
1980年代の中盤から1990年代初頭にかけての日本は、“バブル景気”と呼ばれる異常な好景気に見舞われていて、国全体が開放的な消費モード状態でした。自動車業界でも新型車の開発に多額の資金が投入されて、ハイパフォーマンスなクルマが各メーカーから立て続けにリリースされ、そのパワーと走行性能の高さをアピールしていました。当時“世界ラリー選手権 (WRC)”に「ギャランVR-4」で出場してその技術力の高さをアピールしていた三菱自動車は、そのパワー競争の中に1台の特別なクルマを投入しました。今回は「GTO(Z16A型)」にスポットをあてて、すこし掘り下げていきたいと思います。
●文:月刊自家用車編集部(往機人)
ツインターボの圧倒的なトルクパワーは当時から評判だった。でもなぜV6なのに横置きにしたのか?
三菱「GTO」が発売されたのは1990年です。
当時の国内メーカーは、280馬力の自主規制の枠内でいかにハイパフォーマンスか?を競う競争が激化していました。
最初に日産が「フェアレディZ(Z32系)」をリリースして、すぐに真打ちの「スカイラインGT-R(BNR32型)」を発売。
トヨタは従来型の「スープラ(JZA70型)」の最終モデルで280馬力に押し上げ、ホンダも「NSX(NA1/2型)」を投入しました。
そんな流れの中、三菱は満を持して「GTO(Z16A型)」を発売し、最後にマツダが「RX-7(FD3S型)」をリリースしました。
これらのライバルたちの中にあって、三菱らしいトルク型のエンジンから発する42.5kg-m という頭ひとつ抜けた最大トルクによる加速と、それを受け止める4WDシステムは、発表されるスペックに一喜一憂していたクルマ好きにとっては大きな魅力でした。
しかし、雑誌やカタログなどを見ているうちにある疑問が浮かびます。「なぜV6を横置きするのか?」と…。
三菱GTO(1990年式)
巨大なクーペスタイルのボディにV6ツインターボを横置きでフロントに搭載し、4WDを組み合わせるという、他メーカーではやらない独自のパッケージングを採用。
主要諸元(GTOツインターボ)
全長×全幅×全高:4555×1840×1285mm
車両重量:1700kg
エンジン:6G72型 水冷V型6気筒DOHCツインターボ
排気量:2972cc
最高出力:280ps/6000rpm
最大トルク:42.5kg -m/2500rpm
サスペンション形式:ストラット/ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:225/55R16
三菱GTO(1990年式)
計器類はドライバー側に向けて配置。大きなコンソールと合わせコックピット感に溢れているキャビンも魅力のひとつ。
三菱GTO(1990年式)
シートはサイドサポートを効かせたセミスポーツタイプ。本革シートなどの設定はなかった。
高級車「ディアマンテ」からの流れから生まれたハイパフォーマンスカー
他社のライバルたちは、ミッドシップの「NSX」以外は“FR”または“FRベースの4WD”でしたので、フロントにエンジンを“縦置き”して、プロペラシャフトで後輪に動力を伝える方式でした。
そのなかで唯一、「GTO」だけがフロントに“横置き”しています。これはつまり「GTO」がFFベースだということを示しているのです。
そこで「ハイパフォーマンスカーでなぜFFベース?」という疑問が湧きます。
“3リッターのV6エンジン”で“FFベース”の三菱車といえば、同時期に販売していた高級セダンの「ディアマンテ」が思い浮かびます。
そうなのです。「GTO」は「ディアマンテ」をベースにハイパフォーマンスカーに仕立て直したクルマだったのです。
1990年春に発売された初代ディアマンテは、GTOに先駆けて4輪操舵やアクティブ電子制御サスペンションなどが採用。
1989年、東京モーターショーに参考出品されたコンセプトカー「HSR-Ⅱ」には、GTOやディアマンテに採用された先進技術をいち早く搭載。3リッターV6ツインターボエンジンや速度域で可変するアクティブエアロシステム、フルタイム4WD、4輪ABS、4輪操舵、4輪独立懸架式サスペンションといった四輪制御技術や運転支援技術が採用されていた。
1990年代当時はまだ古(いにしえ)の“FR至上主義”が色濃く残っていて、走行性能を求めるなら“FR”一択、という風潮がある中でしたので、“FFベース”(しかも高級セダン向け)のハイパフォーマンスカーは、やや異端と思われていました。
