●文:松本隆一 ●まとめ:月刊自家用車編集部
ヤリスクロスをはじめ、5モデルが出荷停止
「一番の問題はヤリクロだ」……認証手続き(※欄外註)の不正が発覚したトヨタの正規ディーラーを緊急取材したところ、こんな言葉が返ってきた。
今回の不祥事で名前があがった現行生産車はトヨタが3車種、マツダが2車種。この5モデルは即刻、出荷が停止(事実上の販売停止)となっているが、これによって最も大きな影響を受けるのが、冒頭にあげた通称・ヤリクロことヤリスクロスだ。
出荷停止となったカローラ・フィルダー/アクシオは主に法人向け
トヨタのほかの2車種はカローラ・フィルダーとカローラ・アクシオで、主に購入しているのは「安価な5ナンバーの車両が欲しい!」という法人だ。
フィルダーは「荷物が積みやすい」ということでルートセールスなどの営業車としての需要が高く、アクシオは自動車教習所の教習車としておなじみだが、一般ユーザーからは〝忘れられた存在〟で極めて印象が薄い。販売台数は合わせて月販1600台程度(4月実績)なので、出荷・停止となってもディーラーが受ける影響はさほどではない。
ディーラーによれば「ほとんどが付き合いの長い法人の顧客なので、出荷停止となって納期が遅れるなどの影響が出ても対応がとりやすい」とのことだ
末期モデルのマツダ2、マニア向けモデルのロードスターRF
いっぽうマツダ2は月販2000台程度(同)で、年内にフルモデルチェンジが予定されている末期モデルだ。したがって「このまま生産台数を減らしながら終了させてもいい」と考えている節も感じられる。また、ロードスターRFはマニアックなモデルなので影響は限定的だ。
売れ筋のヤリスクロスに大打撃
ところが、ヤリスクロスとなると話は大きく違ってくる。プロ野球に例えれば、フィルダーとアクシオは控えの、それもほとんど出番のない代走もしくは守備要員といったところだが、ヤリクロはクリーンナップを担う3割バッター、それもオールスター級の人気選手だ。
ヤリスシリーズの4月の販売台数は1万3760台だが、内訳はヤリスの6250台に対してヤリクロは7510台。これはシエンタ(1万330台)アルファード/ヴェルファイア(9810台)に続く販売台数で、いまやトヨタの〝売れ筋・三本柱〟のひとつといっても過言ではない。したがって、出荷停止に対して、すべてのディーラーが「ヤバイ!」と反応するのは当然だろう。ディーラーの経営者は「出荷停止が長引けば、今年度の販売実績に大きな影を落とす」とコメントしている。
納車待ちユーザーへの深刻な影響・・・どうすればいいのか
さらに販売の現場から声を拾うと、深刻度は増してくる。
セールスマンによれば「商談中のお客様には事情を説明して『しばらくお待ちください。販売を再開したらすぐにお知らせします』と伝えればいいが、頭が痛いのは〝納車待ち〟のお客様だ。
ヤリクロはバックオーダー(受注残)をたっぷりかかえているため、納期は6~7か月かかっている。半年も待って『ようやく納車だ!』と喜んでいる、お客様に『不正発覚で納車がさらに延びます。いつになるかわかりません』なんて説明したら『ふざけるな!』って怒られること間違いなしだ。もちろんキャンセルを申し出てきたら受けるが、それ以上のことはできない。ライズが同様の不正で出荷停止となったときは『ヤリクロに変えませんか?』とやったが、今回は受け皿がないので困っている」とのことだ。
要するに、対応策は「丁重にお詫びして、気長に待ってもらうしかない」となるのだが、「納期が延びたことによって下取り車の車検が切れてしまう」というケースでは単純にはいかない。本誌に情報を提供してくれている複数のセールスマンを取材したところ、下記の対応策が出てきた。
①下取り車の車検をユーザー自身で通してもらって、車検の残存期間が延びた分、下取り額を上乗せして納得してもらう。
ただし、下取り額の上乗せ分は車検・整備費用の半分程度にしかならないため、ユーザー側から「トヨタの不正で納車が遅れたのに客が損害を受けるのは納得できない」などと不満が出ることが多い。
②ディーラーが下取り車の車検・整備を行う。その際、税金・自賠責の費用額はユーザー側の負担となるが、整備費用は販売店がカバーする。
①の方法よりユーザーの同意は得やすいが、それでも税金・自賠責を負担しなければならないことへの不満が出る。これには下取り額を上乗せして対応するが、それでも「釈然としない」という声は出てくるだろう。
③車検切れに合わせて下取り車をディーラーが引き取る。その後、車検を通した下取り車を代車としてユーザーに貸し出す。
この方法ならユーザーの金銭的な負担がないため納得を得やすい。ただし、この方法を採るディーラーは少ない。
④下取り車を車検切れ直前に買い取り専門店に売却してもらって、納車までディーラーが代車を用意する。
代車の貸し出しが長期間となることが想定されるため、この方法を採るケースは少ない。
ともあれ、ヤリクロの納車待ちをしていて、下取り車の車検が切れてしまうという事態になった場合、上記の対応策を参考にディーラーと交渉するといいだろう。
なお、某ディーラーによれば「これは非公式のコメントとしてもらいたいが、ヤリクロなど3車種はおそらく1か月程度で販売を再開する見込みだろう」とのこと。
※欄外註
自動車の認証制度=大量生産されるクルマの安全性や品質などを確保するために道路運送車両法で定められた制度。自動車メーカーがエンジンやブレーキなどの試験を行い、そのデータを国に提出して審査に合格すれば「型式指定」を受けられる。これによって、本来なら新車を販売する際に1台ずつ受けなければならない車両検査(車検)を免除される。
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