
トヨタは4月以降に、「GRヤリス」「GRカローラ」のオーナーに工場見学を予定している。それに先駆けて、その見学会をメディア向け先行取材として体験することができた。その驚きの内容をレポートする。
●文:鈴木ケンイチ ●写真:トヨタ自動車株式会社
トヨタ初の「スポーツカー専用」の生産ライン
トヨタのスポーツカーとしてトヨタ自身が生産するのが「GRヤリス」「GRカローラ」、そして「LBX MORIZO RR」だ。この3台は愛知県豊田市にある、トヨタの元町工場内に設けられたトヨタ初のスポーツカー専用工場「GRファクトリー」にて生産されている。元町工場は、1959年より稼働するトヨタの国内の主力工場であり、トヨタの中でも「LFA」や「MIRAI」、「センチュリー」など、先進的なクルマを数多く手がけている。
愛知県豊田市にある元町工場の中に「GRファクトリー」は設けられている。
そんな中に設けられた「GRファクトリー」の生産の様子を、オーナーに向けて披露する。生産される「GRヤリス」「GRカローラ」のオーナーならば見学は無料であり、予約はオーナー向けサイト(MY TOYOTAなど)から行う。受付は1日10組限定としている。
「GRファクトリー」の最大の特徴は、ベルトコンベアがなく、かわりにAGV(自動搬送機)が使われていることだ。
見学の内容としては、「ボデー工程(トヨタはボディではなく、ボデーと表示する)」、「組み立て工程」、「検査工程」の3つ。バラバラだった部品が溶接されてボディになっていく様子、ボディに窓や屋根、足回りなどの部品が取り付けられていく様子、最後にアライメント測定する様子などが見学コースに含まれている。
手間を惜しまない生産工程、生産数は1日あたり100台
「GRファクトリー」の様子で、最も驚いたのが“ベルトコンベアがない”ということ。車はAGV(自動搬送機)の上に載っており、組み立て作業などを行うときは停止しているのだ。しかも、長いときは9分間も止まっている。だから、普通の生産ラインと比べると、非常に静かというか、動きがない。一瞬、これは休憩中? とまで思ったほど、これまで見た生産ラインとは異なる雰囲気であったのだ。
「ボデー工程」の最初は、フロントフロアとリアフロアを溶接し、アンダーボディを作り上げることだ。
この「GRファクトリー」の方式は、通常のベルトコンベア方式と比べると、時間と手間がかかるけれど、その分、高精度な製品が作れるという。また、少量多種生産であり、新技術を多数採用するスポーツカー生産に対して、フレキシブルに対応できるというのもメリットだとか。ちなみに、生産数は1日あたり100台であるという。
「ボデー工程」においてクルマのボディを溶接するのはロボットの仕事となる。約300点のスポット溶接の後に、増し打ちが行われる。
こだわり抜いた工程、GRが特別な理由がわかる
他にも驚いたのが、丁寧&高精度のために採用された、こだわりの工程が数多くあったことだ。「ボデー工程」では、溶接されたホワイトボディに対して、「ボデー精密検査」が行われていた。3次元測定器でボディを計測して、それに合う部品を取り付ける。部品の寸法もあらかじめ測定しており、これによりコンマ数mmレベルでの精度が高まるという。
GRモデルは、通常モデルよりも数百から千数百ものスポット溶接が追加されている。
組み立て工程でのこだわりは、足回り部品の取り付けだ。通常は、ラインの中盤で足回り部品を取り付けるが、他の部品による影響を避けるために、「GRファクトリー」では最後に取り付ける。しかも、ボディを吊り下げるのではなく、リフトアップさせて足回りをセットした後、ボディを下ろして重力がかかった状態で組み付ける。これも精度を高めるための工夫なのだ。
出来上がったボディに対して3次元測定器で、足回りの取り付け部分の基準点からのズレを計測する。
最後の検査にもこだわりがある。通常は1回で済ますアライメント測定は、「測定・調整」「再測定・調整」「最後に確認の測定」と3回も測定を行う。さらにテストコースでの試験走行は、抜き出しではなく、すべてのクルマに対して実施する。工場の横にある3kmのコースで、最高速度120km/hで走行し、直進安定性やレーンチェンジの操縦安定性、ブレーキ時の挙動や騒音をチェックするのだ。
組み立て工程でもベルトコンベアではなくAGVを使用。作業中は停止しているのが特徴だ。
愛車がどのようにして作られているのかを知るのは、なかなかできないもの。しかも、その生産は、他の車種とは異なるこだわりが数多くあることを知ることができる。そんなめったになく、そして愛車への愛がさらに深くなること間違いなしの体験ができるのだ。「GRヤリス」「GRカローラ」のオーナーであれば、ぜひとも見学参加を検討すべきだろう。長く記憶に残る1日となるはずだ。
窓ガラスの取り付けは、作業員がひとつずつ手作業で接着剤を塗布する。人による作業なので、複数車種にフレキシブルに対応できる。
組み立て工程において、足回りの取り付けを最後にすることで、足回りの部品への悪影響を抑えている。
検査工程におけるアライメント調整は、通常モデルよりも多い3回の測定を実施する。