そのためか「直線番長」とも揶揄されたりしていましたが、逆にいえばその大トルクを活かした直線加速では頭ひとつ抜けていた印象があり、ツルシの状態同士では確かなアドバンテージを持っていました。
ちなみに「GTO」とは「Gran Turismo Omologato」の略で、イタリア語でGTレースのホモロゲーションモデル(公認車)を意味する言葉です。
古くは「フェラーリ・250GTO」で用いられ、公道版のレーサーという意味合いが込められています。
重量級ボディを軽快に走らせる、独自の工夫が目白押し
「GTO」は先述のように3リッターのV6エンジンをフロントに横置きするFFベースの4WD構成です。
パワーユニットはNAエンジン+4AT仕様も設定されていましたが、やはりメインはツインターボ。
2972ccの排気量を持つV型6気筒 DOHCインタークーラー付きツインターボ「6G72型」は、280ps/6000rpmの最高出力と42.5kg-m/2500rpmの最大トルクを発揮します。
これをフロントの車軸より前に横置きマウントして、「ゲトラグ社」製の5速MT(マイナー時に6速MTに変更)とトランスファーを介して4輪に駆動を配分。ラリーで連覇した「ギャランVR-4」譲りの電子制御でコントロールします。
サスペンションは「ディアマンテ」と同様の、フロント:マクファーソンストラット式/リヤ:ダブルウイッシュボーン式となっていて、このときのトレンドだった「4WS(4輪躁舵)」を装備しています。
ブレーキは国産としては初となる「異径対向4ポッドキャリパー」をフロントに採用、マフラーは、室内のスイッチで排気の経路を切り替えて音質を変化させる“アクティブエグゾーストシステム”を採用しました。
外観は、前期型はスポーツカーの象徴だったリトラクタブル式ヘッドライトを採用。オーバーハングにV6エンジンが収まっているとは思えないほど低く構えたスラントノーズは、デザイン部門の努力の成果ですが、ストラット式サスペンションの頭がボンネットと干渉するのを避けるために、ダミーのダクトを装着しているのは苦肉の策です。
ボリュームのあるフォルムが魅力のリヤセクションでは、ハイパフォーマンスカーのアイコンである別体式のスポイラーが備わっていますが、これも速度域に応じて電子制御で角度を変える“アクティブエアロシステム”となっています。
1993年夏のマイナーチェンジ時にリトラクタブルライトは廃止され固定式ライトに変更。1998年にはバンパー形状の変更などフェイスリフトが実施されている(撮影車は1998年モデル)。
ツルシに近い個体は比較的多め。90年代高性能スポーツをリーズナブルに楽しめる
さて、この「GTO」は、先述の内容でも想像できると思いますが、コーナーリングが大好物とまでは言えない構成のクルマです。
ラリー由来の4WDシステムや4WS機構などによって、大柄な車体のわりに曲がるように仕立てられていますが、1700㎏を超える車両重量や、エンジンを車体の前端に配置するレイアウトなど、根本的な部分にビハインドがあるため、チューニングを加えてもサーキットで戦えるような性能は得られませんでした。
むしろ、ビックトルクがもたらす動力性能の余裕や、4WD&ハイテクサスがもたらす安定した走行性能など、高速ツアラーとしての評価が高めです。
そのためか、あまり手を加えずにツルシの状態で大事に乗っている愛好家が多いように感じます。
中古車市場を見てみると、2001年まで販売されていたこと、販売台数が意外と多かったこと、そして他のライバルモデルに比べてカルト的な評価が得られなかったことなどから、同時代のライバルたちに比べると相場は低めに落ち着いています。
アメリカの25年ルールの影響(製造から25年を経過するとクラシックカーとして認められ、排ガステストや衝突安全試験が免除されて輸入・登録が可能に)もあって相場の高騰が心配されましたが、GTOは北米でも3000GTの名前で販売されていたためか、R32スカイラインなどのような深刻な状況にはなっていないようです。
安いものだと100万円台前半のプライスが付いている個体もあるなど、個性的なキャラやスタイリングが好きな人にとっては、なかなか面白いクルマではないでしょうか?
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