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対米向けに開発されたセリカXX(北米ではセリカ・スープラ)だが、先行発売された日本で予想外の人気を博す。月販目標1500台にもかかわらず、受注は半年で1万5000台を超えている。そんなXXの成功は、その後のソアラ開発の推進力にもなったという。国内でもスープラを名乗った3代目からは、セリカとの関係に終止符がうたれ、トヨタのフラッグシップスポーツとして、より高性能/ハイパワーに向かっていった。
●文:横田晃
初代セリカXX(A40/50)
2代目セリカLBをベースにロングノーズ化した初代XX。全長はセリカより270 mm長い。後期型はリヤサスをリジッドから独立式に変更、型式名はA50に変わった。XXは成人指定を連想させると、アメリカではスープラ(ラテン語で〝超えて〟の意)と命名される。
セリカXX2800G(1980年式)
●全長×全幅×全高:4600mm×1650mm×1310mm●ホイールベース:2630mm●車両重量:1235kg●乗車定員:5名●エンジン(5M-EU型):直列6気筒OHC2759cc ●最高出力:145PS/5000rpm●最大トルク:23.5kg・m/4000rpm●燃料タンク容量:61L●10モード燃費:8.7km/L●最小回転半径:5.3m●トランスミッション:前進5段、後進1段●サスペンション(前/後):ストラット式独立/セミトレーリングアーム式独立●タイヤ:195/70HR14 ◎新車当時価格(東京地区):193万6900円
Zに対抗できる6気筒エンジン車、それがなによりも求められた
アメリカという国の偉大なところは、良いものを良いとフラットに認め、優れた仕事に惜しみない喝采を送る精神だ。それは貧しい敗戦国だった日本にとっては、本当に幸運だったのだと思う。自動車においてそれを体現していたのが、1969年に誕生したフェアレディZの成功だ。
自動車王国、アメリカの市場に1950年代に挑んだクラウンやダットサンは、稚拙な出来栄えで早々に撤退を余儀なくされた。だが、それからわずか10年後には、カローラやサニーが経済的な実用小型車としてフェアに認められる。そして美しいフォルムに必要十分なパワーと機敏な走りを備えて海を渡った〝Z(ズィー)カー〟に、彼らは優れたスポーツカーとして大喝采を送った。
日本の自動車メーカー各社が、こぞってZの後を追ったのは言うまでもない。1977年のモーターショーに出展され、翌年にデビューしたセリカXXも、そのひとつだ。1970年に登場した初代セリカとそのハッチバック版であるLB(エルビー)も、北米市場では一定の支持を得ていたが、現地のディーラーからは不満が寄せられていた。Zに対抗できる6気筒エンジン車をよこせ、という声だ。
フェアレディZとは路線の違いは明らか、正反対のスペシャリティカーに
それに応えるべくトヨタは、よりアメリカの市場で売れるクルマを目指して、2代目セリカLBをカリフォルニアのスタジオでデザイン。もちろん6気筒エンジンも搭載した。クーペも用意される日本向けの4気筒セリカは、その縮小版とされたのだ。
とは言っても、日本ではセリカXX、アメリカではセリカ・スープラの名で発売されたそれは、商品企画の方向としてはフェアレディZとは別物のモデルだった。
4輪ストラット式の独立サスペンションを備えた専用シャシーを持つZに対して、スープラはあくまでも乗用車のシャシーから生まれたスペシャリティカー。初代Zの2305mmという短いホイールベースに対して、スープラは2630mmもある。リヤサスペンションも当初は固定軸の4リンク式だったのだから、Zと本気で勝負できるハンドリングは期待できなかった。
その代わりに付け加えられたのは、Zには望めない十分な広さの後席を備えて積載性も確保した、快適なツアラーの性格だった。Zにはないパワーステアリングも備えた豪華なスープラは、Zとは異なるファンを獲得していった。ただし、その方向性は当時の日本では、理解されたとは言い難かった。アメリカに媚びた2代目セリカとXXのシリーズは、初代ほどのヒットにはならなかったのだ。
2代目XX(スープラ)は、世界に通用するスポーツカーが造れるという日本メーカーの実力を示した
日本車は1970年代に厳しい排ガス規制をいち早くクリアした高い技術と品質を、世界の市場で認められた。その一方で、1980年代になるとアメリカとの貿易摩擦の槍玉にあげられ、円高の進行もあって、メーカーは一台当たりの利益がより高い、付加価値の高い商品企画を目指すようになっていった。
2代目セリカXX(A60)
初代に引き続きセリカLBのボディをモディファイしたXX。セリカのポップアップ式ヘッドランプは、XXではリトラクタブル式に変更。ちなみにCd値はセリカLBが0.34とXXの0.35を上回っている。ドアミラーの採用は1983年のマイナーチェンジ以降。
