
昭和30(1955)年に発表された国民車構想は、当時の日本の技術・経済力では到底実現は不可能だったが、各メーカーの小型車開発の指針とはなった。それに沿った回答のひとつが、昭和36年に登場したパブリカだ。軽量コンパクト、低価格を追求して700㏄ の空冷水平対向2気筒エンジンを新開発。当初予定していたFFは、技術的問題が解決できず、常識的なFRになったものの、出来ばえは上々だった。
●文:月刊自家用車編集部
シンプルで無駄のないフォルムが追求されたパブリカは、空冷水平対向2気筒エンジンを搭載したため、フロントノーズを低く設定することができ、コンパクトな車体ながら、広いガラスエリアが確保することで視界は良好であった。
主要データ(1961年式)
●全長×全幅×全高:3520㎜×1415㎜×1380㎜●ホイールベース:2130㎜●車両重量:580㎏●エンジン(U型):空冷水平対向2気筒OHV697㏄●最高出力:28PS/ 4300rpm ●最大トルク:5.4㎏-m/ 2800rpm●最高速度:110㎞/h●燃料タンク容量:25L●トランスミッション:4速MT(コラム式)●最小回転半径:4.35m●乗車定員:4名●サスペンション:前トーションバー/後半楕円リーフスプリング ○新車当時価格:38万9000円
国から提唱された難題「国民車構想」。そのトヨタの回答が「パブリカ」だった
1955年に当時の通商産業省(現 経済産業省)から「国民車構想」が提唱され、庶民のマイカーへの夢をふくらませるきっかけとはなったものの、当時のメーカーの技術レベルでは到底実現は不可能な内容だった。しかし、反響の大きさから人々の想いの強さを知った自動車メーカーは、可能な限りそれに沿ったクルマの開発に着手していた。
1961年にトヨタから登場したパブリックカー=大衆車に由来する車名を持つ「パブリカ」は、その代表とも言うべき一台だった。当時のトヨタでは、1.5Lのクラウンに続き、1Lのコロナを発売していたが、クラウンもコロナも社用車やタクシーなどの業務ユーザーがメイン。庶民の自家用車という市場は、まだ確立されていなかった。
フロントシートはベンチシート。変速機はコラム式を採用するが、パーキングブレーキレバーがシート中央下に配置されている。楕円形のスピードメーターは120km/hまで刻まれている。
徹底的なコストダウンと合理的な設計、そして新設計空冷2気筒水平対向エンジンを搭載
そこで、パブリカはコロナよりさらに小さなエンジンを積む、安価なクルマとして徹底的なコストダウンと合理的な設計がなされた。排気量は当初500㏄も検討されたが、来るべき高速時代を意識して700㏄が選ばれ、空冷2気筒水平対向の新エンジンが開発されることになった。このエンジンは、軽量化のため軽合金ダイキャスト部品やプラスチック備品が多用。また、ボディも軽量なフルモノコック構造を採用されている。
トヨタスポーツにも継承される水平対向2気筒エンジンを前に積むFR。水平対向のメリットを活かし、ボンネットは低い。当初は700㏄、後に800㏄へアップされた。
当時の日本における技術レベルは発展途上だった
可能な限り広い室内を実現させるため、開発当初は欧州車に倣ったFF駆動が考えられていたが、スムーズな走行を実現させる等速ジョイントの開発が難しく、開発中に一般的なFR駆動に戻されてしまったというエピソードが、当時の日本車の技術レベルを物語る。
のちに初代カローラを開発する長谷川龍雄主査は、このクルマを軽量コンパクトな優れた素性に仕上げ、派生車種としてスポーツ800も生む。が、まだまだ庶民には高嶺の花(車両価格は38.9万円、当時の大卒初任給は3.4万円程度)。このクラスがビジネスとして成立するのは、若者にもクルマが買えるようになる昭和40年代後半、後継モデルのパブリカスターレットが登場してからだった。
初代パブリカの変遷
1961年(昭和36年) |
販売開始。デビュー時の価格は38.9万円。 |
1962年(昭和37年) |
トヨグライド式のセミオートマチック仕様車追加。 |
1963年(昭和38年) |
リクライニングシート、ラジオの付いたデラックスやコンバーチブルを追加。 |
1964年(昭和39年) |
マイナーチェンジで32馬力にパワーアップ。 |
1966年(昭和41年) |
ビッグマイナーチェンジで排気量を800㏄に拡大。後期型へ。 |
1969年(昭和44年) |
2代目に移行。 |
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
学生が蘇らせたシビックRSが「ラリー・モンテカルロ」に参戦 今回のチャレンジは、「技術の伝承」と「挑戦文化の醸成」を目的とした「50周年記念チャレンジ企画」の第一弾であり、ホンダ学園の理念を体現する取[…]
