
今でこそ、当たり前のように様々な普通のモデルに与えられるGTのグレード名だが、国産GTの元祖ともいえるこのスカイラインGTの登場した時代には、その名には“特別な意味合い”が込められていた。ただ者ではないということが実際にはどういうことなのか、このクルマの誕生ストーリーが教えてくれる。
●文:月刊自家用車編集部
スカイラインのセールスによりいっそうの弾みを付けるべく、"日本GPで勝つ"作戦に打って出た。
スカイライン1500(S50型)をベースとして、ホイールベースを200㎜延長し、上級モデルであるグロリアスーパー6のG7型2000㏄直列6気筒エンジンを搭載。
2位に入賞した砂子義一選手のゼッケン39号車仕様のレプリカ。ちなみに日本GPで一時ポルシェを抜き去ったのはこのクルマではなくポールポジションを獲得して最終的に3位でゴールした生沢徹選手のゼッケン41号車。
型式:S54A-1型 (1964年)
●全長×全幅×全高(㎜):4255×1495×1410 ●ホイールベース:2590㎜ ●トレッド(前/後):1265/ 1255(㎜)●車両重量:980〜1008kg●エンジン:GR7B型( 直6・OHC/ウェーバー3連 ) 1,988cc●最高出力:150ps/6800rpm ●最大トルク:18.0kg-m/4800rpm●サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン/縦置リーフリジッド ●ブレーキ(前/後):ドラム/ドラム(アルミフィン付) ●タイヤ:4.50L-13(R6)
プリンス自動車が社運をかけて技術を結集し、レースに勝つために生まれた一台
国産スポーツモデルの象徴的な存在と言って過言ではない、スカイライン2000GT -R が世に出る道筋を切り開いた革命的な立役者こそ、このスカイライン2000GTなのだ。
そもそもこの初代スカイラインGTは、1963 年にプリンス自動車が社運をかけて投入したスカイライン1500(S50型)をそのベースとする。いわゆる追加派生グレードなのだが、その年は奇しくも日本で初めての自動車グランプリ、第1回日本GPが開催された年でもあった。
この新時代の到来を告げる大イベントを契機に、プリンスはスカイラインのセールスによりいっそうの弾みを付けるべく、"日本GPで勝つ"作戦に打って出る。そのための切り札こそがこのスカイラインGT(S54型)なのだ。ただ、第2回日本GPまでに残された時間は少なく、プリンスは、手持ちのリソースをフルに活用して最大限の効果を上げる手法を採用する。
4気筒のスカイライン1500 をベースにホイールベースを200㎜延長し、上級モデルであるグロリアスーパー6のG7型2000㏄直列6気筒エンジンを搭載するというアクロバットをやってのけたのだ。その結果、5月2~3日にかけて開催される第2回日本GP直前の5月1日、当時のGTカテゴリーのレギュレーションに合わせるべく100 台のみが限定生産・発売にこぎつけたのがこのスカイラインGTである。
レース車両なので当然といえば当然なのだが、必要な操作類以外はすべて外されたインパネ周り。ステアリングの中央部にはギアシフト図が描かれている。インパネ上部に設置されているメーターは回転計。
一時は最新鋭ポルシェ904を抑えてトップを走り、観衆を大いに沸かせた。これが"羊の皮をかぶった狼"として後世まで語り継がれることになる
9.76㎏/PSという、当時の国産車としては驚異的なパワーウェイトレシオを達成し、オーバードライブの5速トランスミッションに3連ウェーバーキャブ、LSD のスポーツキットで武装したこのGTは、全部で34台が出走した2000㏄以下のGT -Ⅱクラスに7台がエントリー。ミッドシップレイアウトで完全に別格の最新鋭ポルシェ904 を抑えて一時はトップを走るなど目覚ましいパフォーマンスで17万人の観衆を大いに沸かせた。最終的なリザルトでも1位のポルシェに次いで2位~6位をスカイラインGT勢で独占するという、華やかな結果を残した。
一見、箱形乗用車風シルエットのクルマが、流線型シルエットの西ドイツ製レーシングカーを追走する場面は、当時、世界レベルを照準とした国産車の高性能の象徴として、"羊の皮をかぶった狼"というあまりにも有名なフレーズと共に語り草になっている。
翌1965 年、量産型のスカイラインGTはほぼこの日本GP仕様のままで市販に移され、国産高性能GTの嚆矢として、市販車としても高いパフォーマンスを誇った。後にシングルキャブ仕様のGT -A が追加されるのに伴いその名称をGT -Bと変更、やがて、1969年にプリンスと日産との合併後に発売されたスカイライン初代GT -R(PGC10 型)へとスカGの血統を引き継ぐことになる。
完全に別格の最新鋭ポルシェ904 を抑えて一時はトップを走るなど目覚ましいパフォーマンスで17万人の観衆を大いに沸かせた。
プリンス・スカイライン1500デラックス(1963年)
1963年に発売された2代目(S50型)スカイライン。初代の米国風フルサイズセダンから一転、ライバルのひしめく1.5Lクラスの小型ファミリーセダンとして生まれ変わった。先進的なモノコックボディを採用し、1.5L・直列4気筒OHV・70psエンジンを搭載。
プリンス・スカイライン2000GT(1965年)
1965 (昭和40)年2 月に登場したスカイライン2000GT(S54B-2 型)は、前年登場したスカイラインGT(S54A-1 型)をより洗練させたグランドツーリングカーだった。 ウェーバー製のキャブレターを3 連装し、当時としてはトップクラスの125ps を発生。最高速度も180km/hに達し、国産最速のスポーツセダンだった。
日産・スカイラインGT-R(1969年)
Gの血統を受け継ぎ、ハコスカのネーミングで愛された初代スカイラインGT-R(PGC10)。レースを闘うために生まれた「GT-R」は、普通のセダンボディ に、打倒ポルシェを目標として開発されたプロトタイプレーシングカー「R380」のノウハウを満載した、当時の常識を超えた高性能車であった。エンジンは、R380 用エンジンを市販車用に再設計した、量産車として世界初の4 バルブDOHC 機構を採用する。
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