じたのは、このエステートが初めてだ。

最新制御が用いられたサスチューンが、操舵感と乗り心地を高いレベルで両立

このように感じるのは、しっかりとした操舵感や安定感、上質で疲れにくい乗り心地を両立するようにセットされたなサスペンションが効いているようだ。走りの質を高める目玉のひとつであるDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)は、ほかのタイプよりもリヤがより動く方向に、エステート独自のセッティングを施されていて、さらに電子制御サスペンションのAVSにも減衰力向上と摩擦低減の設定をプラスされている。とくに後席の乗り心地を重視した「リヤコンフォートモード」を選択すると、ボディのカタマリ感が一段上がったようなフラット感のある乗り味が強まる。

主要諸元(クラウンエステート RS)
●全長×全幅×全高:4930×1880×1625mm ●ホイールベース:2850mm ●車両重量:2080kg ●乗車定員:5名 ●パワーユニット:2487cc直4DOHC(177ps/22.3kg-m)+フロントモーター(134kW/270Nm)+リヤモーター(40kW/121Nm) システム最高出力:225kW(306PS)●トランスミッション:電気式CVT ●駆動方式:E-Four ●WLTCモード総合燃費:20.0km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)/マルチリンク式(R) ●タイヤ:235/45R21 

主要諸元(クラウンエステート Z)
●全長×全幅×全高:4930×1880×1625mm ●ホイールベース:2850mm ●車両重量:1890kg ●乗車定員:5名 ●パワーユニット:2487cc直4DOHC(190ps/24.1kg-m)+フロントモーター(134kW/270Nm)+リヤモーター(40kW/121Nm)システム最高出力:179kW(243PS) ●トランスミッション:電気式CVT ●駆動方式:E-Four ●WLTCモード総合燃費:20.3km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)/マルチリンク式(R) ●タイヤ:235/45R21 

今回はクロスオーバーとスポーツ、そしてセダンとも乗り比べることができたが、FRセダンらしいハンドリングがもたらす高い走行性能が印象的なセダン、上質なスニーカー感覚でキビキビとした走りが楽しめるスポーツ、そしてそのちょうど中間といったバランスの良さが際立つクロスオーバーと、それぞれにしっかりとした個性を感じるなかで、今回の主役であるエステートは、アクティブに使えて従来のクラウンらしい乗り味がとても印象的だった。

4つのクラウンは、こんなにもそれぞれの個性が確立していることにあらためて驚かされたわけで、令和のクラウンは、型にハマってもハマらなくても、自分らしさを全開にできる懐の深いクルマになっていることを確認できたのだ。

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