「ブタ目」の愛称で呼ばれたトヨタの人気旧車。その魅力と派生する兄弟車の生い立ち。│月刊自家用車WEB - 厳選クルマ情報

「ブタ目」の愛称で呼ばれたトヨタの人気旧車。その魅力と派生する兄弟車の生い立ち。

「ブタ目」の愛称で呼ばれたトヨタの人気旧車。その魅力と派生する兄弟車の生い立ち。

1968年に誕生したトヨタ「マークⅡ」は、高度経済成長の流れに乗って「コロナ」の上級派生モデルとして登場しました。当初は「コロナ・マークⅡ」としてスタートし、2代目では6気筒エンジンを搭載して高級路線へ。そして1976年の3代目(X30/40系)でついに「コロナ」の名が外され、独立した車種としての地位を確立します。この3代目からは、ライバルを凌ぐ高級感を身に付け、さらに多チャンネル販売戦略に合わせて誕生したのが、「マークⅡ・3兄弟」(マークⅡ、チェイサー、クレスタ)です。今回は、トヨタの中級セダンとして時代を彩り、トヨタのハイグレードカー戦略の象徴ともなった「3代目マークⅡ」の成り立ちを紐解きます。

●文:往機人(月刊自家用車編集部)

丸形ヘッドライトユニットを角丸状のベゼルに収めたフロントフェイスの愛嬌ある表情から「ブタ目」という愛称で呼ばれるようになった。

リアデザインは、過度に派手な装飾を避け、水平方向のラインを強調することで、落ち着いた品格を表現している。

「コロナ」の派生グレードから独立車種へ。そして高級路線を歩んだマークⅡ

トヨタ「マークⅡ」の誕生は1968年にさかのぼります。

“オルガン”の愛称で呼ばれた3代目「コロナ(T40系)」の世代に、勢いが増す経済成長の流れに沿うように、コロナよりひとつ格上のモデルとして企画されたのがこの「マークⅡ」でした。排気量や車体サイズなど主な部分で「コロナ」を上回るスペックが与えられていましたが、その成り立ちから正式名称は「コロナ・マークⅡ」となっていて、まだ「コロナ」の派生モデルという位置づけでした。

1972年に発売された2代目では、外観デザインが差別化されて搭載エンジンも高級路線にふさわしい6気筒がラインナップ。それに合わせて型式名も「T系」から「X系(X10/20系)」に変更されましたが、名称はまだ「コロナ・マークⅡ」のままでした。そして1976年に発売された3代目(X30/40系)になってようやく「コロナ」が外されて「マークⅡ」が独立した車種として扱われるようになります。

2代目の世代では、いわゆる「BC戦争」と呼ばれてライバル関係にあった「日産・ブルーバード」に対してやや後追いの気配がありましたが、この3代目辺りからは「クラウン」ゆずりの伸びやかな雰囲気を持った高級感を身に付けて、イメージも販売台数もライバルより1歩抜きん出るようになります。そして、ここで取り上げる“マークⅡ・3兄弟”が誕生したのもこの3代目の世代からでした。

この当時の自動車業界は、高度経済成長期の盛り上がりに合わせてどんどん新たな車種を展開するようになっていました。そうなると、ひとつのディーラーで多くの車種を販売しなくてはならなくなります。場合によっては自社のラインナップ同士で購買動機の項目が競合してしまうこともありました。そこでこの頃の各メーカーは、特徴ごとに販売店網を分類して、複数の販売チャンネルを設けることでセールスの整理をしました。その流れで生まれたのがこの“マークⅡ・3兄弟”です。

販売の主軸にあった中級車種は、異なる販売チャンネルに跨がってラインナップさせるようにしていたため、同じ車種でもそれぞれの販売チャンネルごとに異なる車種名を与えて、デザインや仕様を変えていました。この“マークⅡ・3兄弟”の場合は、ベースの「マークⅡ」が「トヨタ/トヨペット店」、「チェイサー」が「トヨタオート店」、「クレスタ」が「ビスタ店」の専売モデルとしてラインナップされました。正確には「クレスタ」だけは4代目からの登場で、この3代目ではその前身「クレシーダ」の名称で北米を中心に海外専売モデルとして輸出されていました。

