
“ハイソカー”という言葉に聞き覚えがあるという人は、おそらく50歳以上でしょう。日本国内が浮かれまくっていた「バブル時代」を象徴する言葉でもあります。今では完全に死語となってしまった言葉ですが、聞き覚えがあるという人なら、その言葉に触発されて印象に残っている車種を思い浮かべたのではないでしょうか。ここでは、「日産のハイソカーと言えば?」という問いに最も該当するであろう、2代目「レパード」についてちょっと話していきたいと思います。
●文:月刊自家用車編集部(往機人)
初代レパードは、日本国内向けの高級GTとして誕生
1986年に発売された「F31系」のレパードは、「レパード」としては2代目のモデルになります。
初代の「レパード」は、北米市場向けモデルの「マキシマ」をベースに日本国内向けの高級GTとして、さらに車格を上げる変更が加えられたもので、系譜でいうと「ブルーバード系」でした。
この初代「レパード」は、日産の本格スペシャリティカーとして、世界初の先進装備や、当時トレンドの先端だった手法を用いたスタイリングを引っ提げてデビューしたため、業界へのインパクトは大きく、話題性もあってスマッシュヒットを記録しました。
初代は後発のソアラに追い抜かれ、悔しい思いを味わうことに
しかし、1年遅れて発売された「トヨタ」の最上級スペシャリティカー「ソアラ」の登場で事態は一変します。レパードよりさらに進んだ最先端の装備を実装し、エンジンも高性能な新開発のツインカムをラインナップ、デザインもスマートで高級感漂うもので、全方位でレパードをしのいでいました。
販売面ではその実力差が結果に表れ、初代「レパード」は「ソアラ」の後塵を拝します。
その苦い成績を払拭すべく、「打倒、ソアラ!」を目標に開発されたのがこの2代目「レパード」です。
ライバルはソアラのみと、ラインナップは2ドアクーペのみとされました。初代で泣きどころとなったエンジンは、高級車種用として新開発されたV型6気筒の「VG系」エンジンを全てのグレードに採用し、「技術の日産」の面目躍如を図りました。ちなみに最上位モデルの「VG30DE型」は3リッターのNAで185PSを発揮しています。
1986年式 レパード アルティア
走りの良さをアピールするため、足まわりにも先進技術を投入。最上位グレードには路面状況に応じてダンパーの特性を変化させる「スーパーソニックサスペンション」を採用しています。
エクステリアも初代より洗練され、スマートさの中に無骨さを潜ませたようなデザインとなり、スタイリッシュさが大きく向上しました。
VG30DE型エンジン
「VSソアラ」を明確に打ち出した2代目は、まさにバブル時代の申し子
2代目「レパード」の開発段階では、日本の産業は少し下り坂に差し掛かっていましたが、投資ブームの影響もあって、世間の景気感覚は上向いていました。ゴルフブームが起こり、ゴルフ場の会員権が高騰し、若者が「DCブランド」の服を追い求めたり、TVのバラエティ番組では“女子大生”が引っ張りだこになったりして、気分が明るく高揚していた時期です。
その追い風もあって、自動車業界は高級車への注目が高まっていた時期でした。都市部では輸入車が持て囃され、メルセデスベンツの「190E」やBMWの「3シリーズ」が「六本木のカローラ」と呼ばれるほど溢れかえっていました。
2代目「レパード」と2代目「ソアラ」は、そんな世間が浮かれていた時期に投入されたクルマです。夜の繁華街や公園などでは“ナンパ待ち”で車が列を作るシーンが各地で見られ、“1軍”の女子には見栄えの良いスタイリッシュな高級輸入車しか相手にされない、という状況でしたが、その中に国産車で食い込める数少ない存在が、「ソアラ」や「レパード」のような“ハイソカー”だったのです。
2代目で大幅に進化を果たした「レパード」は、ようやくライバルの「ソアラ」に並んだ…、かと思われましたが、「ソアラ」の進化の幅は「レパード」をさらに引き離すものでした。
フラッシュサーフェース化で空力特性を大きく向上させるとともにスタイリッシュさと高級感に磨きを掛け、内装もゴージャスさをアップ。エンジン性能も上回り、足まわりでは電子制御を導入などなど、
ソアラは初代に続いて2代目でも大きく羽ばたいて、販売面では「レパード」の3万5千台に対して「ソアラ」は13万台以上と圧倒的な差を見せつける結果となり、もはやライバルと呼ぶこともはばかられる関係になってしまいます。
その惨敗の結果が響いたのか否か、ベースのスカイラインが戦闘的な性格にシフトしたこともあり、後継の3代目レパードは、ガラッと路線を変えて「シーマ」の弟分的なポジションになってしまいます。もはや2代目の面影は見付けられません。
刑事ドラマ「あぶない刑事」で主役車に大抜擢!コアな人気モノに
このように販売面では圧倒的な大差を付けられてしまった2代目「レパード」ですが、世間の話題としては善戦した瞬間が訪れました。後に刑事ドラマの大ブームを巻き起こすヒット作「あぶない刑事」での主役車に抜擢され、マニア的な人気を獲得したのです。
都市部よりもちょっとワイルドな雰囲気がある横浜を舞台にした、破天荒だけどスタイリッシュな2人の刑事が主役のこのドラマのカラーに、レースで奮戦するハードなイメージの強い「日産」の“ハイソカー”「レパード」がバッチリとマッチング。ドラマが進むにつれて、「レパード」の人気もどんどん高まっていきました。王者ソアラに対して、まさに面目躍如といっていいでしょう。
柴田恭兵が演じる“ユージ”の乗る車輌は、テレビシリーズの初期が「VG30DE」型エンジンを搭載した前期型の最上級グレード「アルティマ」グレードで、この代がいちばん印象に残っているという人は多いでしょう。
型式は「UF31」。カラーは上部がゴールド、下部がシルバーのツートン。当時発売されたばかりの自動車電話が装備され、トランクリッドには専用のアンテナが装着されていたシーンもあったようです。
劇中車輌のナンバーは「横浜33 も54-17」で、ブーム当時はこのナンバーを希望するユーザーが多かったそうで、後のシリーズや映画版では、前期または後期モデルのダークブルーの車輌が使われたりしていました。
最終的には2000年に販売終了した「JY33系」まで4代続いた「日産・レパード」ですが、今でも根強い人気を持ち続けているのはこの2代目「F31系」だけと言っていいでしょう。この「F31系」の「レパード」を専門に扱う旧車ショップが存在するということからもその人気が窺えます。
いまでも「あぶない刑事」を見ると、「レパード、やっぱカッコいいなあ〜」なんて具合に、購入欲が少し刺激されてしまうのは、私だけではないはずです。
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