それを受けて、1981年に誕生した2代目スープラ/XXも、さらなる高級化、高性能化を指向することになる。迷うことなくその方向に進めた背景にあったのが、同じシャシーから生まれた新型車、ソアラの存在だ。初代と同様に、2代目スープラ/XXもスポーツカー専用の足回りではなかったが、初代の手応えから北米市場ではまとまった販売台数が見込めた。
セリカXX2800GT(1981年式)
●全長×全幅×全高:4660mm×1685mm×1315mm●ホイールベース:2615mm●車両重量:1250kg●乗車定員:5名●エンジン(5M-GEU型):直列6気筒DOHC2759cc●最高出力:170PS/5600rpm●最大トルク:24.0kg・m/4400rpm●燃料タンク容量:61L●10モード燃費:8.2km/L●最小回転半径:5.4m●トランスミッション:OD付き4速オートマチック ●サスペンション(前/後): ストラット式独立/セミトレーリングアーム式独立●タイヤ:195/70HR14(ミシュラン)◎新車当時価格(東京地区):241万1900円
そこで、国内専用に企画された新型車のソアラには、大人のための高級スペシャリティクーペという、これまでにないキャラクターが与えられた。その分、スープラ/XXはより尖った、高いスポーツ性を追求することができ、それぞれに異なるファンを得て、国内外ともに成功することができたのだ。
5M-GEU型エンジン
1980年代初め、その圧倒的スペックで国産最強を誇った直列6気筒2.8Lツインカムの5M-GEU型エンジン。セリカXXとソアラのフラッグシップエンジンとして登場したが、ライバル車のパワーアップに伴い、6M、7Mと排気量を拡大、ターボも装着される。
先代末期にセミトレーリングアーム式が採用されたリヤサスは、2.8Lの直6DOHCCエンジンのパワーをしっかりと受け止めた。味付けにはロータスの協力も得て、それまでの日本のスポーツカーにはないしなやかな走りを見せた。
リトラクタブルヘッドランプを採用して、Cd値0.35という優れた空力性能も実現させた2代目スープラは、200km/hオーバーでクルージングが可能な、スポーツカーと呼ぶにふさわしいクルマに仕上げられたのだ。その一方で、ソアラ譲りのデジタルメーターや、当時の日本車ではまだ珍しかったクルーズコントロールなど、豪華な機能も惜しみなく採用された。
どんな体格の人も最適なドラポジがとれるよう、8つのアジャスト機能が付いたハイテクシート。2800GT に標準装備のデジタルメーターは1L刻みで燃料残量を表示する拡大切り替え機能もあった。また合成女性音声で半ドアや給油を知らせるスピークモニターも設定した。
基本的にソアラと共通のエレクトロニックディスプレイメーターだが、XXはタコメーターがトルクカーブ風になる。
まだGPSナビゲーションシステムは存在しなかったが、目的地の方角を入力すると、走行中も方位と距離を計算して表示し続けるクルーズナビコンと呼ばれる装備は、電子デバイスを満載した今日の日本車の姿を先取りしていた。
3ナンバーの普通車がまだ贅沢品だった時代を反映して、ボディサイズは5ナンバー規格にとどまり、日本国内では2Lが売れ筋だった。しかし2代目スープラは、外国車の見よう見まねから始まった日本車が、世界に通用するスポーツカーをも作れる実力を身に付けたことを示す、卒業制作のような役割を果たした一台だった。事実、これに続く世代の日本車群は、あらゆるカテゴリーで世界の市場を席巻していくことになる。
セリカXX2000GTツインカム24(1983年後期型)
1982年に追加された1G-GEU型2Lツンカムエンジンを搭載した2000GTツインカム24。運輸省(現国土交通省)は1983年よりドアミラー装着を認可したため、後期型はドアミラー装着仕様となった。
セリカXX/スープラの変遷
1977年 |
10月 東京モーターショーにA40セリカをロングノーズ化し6気筒エンジンを搭載、RV風ピックアップとしたコンセプトカー「CAL-1」を展示。 |
1978年 |
4月 セリカXX販売開始(少し遅れて発売となった北米ではセリカ・スープラ)。直6の2.0Lと2.6Lエンジンを搭載。 |
1980年 |
8月 マイナーチェンジ。リヤサスペンションを4リンクコイルリジッドからセミトレーリングアーム式の独立懸架に変更。2.6Lエンジンを2.8Lエンジンに変更。 |
1981年 |
7月 2代目(A60)に移行。国内生産台数は約3万9000台。エンジンは2.0Lと2.8Lの直6。 |
1982年 |
2月 2.0Lターボを追加。 8月 2.0L24バルブDOHC(1G-GEU)搭載の2.0GT追加。 |
1983年 |
8月 マイナーチェンジ。バンパーやテールレンズなど外装を変更、ドアミラーを標準装備化、5M-GEUの出力アップ(170PSから175PSへ)。 |