ちなみにここで生まれた“マークⅡ・3兄弟”は、4代目の「X60系」に引き継がれ、そのあと6代目の「X100系」まで続きます。

初代コロナ・マークⅡ

コロナの上級車種として1968年に登場した初代コロナ・マークⅡ。当時のトヨタのラインナップにおいて、「コロナ」と最上級車「クラウン」の間に位置する、ミドルアッパー(準高級車)市場を狙った戦略的なモデルだった。

2代目コロナ・マークⅡ

1972年に発売された2代目コロナ・マークⅡは、日産スカイラインGTやローレルを強く意識したモデルで、ボディを大型化し、「クラウンとコロナの間」という上級車路線をより明確にしたモデルであった。

丸目2灯の「ブタ目」はなぜ誕生したのか? 3代目マークⅡに宿る英国エレガンスとアメリカ的スタイリング

この3代目マークⅡの最大の特徴はその外観デザインでしょう。丸形のヘッドライトユニットを角丸状のベゼルに収めた丸目2灯のフロントフェイスは、その愛嬌のある表情から“ブタ目”の愛称で呼ばれるようになり、今に至るまで多くのファンを確保しています。ちなみにこのフェイスデザインは3兄弟で微妙に異なっています。

「マークⅡ」はヘッドライトのすぐ内側に、やや小ぶりな縦長の四角いポジション灯を備えているのが目印です。そのためやや逆台形のグリルは他の2兄弟より幅が狭くなっています。「チェイサー」はそのポジション灯が無く、ヘッドライトの内側はシンプルにやや台形の四角いグリルが鎮座しています。「クレシーダ」は基本的には「マークⅡ」と同様ですが、北米仕様だけはポジション灯がウインカーも兼ねているようです。

全体のスタイリングは、ライバルメーカーと同様にこの時代を表すアメリカ的な雰囲気を持たせながらも、この時期の「ジャガー」や「ロールスロイス」を思わせる英国的なエレガントさを感じさせるテイストでまとめられていました。それがこの当時の消費者のニーズとマッチして“マークⅡ現象”という言葉が生まれるほどヒットし、販売台数を大きく伸ばしました。内装もエレガントな外観と合わせてラグジュアリーな仕上げで、モケット地のファブリックなどが効果的に使われています。

搭載されるエンジンのラインナップはこの代から直列6気筒(2L/2.6L)がメインとなって、廉価版として直列4気筒も用意されるようになりました。サスペンションは、前がマクファーソンストラット式で、後ろがセミトレーリングアーム式の4輪独立懸架(ワゴン&バンは後ろがリーフリジッド式)です。ブレーキも4輪独立懸架仕様車は4輪にディスクブレーキが装備となって走りの面でも充実していましたが、味付けは今となってはかなりコンフォート寄りのソフトなもので、「船に乗っているかのような」という言葉が出るくらいゆったりとしたフィーリングです。

当時のアメリカ車の「ヨーロッパ調セミクラシック」に影響を受け、ジャガーやロールスロイスを思わせる英国的なエレガントさを感じさせるテイストでまとめられた。

この時代のアメリカ車的な雰囲気と、英国車の持つ古典的なエレガンスを融合させた、比較的直線基調でクリーンなデザインのコクピットデザイン。

2L直列6気筒SOHCのM-EU型エンジン。電子制御燃料噴射装置(EFI)を採用し、昭和53年度排出ガス規制にも対応した。高出力は125 PS(グロス値)で、スムーズでエレガントな走りを実現した。

ジャガー、リンカーンも採用! 日本では珍しい「マーク○○」ネーミングがトヨタ独自になった理由

この「コロナ・マークⅡ」という名称を初めて耳にしたときに、「ⅡということはⅠもある?」という疑問を浮かべる人も少なくないでしょう。結論からいうと「マークⅠ」は存在しません。それにあたる車種を強いて挙げると「コロナ」になるでしょう。

この「マーク○○」というネーミングは、日本の車名としては珍しいですが、欧米ではよく見かけるものなんです。例えば英国では「ジャガー・MkⅡ」、北米では「リンカーン・コンチネンタルMkIV」など、複数のメーカーが車名に採用しています。おそらくですが、英国初の戦車として有名な「マークⅣ戦車」など、軍関係の名称に多く見られることから、その法則を自動車に採り入れたのではないかと思われます。日本ではこの「マークⅡ」くらいしか採用されず、結果としてトヨタ独自のネーミングとなりました。

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