バイクの世界に見るスズキの”武闘派”ぶり スズキといえば、軽自動車や小型車などの実用車メーカー…と思っている人が多いでしょう。かゆいところに手が届く、使い勝手のいい経済的なクルマを手ごろな価格で提供す[…]
1ランク上を目指した610系は、影の薄いブルーバード サメという凶暴さを象徴する魚類の名前で呼ばれる車種というのは、4代目の「日産・ブルーバードU(610系)」です。 4代目の610系ブルーバードは、[…]
軽自動車は「いつか欲しい」憧れの存在だった 多くの商品の進化の過程は、経済発展にともなう庶民の欲望の変遷にシンクロしている。「いつか欲しい」と憧れる貧しい時代に始まり、やがて手が届くようになると「もっ[…]
ミドルセダンへの逆境で国内販売は失速したが欧州での評価は不変 初代プリメーラが登場した’90年ごろの日本車は、それ以前の、エンジンパワーや操舵応答性といった数値性能追求型の開発から、味やフィールといっ[…]
最新の関連記事(トヨタ)
コンパクトでも侮れない装備力 F-BOX Squareは、トヨタ・タウンエースをベースに仕上げられた8ナンバーキャンピングカー。街乗りにも馴染むコンパクトな全長と車高1,960mmというサイズ感は、立[…]
ナッツRV「ラディッシュ」の実力。二段ベッドが常設、広々とした車内空間。 キャンピングカー選びで悩ましいのが、就寝スペースと荷物スペースの両立だ。ベッドを展開すれば荷物が置けず、荷物を優先すると快眠が[…]
家具モジュールを装着することで、シエンタが「動く部屋」に大変身 シエンタ JUNO (ジュノ)は、「持ち運べる部屋」という新しい価値観を追求し開発されたコンプリートカー。後席&荷室に着脱可能な「家具モ[…]
ACCが停止保持機能付きにアップデート 今回実施された一部改良では、人気のメーカーオプションが標準装備化されたほか、新しい装備の追加や安全装備の拡充を実施。さらにMODELLISTAと共同開発したコン[…]
ふたりの旅をとことん快適にするバンコンの完成形 バンコンは使い勝手と価格のバランスから人気の高いカテゴリーだが、「TR540S Join」はその中でも異彩を放っている。2人旅に特化することで、車内空間[…]
人気記事ランキング(全体)
ナッツRV「ラディッシュ」の実力。二段ベッドが常設、広々とした車内空間。 キャンピングカー選びで悩ましいのが、就寝スペースと荷物スペースの両立だ。ベッドを展開すれば荷物が置けず、荷物を優先すると快眠が[…]
こだわりの内装、そして充実装備を搭載した快適空間 岡山に本社を置く、軽キャンパー専門のショップ、クレストビークル。同社は、クオリティの高い内装と、実際に使ってみて実感できる利便性の高い充実装備で、ユー[…]
置くだけ簡単のシリコン製スマホスタンド 現代人にとってスマートフォンはほぼ必需品である。乗車時においても、ナビゲーション機能やハンズフリーでの通話、音楽を流すなど、筆者にとってはなくてはならない存在だ[…]
コンセプトとベース車両の選択 「コンパクト バカンチェス-N ひとり旅」の根幹をなす思想は、”ひとりのための最高の空間”を、日常使いも可能なコンパクトな車体で実現することにある。このコンセプトを具現化[…]
なぜ「軽」で、なぜ「ワゴン」なのか。日常という名の大切な場所 「RS1プラス」を語る上で、まず理解すべきはその土台、つまりベース車両の選択にある。先行モデルの「RS1」が商用車ベースのエブリイバンを採[…]
最新の投稿記事(全体)
コンパクトでも侮れない装備力 F-BOX Squareは、トヨタ・タウンエースをベースに仕上げられた8ナンバーキャンピングカー。街乗りにも馴染むコンパクトな全長と車高1,960mmというサイズ感は、立[…]
国から提唱された難題「国民車構想」。そのトヨタの回答が「パブリカ」だった 1955年に当時の通商産業省(現 経済産業省)から「国民車構想」が提唱され、庶民のマイカーへの夢をふくらませるきっかけとはなっ[…]
2つの便利な機能を融合! 斬新なカーアクセサリー 便利なカーグッズを多数リリースするKEIYOから、斬新なアイテムが2種類、新たにリリースされたので紹介しよう。どちらも、一見するとよくあるカーアクセサ[…]
人気の「カワイイ」系、そのパイオニアとして登場 2002年に登場した初代アルト・ラパンは、当時の軽乗用車市場ではまだ浸透していなかった「カワイイ」というサブカルチャー的な要素をいち早く取り入れたパイオ[…]
学生が蘇らせたシビックRSが「ラリー・モンテカルロ」に参戦 今回のチャレンジは、「技術の伝承」と「挑戦文化の醸成」を目的とした「50周年記念チャレンジ企画」の第一弾であり、ホンダ学園の理念を体現する取[…]
- 1
- 2