
車名の由来は「星(Star)」と「ヘラクレスの愛馬(Arion)」。FRレイアウトに強力なターボエンジンを搭載し、国内外のモータースポーツやハリウッド映画の舞台でも輝かしい活躍を見せた、世界中で愛された三菱のスポーツクーペ。後のド級GTスポーツ「GTO」へと繋がる三菱スポーツのDNA。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部)
エアロスカートは、ノーズよりかなり奥まった位置に装着されていたため、スタリオンの独特のフォルムを演出している。
“フルラインターボ”を掲げた三菱のフラッグシップだった
え!? “種馬”じゃなかったの? 80年代の北米で三菱の名を轟かせた駿馬スタリオン
スタリオンと聞くと、40代以下の人にとっては「ダビスタ」が思い浮かぶかもしれない。90年代にPCやファミコンのソフトとして大ブームを巻き起こし、2020年にニンテンドーSwitch用として復活した競走馬育成シミュレーションゲーム、「ダービースタリオン」のことだ。
しかし、50代以上のクルマ好きが懐かしく思い出すスタリオンは、やっぱり1982年にデビューして、ダビスタ発売前年の1990年まで売られていた、三菱のクーペのほう。「フルラインターボ」を掲げて、1.4Lの大衆FFコンパクトカーのミラージュにまでターボ車を投入していた当時の、三菱のフラッグシップだ。
ちなみにダビスタのスタリオンはStallionと綴り、種牡馬、すなわち繁殖用の種馬を意味するが、クルマのスタリオンの綴りはStarion。空に輝く星のスターと、ギリシャ神話に出てくる勇者ヘラクレスの愛馬の名、アリオンをかけ合わせた造語だ。とはいえ開発者たちは前者の意味も知っていたはず。もしかしたら繫殖馬のように逞しく世界に三菱車の種をまく夢を、その名に込めていたかもしれないし、ファンの中にも、種馬説を信じていた人は多いことだろう。実際、スタリオンはそれぐらい元気のいいクルマだった。
スタリオンターボ2000GSR-Ⅲ(1982年式)
直線基調でリトラクタブルヘッドライトを備えたウェッジシェイプのボディは、今見ても非常にスタイリッシュ。GSR-Vまでは、直線的でスッキリとしたクリーンな面構成が特徴のナローボディを採用した。
主要諸元:スタリオンターボ2000GSR-Ⅲ(1982年式)
●全長×全幅×全高:4400㎜×1685㎜×1320㎜●ホイールベース:2435㎜●車両重量:1230㎏●エンジン(G63B型):水冷直列4気筒SOHCターボ1997㏄●最高出力145PS/5500rpm ●最大トルク:22.0㎏-m/3000rpm●10モード燃費:9.0㎞/L●燃料タンク容量:60ℓ ●トランスミッション:4速AT●タイヤサイズ:195/70HR14●最小回転半径:4.8m●乗車定員:5名 ◎:235万5000円
上級モデルにはデジタルスピードメーターや発光ダイオードのバーグラフタコメーターなどの電子メーターを採用。メーター両側にハザードやライトスイッチをレイアウト。
フルサポートシートと呼ぶドライバーズシートは、無段階調整のサイドサポートや5段階調整サイ(太腿)サポート、3段階ランバーサポート、可倒式ヘッドレストなど6つの調整機能を持つ。
GXを除き搭載エンジンは2Lターボ。1988年に2.6Lへ。
後席は分割可倒式。シートを倒せばハッチゲートから大きな荷物を積むこともできた。
北米では三菱製のモデルは2ドア車しか売らない契約だった
戦後日本の自動車産業は、北米市場での成功を足場に世界に進出してきた。1970年に三菱重工から独立した当時の三菱自動車工業も例外ではないが、彼らは独力で北米市場を開拓するよりも、手っ取り早く現地のメーカーと提携する道を選んだ。三菱自動車工業が発足する2か月前に、親会社となる三菱重工はクライスラーと合弁契約を締結し、1971年には、三菱の出世作となったコルトギャランが、クライスラーの販売チャンネルからダッジコルトの名で売り出されている。
