電動モデルの懐の深さを実感、より刺激的な走りにアップデート! 日産・アリア NISMO 試乗インプレッション

●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久

専用プログラムの採用により、最高出力とレスポンスが向上

初代リーフで電気自動車時代の開幕を告げた日産が、その次の一手として開発したのが、ミドルSUVをベースに造られたアリアだ。挙動特性を自在にプログラムでチューンできる、純電動駆動の利点を活かした走りの良さを持つことが魅力で、前後に駆動モーターを配するツインモーター式4WD「e-4ORCE」を搭載。日産自慢の最先端技術の実力を確かめるには、もってこいのクルマになっている。試乗したアリアNISMOは、独自のカスタマイズとモータースポーツを源流とするスポーツカジュアルの演出が加わっていることが特徴だ。

試乗モデルは上級グレードのNISMO B9 e-4ORCE。価格は944万1300円。

前後バンパーやオーバーフェンダー、リヤデッキスポイラーなどもNISMO専用となることで、標準仕様車との差別化がされている。

パワートレーンは駆動用電池も含めてベース車と同型だが、NISMOモデル専用の制御プログラムを採用することで、システム最高出力は290kWから320kWに向上している。さらにドライブモード設定も専用設定で、電動ならではのレスポンスの良さがより実感できるNISMOモードも追加された。

サスペンションは基本形式こそベース車と共通だが、旋回力の限界とコントロール性にこだわった専用チューンで、装着タイヤもフォーミュラEでの知見を活かし、アリア専用に設計開発された「ミシュラン・パイロット・スポーツEV」が組み合わされる。グレードは、駆動用バッテリー容量が91kWhの「B9 e-4ORCE」(試乗モデル)と、66kWhの「B6 e-4ORCE」に2つを選択することが可能だ。

黒を基調としたインテリア。各所にレッドアクセントを配することで、上質でスポーティーな空間を楽しませてくれることも魅力。

駆動力配分制御もNISMO専用チューニング、より限界まで攻められる仕様へ

日産の電動駆動車は、駆動力の精密制御を積極的に用いることで、操安性や乗り心地を高めているが、アリアは制御範囲を前後の左右輪駆動(制動)力配分を可能としている上級システムのe-4ORCEを採用することで、シャシー性能の向上まで図られている。e-4ORCEは、操安性の理想を求め開発が進められた経緯もあってポテンシャルも相当なもので、採用モデルのアリアとエクストレイルは、大柄なボディが与えられているミドルSUVながら、走り自慢のモデルとしても知られている。

それだけに、NISMO仕様にして上げ代があるのか? が少々疑問だったのだが、乗ってみると、より個性的な味を感じられることに驚いてしまった。

具体的には、e-4ORCEは内燃機車ではできない、前輪はアクセル、後輪は回生ブレーキというような制御が可能だが、NISMO仕様はさらに緻密な制御が加わったことで、アクセルを開けながら舵を深めるような、少し乱暴な運転にも破綻なく応えてくれる。軽快な挙動が際立つなど、FRスポーツ車的な味わいが明らかに増しているのだ。

NISMOモードを備えたことで、クルマを操る魅力もアップ。コーナーを攻めたい腕自慢にとっても魅力的な一台に仕上がっている。

それでいて、むちゃをした運転でも破綻させないという、電動車技術のセオリーもしっかりと守っている。滑らかなロールの入りや深いサスストロークでの粘りなど、挙動制御はしっかりと要点を押さえていることも印象的。回頭の初期反応は鋭いのだが、過剰な反応がないなど、安全性をしっかりと担保しながらも、軽快さや切れ味を存分に堪能することができる。

パワートレーン制御は走行モードによる違いが大きめ。追加されたNISMOモードは蹴り出し感が強めな、じゃじゃ馬的なドライブフィールだ。それでいてスタンダードもしくはエコモードを選択した場合は、プレミアムモデルらしい穏やかな特性を示してくれる。NISMOモードは、走りの個性のひとつとしてなかなか面白い試みに感じる。

標準仕様のアリアやエクストレイルといった既存のe-4ORCE車と比べると、アリアNISMOは少しバランスを崩した特性とも言えるが、綺麗に纏まり過ぎると、クルマを操る醍醐味も薄くなるもの。尖り具合もファントゥドライブの妙味のひとつ、と思わせてくれる魅力が、アリアNISMOには宿っていた。

※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。