
名実ともに世界最高峰と言われるハイパーカー「アストンマーティン ヴァルキリー」が、2025年のWEC(世界耐久選手権)とIMSA ウェザーテック・スポーツカー選手権に参戦する。ロードカーをベースにル・マン24時間レースのトップカテゴリーで戦うヴァルキリーは、驚くことにレーシングバージョンのほうがデチューンされるという逆転現象を起こしている。 ある意味、前代未聞という状況を生み出している究極のハイパーカー「ヴァルキリー」とはどんなクルマなのかをお教えしたい。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:アストンマーティン・ラゴンダ
公道仕様をベースとした唯一無二のレーシングカー
戦闘機のキャノピーのようなルーフに超ワイドなサイドシル、真上にオープンするガルウイングドア、全身にエアロデバイスを満載したアストンマーティンのハイパーカー、それが「ヴァルキリー」だ。
F1のテクノロジーを随所に盛り込んだ名実ともにストリート最強のロードカーだが、そのパフォーマンスを100%発揮できる場は公道には無く、真価を試すならサーキットに行き着くのは当然だろう。
もちろんアストンマーティンは公道で持て余すことを百も承知でヴァルキリーを生み出したのであり、その真意は世界最高峰のスポーツカーシリーズ、世界耐久選手権(WEC)とIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権の両方で闘う唯一のハイパーカーになることを目論んでいた。
ヴァルキリーは、超軽量かつ高剛性なカーボン製シャシーにコスワース製のV型12気筒NAエンジンを搭載したうえで電動モーター(運動エネルギー回生システム、KERS)のアシストも加えるハイブリッド方式を採用。エンジン+電動モーターのシステム最高出力は1,140bhpもしくは1,130bhp(オフィシャルサイト内でブレがあるのはご愛嬌。1,150PS前後か)、エンジンの最高回転数は11,000rpm、最高速度は322km/hと発表されている。
ヴァルキリーの凄みはコーナリングフォースの高さだ。トップクラスのスポーツカーでも横方向の加速度(G)は1.1G程度なのに対し、ヴァルキリーは3.3Gを超えるという。これは大気圏を突破するロケットが生む縦方向のGにも匹敵するもの。車体全身にくまなく装備されたエアロダイナミクスシステムの恩恵で、コーナーでも路面に吸い付くように走行できる。
アストンマーティンのロードカー、ヴァルキリー(写真右)をレース用に仕立てた「ヴァルキリー AMR-LMH(写真左)」。大型化されたヘッドライトやワイパーの有無、巨大なリアウイングなどの空力デバイス以外はロードカーそのもの。
ゼッケン007の車両は世界耐久選手権(WEC)に参戦。リバリーはアストンマーティンが伝統的に纏うレーシンググリーンで覆われている。レース用サスペンションは、フロントとリアのダブルウィッシュボーン、プッシュロッド式トーションバー・スプリング、調整可能なサイドダンパーとセントラルダンパーの構成。
レース中のタイヤ交換を迅速にする高速空気圧ジャッキシステムや、素早い給油を行うためのシングルポイントカップリング、ハイパーカーのレギュレーションで定められている18インチのミシュラン・パイロットスポーツタイヤなどを装備。
1959年以来のル・マン総合優勝が使命
ロードカーでもレーシングカー顔負けの戦闘力を誇るヴァルキリーを、WEC参戦用にピュアなレーシングカー「ヴァルキリー AMR-LMH」に仕立てたのは、アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズとハート・オブ・レーシング。
耐久レースで必須なFIAのテクニカルレギュレーションに合わせ、ピットストップでの迅速なドライバー交代やタイヤ交換、エンジンをかけたままの給油をクリアするシングルポイントカップリング、シャシー組み込み高速空気圧ジャッキシステムを搭載する。
サスペンションは、フロントとリアのダブルウィッシュボーン、プッシュロッド式トーションバー・スプリング、調整可能なサイドダンパーとセントラルダンパーの構成で、タイヤはレギュレーションに沿った18インチのミシュラン・パイロットスポーツを履く。
レースレギュレーションの影響で、レース仕様の最高出力はロードカーのほぼ半減のスペックに制限
もっとも注目したいのは、ハイパーカークラスのレギュレーションに合わせ、500kW(680bhp)にデチューンされたV12ユニットだ。
アストンマーティンの耐久モータースポーツ責任者は、「(耐久レースでは)それほどパワーを必要としないため、エンジンは本来の性能よりも低速で運転します。レギュレーションが定めるパワーリミットよりも低いことで、チャンスが生まれます。トルクカーブを調整し、エンジン速度を落として摩擦損失を低減し、燃費を向上させることができます」と語り、ロードカーとして設計されたヴァルキリーがベースであることならではの高い耐久性能を誇っている。
ヴァルキリー AMR-LMHを擁する「アストンマーティン ハート・オブ・レーシング チーム」は、すでにグローバルテストプログラムを経て1万5,000km以上を完走し、耐久性に関しては自信を覗かせる。そして目指すは1959年以来となるアストンマーティン車による総合優勝だ。
鮮やかなブルーのリバリーを纏うヴァルキリー AMR-LMPは、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に参戦する。3月のセブリング12時間レースを皮切りにレースデビューを果たし、ドライバーは英国のロス・ガンと、カナダのデ・アンジェリスが務める。
IMSAのスケジュールは全11戦。セブリング12時間レース、ロード・アトランタで開催されるプチ・ル・マン、ロングビーチ、ラグナ・セカ、ワトキンズ・グレン、インディアナポリス・モータースピードウェイなどで戦う。
アストンマーティンの新たなヒストリーはヴァルキリーから生まれる
WEC(世界耐久選手権)とIMSA ウェザーテック・スポーツカー選手権という、異なる耐久シリーズへ同一シーズンにエントリーするというアストンマーティンのデュアルレースプログラムは、リソースの集中が困難な試みだ。それだけにアストンマーティンがヴァルキリー AMR-LMPに懸ける意気込みは並大抵ではない。
2025年のWECハイパーカークラスには、トヨタ、フェラーリ、キャデラック、ポルシェ、アルピーヌ、プジョー、BMWなどが参戦する予定で、カタールで行われたWECの公式テスト「プロローグ」の初日セッション1では、ヴァルキリー AMR-LMPのリザルトは14位だった。
トップタイムのフェラーリ 499Pとは約2秒離されているが、シーズンはまだ始まったばかり。初参戦となるヴァルキリー AMR LMPの活躍に注目したい。
WEC参戦ドライバーは、007号車にル・マン24時間レースでクラス優勝の経験があるハリー・ティンクネルとトム・ギャンブルのペア。009号車にはWEC GTクラスで3度の優勝を誇るマルコ・ソーレンセンとアレックス・リベラスが搭乗する。
2025年WEC世界耐久選手権第1戦カタールでは、ハイパーカークラスで決勝17位(009号車)という結果に。第4戦のル・マン24時間耐久レースは6月に開催されるが、悲願達成にはさらなるマシンの熟成が必要なようだ。
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