
クルマのメカニズム進化論 駆動系編(1)〜黎明期〜
世界初のガソリンエンジン自動車、ベンツとダイムラーはエンジンを車体の中央に置き、チェーンとギヤで後輪を駆動した。その後、エンジンを前部に搭載するFRが登場。駆動系はRR、FFへとバリエーションを広げていった。FF車の元祖となるモデルやその変遷についても振り返っていこう。
※この記事は、オートメカニック2017年1月号の企画記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック車編集部
世界初のガソリンエンジン車の駆動系
写真左(三輪)は1886年に製造されたベンツ。エンジンは座席の後ろ。後輪をチェーンで駆動した。写真右(四輪)は1895年に製造されたベンツ。これも後輪をチェーンで駆動した。自動車の駆動方式はここからスタートした。
最初の自動車の駆動方式はミッドシップだった
最初の自動車は前輪駆動だった。1769年、蒸気で走る世界初の3輪自動車が現れたが、前1輪を駆動するFF車だった。蒸気機関は1700年代から1800年代にかけて産業用として活躍したが、ダイムラーとベンツによってガソリンエンジンが実用化されると、自動車の動力源はそれに収れんされていく。
世界初のベンツの3輪車はエンジンを後車軸のほぼ真上に置き、後輪を駆動する、いわばミッドシップだった。世界初の4輪自動車、ダイムラーのそれもエンジンを車体中央部に置き、後輪を駆動するミッドシップだった。
このレイアウトでは乗員の乗るスペースや荷物搭載スペースが限られる。ベンツの3輪車の定員は2名。ダイムラーは4名。それらの欠点を解消するものとして現れたのは車体前部にエンジンを搭載し、乗員のためのキャビンを確保し、後輪を駆動するFRだった。
今に繋がる車体レイアウトは、ベンツが世界に先駆けて開発
1890年パナールはダイムラーのガソリンエンジンの特許を使用して第1号車を完成させ、1891年には早くも2号車を製造した。この2号車に採り入れられたのがフロントエンジン、リヤドライブ方式だった。この方式はシステム・パナールと呼ばれたが、ベンツがこの方式を採用したのは7年も後のことだった。
ダイムラーは1900年、フロントにエンジンを搭載し、後輪を駆動するPDバーゲンを登場させ、翌年には35psのエンジンを搭載しフロントにハニカム形状のラジエーターを採用した“メルセデス35ps”が開発された。メルセデスの名称を付けた1号車であるとともに、FR車への移行を大きく促した最初のクルマでもある。
エンジンの動力はいったん車体中間の軸まで引き出され、そこからチェーンによって後輪を駆動した。以後このレイアウトは駆動方式の主流となった。しかしトランスミッションのギヤやチェーンが外部に露出し、水や埃にまみれ、日常的にメンテナンスが求められた。
この不都合を解消する革新的なレイアウトがルノーによって開発されたのが1898年。トランスミッションのギヤをケースに収め、そこからプロペラシャフトを後部に延ばし、ベベルギヤとリングギヤによって直角に駆動力を変え、左右の後輪を駆動した。これが今に繋がる後輪駆動の始まりといえる。この方式は長い間、駆動方式の主流となり、今でも大型車の一部、スポーツ車などに用いられている。
後輪駆動には一つの欠点がある。トランスミッションスペースが室内前部にはみ出し、プロペラシャフトが居住スペースを狭め、リヤに設けられたディファレンシャルも有効スペースを奪う。
大型車なら気にもならないレイアウトだが、小さなクルマでは大きな障害となる。これを解消するために生まれたのが車体後部にエンジンを搭載し、後輪を駆動するRRだ。1934年には意外なことにベンツが採用し、1940年代以降にはVW、そしてルノーやフィアットの小型車に好んで採用された。国産でもルノーと提携して生産された日野ルノー、スバル360がRR方式を採用し、今でもフィアット500、ルノートゥインゴ、VWにルーツを持つポルシェ911が採用している。
1923年にベンツが製造したグランプリレース用のミッドシップエンジン車、ドロップフェンバーゲン。成績はふるわず、ミッドシップの活躍にはもう少しの時が必要だった。
ベンツはリヤエンジンにもトライしていた。1934年に130H、1938年には170Hを製造した。VWに近いレイアウトでフェルディナンド・ポルシェの影響を受けたものといわれている。
革新的な駆動方式の誕生! イシゴニスによる前輪駆動
1959年、革新的な自動車が誕生する。全長3051㎜、全幅1410㎜の小さなボディながら、大人4名が無理なく座れ、しかも車体後部に荷物スペースさえ備えていた。アレック・イシゴニスによって設計されたMMCミニがそれだ。
優れた居住性の秘密は駆動レイアウトにあった。エンジンを車体前部に横に置き、トランスミッションをその下に配置し、前輪を駆動する。エンジンから後ろはすべて乗員のためのスペースとなる。
もっともミニが世界初の前輪駆動というわけではない。1900年代の初めからヨーロッパ、アメリカで開発が試みられ、1934年には初の量産前輪駆動車、シトロエン7CVが誕生している。しかし小さなボディにエンジンを横置きするというミニのレイアウトは今に繋がるFF車のまぎれもない元祖なのだ。
小型車のレイアウト、駆動方式に革命をもたらしたBMCミニ。4気筒エンジンを横置きし、トランスミッションをその下に配置した。これによって広い室内空間が確保された。
小型車ではスバル1000に続くレオーネが前輪駆動車の市場をリードしたが、ホンダシビックはその市場をさらに拡大させるほどの人気を博した。