1986年 |
2月 A70スープラ発売、日本名もセリカXXからスープラへ変更。2代目と同じく、ソアラとはプラットフォームを共用する兄弟車。 6月 手動着脱のハードトップを持つ「エアロトップ」を追加。 |
1988年 |
8月 マイナーチェンジ。3.0L車に北米と同じワイドボディを採用、テールランプなど外装を変更。また全日本ツーリングカー選手権のホモロゲーションモデル「ターボA」を5000台限定販売。 |
1990年 |
8月 マイナーチェンジ。内外装変更、サスペンションの設定変更など。また3.0GTに替わり2.5GTツインターボ(1JZ-GTE搭載)をラインナップ。 |
1991年 |
8月 ボディカラーの変更、安全装備の拡充など。 |
1993年 |
4月 A70スープラ生産終了。国内新車登録台数の累計は約9万台。 5月 A80スープラ国内販売を開始。搭載エンジンは3.0L直6ターボと3.0L直6ツインターボ。 |
1994年 |
8月 マイナーチェンジ。17インチタイヤと大型ブレーキキャリパー装着車を追加、グレードの変更など。 |
1995年 |
5月 ボディカラーの変更など。 |
1996年 |
4月 マイナーチェンジ。グレードの見直し、デュアルエアバッグ、ABSが全車標準装備へ。 |
1997年 |
8月 マイナーチェンジ。エンジンやサスペンションの改良など。 |
1999年 |
8月 SZに前後異サイズのタイヤを採用。 |
2002年 |
7月 A80スープラ生産終了。国内新車登録台数の累計は約3万1300台。 |
2013年 |
1月 トヨタとBMWがスポーツカーの共同開発など、協業契約を締結。 |
2018年 |
3月 ジュネーブモーターショーで「GRスープラコンセプト」を世界初公開。 |
2019年 |
1月 デトロイトモーターショーで記者発表。 5月 国内発売開始。 |
2020年 |
2月 米国で出力向上型の2021年モデルを発表。 4月 一部改良。米国モデルと同じく圧縮比向上などで最高出力を387PSにアップ、ボディ剛性向上、サスペンションセッティングの変更など。 10月 特別仕様車「RZ Horizon blue edition」を発売。 |
2021年 |
8月 A70発売から35周年を記念して、RZとSZ-Rに特別仕様車「35th Anniversary Edition」を設定。 |
歴代セリカXX/スープラ
初代セリカXX(A40/50) 1978年〜1981年
当時、米国で絶大な人気を誇っていたフェアレディ260/280Zに対抗するため、現地ディーラーの要望で開発されたセリカXX。Tの文字を象ったグリル、搭載された直列6気筒のM系エンジンなど、あのトヨタ2000GTを連想させる高級グランドツアラーだった。
2代目セリカXX(A60) 1981年〜1986年
同じエンジンを搭載するソアラの誕生もあって、2代目セリカXXはラグジュアリー指向の強い初代に比べ、よりスポーティなクルマに変身している。その一方で計器盤から指針をなくしたデジタルメーターの採用など、カーエレクトロニクスの最先端を走るモデルとしても注目された。
3代目スープラ(A70) 1986年〜1993年
セリカXXから数えると3代目になるA70から日本でもスープラを名乗る。それまでベースとなっていたセリカに代わり、シャシーは2代目ソアラと共通で、サスペンションは四輪ダブルウィッシュボーンを採用。キャッチフレーズは「ハイパフォーマンス・スペシャリティ」。高級で売るソアラに対し、スープラはよりスポーティなキャラを売り物とした。4か月後には着脱式ルーフのエアロトップを追加、さらに1987年には輸出モデルで好評のブリスターフェンダーをもつ3ナンバーワイドボディもラインナップ。1990年には280PSに達する2.5ℓツインターボも登場する。
4代目スープラ(A80) 1993年〜2002年
A70に対し全長とホイールベースが短くなっているが、全幅は1810mmまで拡大され、2+2のグローバルハッチバックスポーツというキャラクターがさらに鮮明になった。国内ツーリングカーレース( グループA)でもスカイラインGT- RやNSXと熾烈なバトルを繰り広げている。先代と同じく、着脱式ルーフのエアロトップもラインナップ。平成12年度排ガス規制への適合が難しくなり、2002年に生産を終了する。
5代目スープラ(A90) 2019年〜
2019年のデトロイトモーターショーで世界初公開されたA90スープラ。エンジンやシャシーはBMWのZ4と共有。直6の3Lツインターボは340PS/51.0 kg・mの出力/トルクを誇る。伝統的FRを踏襲し、ロングノーズ&ショートキャビンのグラマラスなボディシルエットを纏う。シリーズとしては初めて2シーター仕様となり、走りに特化させたピュアスポーツカーとして生まれ変わった。