
マツダの開発エンジニアが、自らステアリングを握ってCX-60でクロスカントリーラリーに出場する。舞台は北海道・十勝で開催されるRALLY HOKKAIDO。目的は競技の勝利ではなく、未舗装路という極端な環境を使った“技術検証”だ。市販車開発の現場から見た時、この挑戦は何を意味するのか。その結果が楽しみだ。
●文:月刊自家用車編集部
開発現場が“ラリー会場”に変わるとき、何が起きるのか!?
マツダが直列6気筒ディーゼルエンジンを搭載するCX-60でクロスカントリーラリーに挑む。2025年9月5日から7日にかけて開催される「XCRスプリントカップ北海道(RALLY HOKKAIDO)」の第6戦に、競技用に仕立てられた車両「MAGIC TY MAZDA CX-60」を投入する計画だ。なお、今回の参戦は株式会社マジック、TOYO TIRES株式会社、マツダ株式会社の3社共同参戦となる。
今回の試みで注目すべきは、ドライバーとコ・ドライバーをマツダの開発エンジニアが務める点だ。寺川和紘と石川美代子の両氏は、いずれも市販CX-60の開発に関わる現場の技術者。プロドライバーではない彼らが自ら競技に出場する背景には、スペックでは測れない走行フィールや限界挙動を、自身の身体を通して確かめたいという狙いがある。
CX-60はもともとオンロード志向が強いラージサイズSUVだ。滑らかな走りと静粛性を備えたこのモデルを、未舗装路主体のラリーに持ち込むという行為は、通常の開発アプローチから見ても異例と言える。あえて不利な条件で車両を酷使することで、試験場では得られない実用データを抽出しようという意図が読み取れる。
競技用のCX-60は、TOYO TIRESの「OPEN COUNTRY R/T」タイヤを装着し、足まわりや冷却系、電子制御系に一定の変更が加えられる。しかし、ベース車両の構造やパワートレインには大きな手が入っていない。市販仕様と地続きのまま、どこまで対応できるのか。開発陣がその限界を試す場が、このラリーになる。
マツダは今回の試みを、大々的な広報キャンペーンとして打ち出していない。製品プロモーションではなく、純粋な技術検証として淡々と公表されたことからも、その本気度がうかがえる。リリースに強調されたのは「走る歓びの深化」という言葉だったが、実態はむしろ“走りの確かめ直し”に近い。
ラリーでは、突き上げの鋭さや揺れ戻しのタイミング、駆動配分のズレといった、ロガーやテストベンチでは捉えきれない現象が頻発する。こうした体験を開発者自身が吸収することは、マツダが掲げる「人とクルマが一体になる走り」の基礎情報にもなり得る。
CX-60を使ったこのチャレンジは、勝ち負けを競うイベントではない。開発者が現場に出て、乗り味の正体を探る。その結果として、どんな進化が量販モデルに反映されるかに注目したい。
【参戦概要】
- 大会名:XCRスプリントカップ北海道 第6戦(RALLY HOKKAIDO)
- 開催日:2025年9月5日〜7日
- 開催地:北海道・十勝エリア
- 参戦車両:MAGIC TY MAZDA CX-60(3.3L SKYACTIV-D 搭載)
- チーム名:TCP MAGIC with TOYO TIRES
- ドライバー/コ・ドライバー:寺川和紘/石川美代子(いずれもマツダ開発エンジニア)
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