
現在、日本ではハイブリッド車(HEV)が新車販売の過半数を占めているが、一方、電気自動車(BEV)の普及率はわずか1.5%と伸び悩む。その背景には、BEVの車種の少なさや価格の高さが挙げられるだろう。そんな中、スズキは2025年度内に新型BEV「e VITARA(イー・ビターラ)」を日本市場に投入するという。ここではひと足先にプロトタイプに試乗した情報をもとに、その魅力と日本市場での可能性を探ってみた。
●文:渡辺陽一郎 ●写真:奥隅圭之
BEVになっても、実用性に優れる美点は変わらない
e VITARA(以下eビターラ)は、スズキがインドで生産し日本に輸入するSUVタイプのBEV。今後、世界各地で販売が始まるなど、スズキの世界戦略車としての役割も担っている一台だ。
全長は4275mm、全幅は1800mmと、SUVとしてはコンパクトなサイズ。最小回転半径も5.2mと小回りが利くため、日本の道路事情との相性もかなり良さそうだ。外観は18インチの大径タイヤを装着することもあってSUVらしい力強さがあるが、フロントマスクはシャープなイメージで、都会にも映えるデザインが与えられている。
シャープなフロントデザインと、SUVらしい力強いフェンダーアーチを用いることで、タフさも感じさせるスタイリングに仕立てられている。
主要諸元 e VITARA(4WD)
全長☓全幅☓全高:4275☓1800☓1640mm ●ホイールベース:2700mm ●トレッド:フロント:1540mm/リヤ:1540mm ●最低地上高:185mm ●最小回転半径:5.2m ●車両重量:1890kg ●モーター最高出力:135kW ●モーター最大トルク:307Nm ●バッテリー種類:リン酸鉄リチウムイオンバッテリー ●バッテリー容量:61kWh ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(前後) ●タイヤ:225/55R18
運転席に座ると、フロントピラー(窓の前の柱)が立っていることもあって視界が広く、開放感が高いことに気づく。ボンネット部の盛り上がりも、クルマの先端位置を把握しやすく運転初心者にも優しい設計だ。ただ、最近の流行もあってボディ後端のピラーは太めなので、斜め後ろの視界は少し注意が必要。ここは購入時にしっかり確認したいポイントのひとつだ。
ステアリング奥から中央部にかけて2つのディスプレイが配置されるレイアウトを採用。各所にレザレットが用いられるなど、プレミアム感も強く意識したキャビンに仕立てられている。
インパネ周りで目を引くのは、上下部分が平らになった独特のステアリングホイール。これはメーターが見やすく、足元の空間も広くとれるというメリットがあるが、慣れるまでは少し違和感があるかもしれない。内装加飾には合成皮革が各所に使われ、クラスを超えた上品な雰囲気に仕上がっている。またエアコンの操作ボタンが最近流行のタッチパネル式ではなく、独立した物理的スイッチなのも好印象。指先の感触だけで操作もできるため運転中にはありがたい。
運転席のシートは電動調整機能に加え、体重の加わる背もたれの下側と座面の後方は硬めに造り込み、体をしっかりと支えて長距離移動時も快適。腰のサポート(ランバーサポート)も装備している。空調管理のエネルギー消費を抑えるため、BEVではマストともいえるシートヒーターやステアリングヒーターももちろん備わっている。寒い日でも瞬時に暖がとれるのはやはり嬉しい。
後席は、ドアハンドルが少し高い位置にあり、乗り降りの際に少し頭をかがめる必要があるタイプ。BEVパッケージゆえに床面が少し高くなっているが、身長170cmの人が乗っても頭上には握りコブシ1つ分、膝先空間は握りコブシ2つ分が確保されるなど、十分なスペースが確保されているので窮屈さは感じにくい。荷室は床が少し高いものの、ボディサイズの割には広いスペースといえる。BEVならではの広い空間を活かした設計もあって、SUVとしての使い勝手も優れている。
フロアコンソールはピアノブラックの加飾パネルの組み合わせ。シフトセレクターはダイヤル式。ヒルディセントコントロールの操作スイッチもここに配置される。
ツボを押さえた力強い走りが好印象
今回試乗したモデルは、バッテリー容量が61kWhの2WD(前輪駆動)と4WD(四輪駆動)モデル。アクセルを踏み込むと、BEVらしくすぐに反応しスムーズに加速してくれるが、高性能を売りにするBEVのような「蹴飛ばされる」ような急な加速ではなく、日常使いで十分な力強さを実感できるタイプ。もちろん静かで振動も少ない。
車両重量は61kWhの2WDモデルで1790kg、4WDモデルで1890kgと、一般的な内燃機車と比べると嵩むため、カーブを曲がる際や車線変更時にはその重みを感じる場面もあるが、バッテリーが床下に搭載されているため重心が低く、走行時の安定感はかなり高い。ステアリング感覚は少し重めだが、リニアな反応が強くライントレース性も優秀。なかでも4WDモデルは、前後のタイヤの駆動力が細かく制御されているのがわかり、2WDモデルよりも重質感のある走りだ。こちらのほうが速度が上がってくるとしっかり感が高まり快適性が増していくので、長距離移動にも適している。
eビターラの駆動バッテリーは、BYD製のリン酸鉄リチウムイオン電池が採用されている。この電池は安全性の高さとで長寿命が大きな魅力で、さらにコストがかかりにくいというメリットを持つが、惜しいのはエネルギー密度が三元系よりも少し低めなこと。ただし、1回の充電で走れる距離(航続距離)は、49kWhの2WDで400km以上、61kWhの2WDで500km以上、61kWhの4WDで450km以上と発表されているため実用面では十分なレベルと言えるだろう。
低速域から扱いやすいパワーユニットに加え、狙ったラインを正確にトレースできるステアリング感覚が与えられるなど、抜群のコントロール感覚を持つことも美点のひとつ。
充電口は普通充電(200V)と急速充電に対応。61kWhモデルの場合、普通充電は6kW仕様で約10.5時間(10→100%)、急速充電(50kW・125A)で約55分(10→80%)で充電することが可能。寒冷地バッテリー昇温機能やバッテリーウォーマー機能も備えるなど、バッテリーを長持ちさせる工夫も盛り込まれている。
手ごろな予算で狙えるBEVは、現状はかなり手薄
現在のところ、eビターラの価格はまだ発表されていない。ただライバルとなりそうなBYDドルフィンの価格を考えると(58.56kWh仕様で約374万円)、eビターラの価格もこのあたりから設定される可能性が高いのではないだろうか。そうなると国からの補助金(おおよそ80〜90万円程度を想定)を考慮すると、実質的には予算300万円台から購入できる可能性が出てくる。
現在、日本市場のBEVは車種が少なく選択肢が限られている。特に400万円台を中心とした価格帯のBEVはまだまだかなり手薄な状況だ、もしeビターラがこの価格帯に投入されれば、BEVを検討している消費者にとっては、かなり魅力的な選択肢となるのは間違いない。地球温暖化対策のためにもBEVの普及は必須。スズキの eビターラが日本の市場に新たな風を吹き込み、より多くの人がBEVを選びやすい環境を作ることを期待したい。
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