
プロユースの世界はコスパに極めて厳しい。低価格であれば良いという単純なものではなく、耐久性なども含めた費用対効果が重要となる。そんな厳しい世界で定評を得ているのがハイエースだ。そんな背景を考慮して、JMS2025で展示されていた「ハイエースコンセプト」を見た第一印象は、次期型は従来のハイエースの価値観を激変させるモデルになりそう、ということが見えてきたのだ。
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久
キャブオーバー から決別することで、ハイエースの運転席はどう変わる?
まず、注目して欲しいのがプラットフォームの変化ぶり。お披露目されたハイエースコンセプトは、前輪の位置が運転席よりも前にある、新規開発されたFF系プラットフォームを採用している。
5代目となる現行型ハイエース(200系)は、パワートレーンを前席下に置くいわゆるキャブオーバーレイアウトで、2WDは後輪駆動を採用していたが、それには理由があって、そもそも後輪荷重が大きくなる貨物積載を前提とした商用バンは、発進や登坂性能の面から2WDを後輪駆動とするのが一般的。
エンジンを前におくFF化により、低床構造やキャビンまわりの余裕を稼げるメリットは大きいだろうが、これまでのハイエース既存の常識からすると、FFプラットフォームでプロユースを納得させられるか、少々不安になってしまう。
TMSのトヨタブースで説明員にそのあたりのことを尋ねたところ、ハイエースをヘビーに使うユーザーのほとんどは4WDを選択しているため、「タフな踏破性を得られる4WDがあれば、十分に納得してもらえる」というのだ。
今回お目見えしたハイエース コンセプトは、現行300系の面影もない完全新規のモデル。プレーンなボディが印象的で、同時にデビューした「KAYOIBAKO」と同系統のデザインを採用している。
また前席の乗降性の向上も、わかりやすいメリットのひとつ。
ハイエースコンセプトは、一般的な乗用車ほどではないものの、座面高はミニバンと比較しても遜色ないレベルとなっていて、現行型よりも乗り降りのアクセスがしやすくなっている。
ただ、ハイエース乗りの多くはキャブオーバー車独特の運転感覚も好んでいるはず。タイヤの位置が前方に移動したことによる運転感覚の変化がどう受け止められるのだろうか? このあたりは大きな注目点になるだろう。
多様なパワートレーンに対応する次世代の働くクルマのデザインを示唆するものに留まっているが、FF化により床面がフラットになり、乗降性が向上していることは明らか。展示車はピラーレス構造だが、市販モデルではピラー構造になる可能性が高い。
なぜバッテリーEVは、用意されないのか?
そして一番のアドバンテージといえるのが、多様なパワートレーンへの対応できるようになること。
カローラコンセプトの設計にも盛り込まれているマルチパスウェイ展開が次期ハイエースにも盛り込まれ、ICEV(内燃機)、HEV(ハイブリッド)、PHEV(プラグインハイブリッド)、FCEV(水素燃料電池)の4タイプのパワートレーンの設定を予定しているとのこと。
次世代のエコパワートレーンの代表格であるBEV(バッテリー)の設定がないのは少々不思議だったが、この点については、電力インフラが整った仕向け地だけならばともかく、世界的はそうでない地域が多数であり、実効性を考えるとBEVは「時期尚早」と判断しているという。
ただ個人的には、充電時間やバッテリーの重量増によるデメリットが「プロユース」に不向きということも、BEVを設定していない大きな理由と感じている。
実際、ハイエースコンセプトへの搭載を検討している4つのパワートレーンは、いずれも燃料の充填時間が短く、重量増もBEVに比べると少ないと考えられる。手間がかからないことや、タイヤやサスペンションなどの消耗品の劣化が遅くなることは、仕事のアシとして選ばれるクルマにはとても重要なことだろう。
コンセプト段階ゆえに、インパネはデジタル表示が用いられるもののシンプルなレイアウト。
ハイエースHEV/PHEV導入で、コスパの良さを追求
また、運転コストの問題も見逃せない。
現行型ハイエースに設定されるパワートレーンは、ワゴンがガソリン仕様のみ、バンはガソリンとディーゼルの構成になる。
現行の2.7LガソリンワゴンモデルのWLTC燃費は8.8km/L、最も仕事車として活躍しているハイエースバンのディーゼル車は12.4km/Lになるが、車両重量が200kg近く重いアルファードやヴェルファイアのHEVモデルは17.7km/Lと、乱暴な計算でもHEVを導入することで燃料費が安くなる。ガソリン車ならば半減といっていいレベル、ガソリン車よりも経済的なディーゼル車と比べても、ランニングコストの削減は大いに期待できる。
また、HEVやPHEV、FCEVであれば、外部への給電機能も備わるはずだから、電力を要する仕事現場では、発電機の携帯も不要になるかもしれない。
ちなみにベーシックな仕様となるICEVに関しても、新プラットフォームの導入とともに一新される可能性が高く、燃費や環境性能に優れたエンジンが導入されることで、車両価格重視の選択でも、新型の恩恵は十分感じることができそう。
次期ハイエースは「働くクルマ」から「遊べるクルマ」へと進化
ハイエースの使い方では、荷室に工具棚や架台を組み込むなどのカスタマイズを施すユーザーも少なくなく、それらの架装を移植できるかどうかも開発での要点のひとつ。
もちろん、新型はそんな部分にも対応した設計であり、救急車用途も設計に盛り込まれているとのこと。また、前席からフラットになる低床構造は、キャンピングカーのベース車としての適性も高そう。
会場でお披露目されたハイエースコンセプトを見る限り、新型プラットフォームの導入と多様なパワートレーン設定は、ハイエースの可能性を大きく拡大するのは間違いない。
購入を検討するユーザー層は、現行型以上に広がることも間違いなく、特に積載性などのキャビン実用性や、アルファードやヴェルファイア以上の広さを求めているユーザーにとっては必見の一台、「働くクルマ」と「遊べるクルマ」、どちらの視点でも魅力的なモデルとなるはずだ。
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