●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久
6代目CR-Vに、最新の燃料電池技術とノウハウを注入
ホンダのFCEV(水素燃料電池車)の歴史は、バラード社製燃料電池を搭載した1999年登場のFCXから始まる。2000年代初頭は各社からFCEVのプロトモデルが登場しているが、この時点では研究開発の一環という扱いで、電動車にとって必須機能のひとつになる回生充電機構を備えないモデルも珍しくなかった。
FCXはその後も進化を続け、2001年には公道実験を開始し、2002年には国土交通大臣認定を収得。2003年には現在水素インフラを牽引する岩谷産業に対して、民間企業向け初の納車を行っている。また、同年には極低温のホンダ製FCスタック(燃料電池モジュール)を発表し、北海道において氷点下の公道走行実験を行っている。
2005年には後のFCXクラリティの母胎となるFCXコンセプトを発表する。2007年に発表されたFCXクラリティは現在に至るまでFCEVの普及と啓蒙を担っている。FCスタックの改良は現在に至るまで間断なく続けられているが、見逃せないのは今回発表されたCR-V e:FCEVに備わっているFCEVの移動発電所としての機能だ。
ホンダは2014年にFCXクラリティを用いて燃料電池車から、公共施設への電力供給の実証実験を開始した。燃料電池車から家庭(建物)に給電を行うV2H(L)の機能と実用性の拡張は、ホンダFCEVの進化の要点になっている。
今回、6代目モデルをベースに開発されたCR-V e:FCEVには、ホンダFCEV開発のノウハウと、新たな一手となる技術が注がれている。
GMと共同開発した燃料電池システムを搭載。プラグイン機構を採用することで、実用性能も強化
CR-V e:FCEVをパッと見の印象はとても地味に思える。先進感溢れる外観が採用されていたFCXクラリティと比較すると、時代が遡ったように錯覚してしまうほどだ。しかし、あえてCR-Vをベース車にしたことが、ホンダの本気の表れと考えていい。
まず、CR-V e:FCEVはコスパもしっかりと考えている。フロント周りの外板などはモデル専用で造っているが、基本的にはCR-Vがそのまま使われている。つまり、車両ごとに新規開発せずに既存モデルをベースにすることで、開発費を節約していることになるわけだ。
CR-V e:FCEVの登場にあわせて新たに開発されたバイポーラ型FCセルは、発電効率の向上と共に軽量小型化を進めていることが特徴。総セル数はFCXクラリティよりも減少しているが、発電能力は向上している。つまり発電電圧は多少低くなったが、それを上回る電流により発電電力は増加。セル数の減少もコストダウンに効果的だ。
また、パワーユニットを一体化し、パッケージ寸法をコンパクトにすることで、搭載性と振動騒音の改善も図った。水素タンク(ボンベ)はFCXクラリティの金属製からCFRP製に変更されている。
パワートレーンの構成で、最も大きな変更となったのは外部充電機構の採用だ。FCEVにも、回生と発電タイムラグや、FC内残留水素ガスを減少させるために、駆動用バッテリーを搭載するが、その蓄電容量がFCXクラリティの1.14kWhから10倍増以上の17.7kWhに変更されている。満充電では60kmの航続距離を確保されるため、満タンでの航続距離600kmと併せて660kmの走行が可能となる。
開発者によればWLTCモード燃費と実燃費の乖離が非常に少ないとのこと。これはバッテリーのパワーアシストにより発電効率の高い部分でのFC稼働が可能になるため、というのが理由。HEVやPHEVでの効率向上の考え方をFCEVに当てはめたというわけだ。
外部充電は普通充電のみだが、充電ポートは専用コネクターを用いることで家電等に用いるAC給電ポートにもなる。また荷室内にはCHAdeMO規格のDC外部給電ポートも設定。パワーエクスポーター等との組み合わせで屋外イベントなどの大電力給電が可能となる。
水素インフラの問題もあり、法人がメインユーザーと予想されるが、個人ユーザーの拡大もCR-V e:FCEVの狙いになっている。駆動方式は2WD(FF)のみだが、SUVボディの利点の広い室内やキャビン実用性、さらに給電機能や航続距離を考えれば、アウトドアレジャーを好むヘビーユーザーの新たな選択肢になる可能性を秘めている。
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