完成した後は、工場の横にある全長3kmのテストコースで、すべての車両が走行試験を実施する。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(トヨタ)
コンパクトボディに快適空間を凝縮。夫婦旅に最適な「北斗 対座モデル」 キャンピングカー選びにおいて重要なのは、自分たちのライフスタイルに合った1台を見つけること。家族4人でワイワイ出かけたい人もいれば[…]
最後のFRレイアウトとなった4代目のカローラ 「カローラ」として4代目になる「E70系」シリーズは1979年に発売されました。 初代の時からニーズに細かく合わせて、セダン/クーペ/バン/ワゴンと多くの[…]
初代センチュリー(VG20) 政財界のVIPにより認知度を上げていった国産ショーファーカー ショーファードリブン。後席に乗る主役のために運転手つきで運用される大型セダンは、専属の御者が操る貴族の自家用[…]
ミニバンの可能性を拡張する、スマートなキャンピングカー「DAYs」 街乗りにもキャンプにも使える“ちょうどいい”サイズ感と、独自開発の回転シートやロフト空間といった遊び心ある装備。これまでのキャンピン[…]
タウンエースベースが生む、扱いやすさと拡張性 「Plaything Ace SP」のベース車両は、トヨタ・タウンエース。取り回しの良さと荷室の広さを両立したミドルサイズバンで、日常使いでも不便を感じに[…]
最新の関連記事(ニュース)
老舗ビルダーのハンドクラフト技術が注がれた「旅を芸術に変える」キャンピングカー 「Pablo」は、ピカソの自由な発想と加藤モーターのハンドクラフト技術を融合させ、「走るキャンバス」として車体全体をデザ[…]
3列シート7人乗りを実現したミッドサイズSUV インドネシアのミツビシ・モーターズ・クラマ・ユダ・インドネシアで生産される新型デスティネーターは、「The Confidence Booster for[…]
最も危険な凍結路面での安心ドライブをサポート iceGUARD 8は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を初採用したモデル。冬テックは、冬の路面との「接触」を最大化する技術で、「接触の密度(氷と[…]
高出力モーターと新AWD制御で意のままの走りを実現 アンチャーテッドはスバルグローバルバッテリーEVラインナップの第3弾となるモデル。発表済みのソルテラ改良モデル、新型トレイルシーカーに続くスバルBE[…]
家族連れにも楽しんでもらえる、多くのコンテンツを用意 「フォーラムエイト・ラリージャパン 2025」は、ラリー競技の最高峰であるFIA世界ラリー選手権のシリーズ戦の一つである世界大会で、全14戦となる[…]
人気記事ランキング(全体)
ポップアップで広がる空の部屋。家族旅を快適にするミニバンキャンパー「セレナ P-SV」 ミニバンの実用性とキャンピングカーの機能性。その両方をバランスよく融合させたのが、日産ピーズクラフトが手がける「[…]
侮るなかれ、さまざまな効果が得られる空力パーツ 先日、知り合いからユニークなカーグッズを紹介された。細長いプラスチックパーツが12個並べられているパッケージ。一見すると、どんな用途でどのように使用する[…]
頑健だが「色気のない三菱車」。そんなイメージを覆して大ヒット車に 三菱自動車工業という会社が誕生したのは、1970年のこと。ただし、その前身である三菱重工の歴史を遡れば、坂本龍馬が作った海援隊にルーツ[…]
コンパクトボディに快適空間を凝縮。夫婦旅に最適な「北斗 対座モデル」 キャンピングカー選びにおいて重要なのは、自分たちのライフスタイルに合った1台を見つけること。家族4人でワイワイ出かけたい人もいれば[…]
トラブル時にも対応可能。万が一に備えて安心ドライブ 車に乗っていると、どうしても避けられれないトラブルに遭遇することがある。どれだけ用心していても、不可抗力で発生することもある。例えば、釘やネジを踏ん[…]
最新の投稿記事(全体)
老舗ビルダーのハンドクラフト技術が注がれた「旅を芸術に変える」キャンピングカー 「Pablo」は、ピカソの自由な発想と加藤モーターのハンドクラフト技術を融合させ、「走るキャンバス」として車体全体をデザ[…]
ドレスアップ&実用性に優れる「らしい」アイテムをセットで提供 キャラバン用として導入される「SOTOASOBIパッケージ」は、アウトドアシーンで映えるデザインと機能性を両立させているアクセサリーパッケ[…]
3列シート7人乗りを実現したミッドサイズSUV インドネシアのミツビシ・モーターズ・クラマ・ユダ・インドネシアで生産される新型デスティネーターは、「The Confidence Booster for[…]
最も危険な凍結路面での安心ドライブをサポート iceGUARD 8は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を初採用したモデル。冬テックは、冬の路面との「接触」を最大化する技術で、「接触の密度(氷と[…]
高出力モーターと新AWD制御で意のままの走りを実現 アンチャーテッドはスバルグローバルバッテリーEVラインナップの第3弾となるモデル。発表済みのソルテラ改良モデル、新型トレイルシーカーに続くスバルBE[…]
- 1
- 2