三菱重工は、戦後GHQ(連合国軍総司令部)の命令によって三社に分割されていた1950年から、東日本重工業がカイザー=フレイザー社のヘンリーJを、中日本重工業が1953年から、そのカイザー=フレイザー社に買収されるウイリスオーバーランド社のジープを、それぞれノックダウン生産していた。ウイリス社がさらにアメリカンモーターズ社傘下を経てクライスラーの一員となったという経緯から、クライスラーとの合弁は自然な流れではあった。
ただし、当時のクライスラーは世界の自動車産業を牛耳っていたアメリカのビッグ3の一員。東洋の新興自動車メーカーだった三菱との契約には、あまり公平ではない条項もふくまれていた。日本で生産されたジープをアメリカなどの先進国に輸出することは禁じられていたし、北米市場でクライスラーチャンネルから売られる三菱車の商品企画にも、いちいち注文が付けられた。そもそも当初は、北米のクライスラー販売店では三菱製のモデルは2ドア車しか売らない契約だったのだ。
スタリオン2.0GSR-V(1984年)
1984年、世界初の可変バルブ機構を採用した「シリウスDASH 3×2エンジン」を搭載したハイパフォーマンスグレードGSR-Vが追加された。当時、2Lクラスではトップクラスのグロス200PSを発揮。
「ダッジコルト」「プリムス・アロー」…クライスラーの小型クーペとして成功した三菱車を統合して誕生したスタリオン
1971年当時の北米では、日産の初代フェアレディZが大ヒット中だった。後からやってきたトヨタセリカも好評で、北米でのクーペの主流であるハッチバックボディのリフトバックも後から上陸すると、爆発的な人気を得た日本国内と同様に、チェリカと呼ばれて若者たちの支持を得ていた。
それらに対抗する小型クーペは、フルサイズ車が全盛だった当時のビッグ3には苦手なカテゴリーだ。クライスラーとしては、自分たちではうまく作れないそれを三菱に作らせればいいという考えだったのだろう。
かくして、1971年にギャランHTがダッジコルトとして北米デビューを果たし、後継車としてギャランΛがプリムス・サッポロ、ランサーセレステがプリムス・アローの名で売られて、クライスラーの小型クーペとして成功する。それらを統合した後継車として誕生したのがスタリオンだ。
ダッジ(プリムス)・コンクエストの名で北米デビューしたスタリオン。日本仕様は小型車枠ボディに2Lターボで武装
当初はセレステの後継となるコンパクトなクーペが企画されていたが、クライスラーはより上級の車格と性能を要求した。1980年当時の北米では、2代目フェアレディZやセリカに加えて、本革シートやサンルーフを装備した優雅なホンダのプレリュードや、ポルシェ944と対等の勝負ができるロータリーエンジンのマツダサバンナRX-7など、魅力的な日本製スポーツカーが人気を得つつあったのだ。
そうして、スポーティなリトラクタブルヘッドランプを備え、直線基調の迫力あるデザインを纏ったFRスポーツクーペのスタリオンが、ダッジ(またはプリムス)・コンクエストの名で登場した。まだ3ナンバーの普通車には抵抗があった日本では小型車枠のボディに2Lのエンジンを積み、ターボで武装したが、北米仕様ではボディは同じだが搭載されるエンジンはNAの4気筒ながら2・6L。足回りも日本仕様には一部リンク式リジッドリヤサスが残されたが、北米向けは4輪ストラットの独立サスで、トルクフルでスポーティな走りを実現していた。
日本仕様はほとんどのグレードに2Lターボが積まれ、当初は145PSと控えめな出力だったが、1983年には国産車初のインタークーラーターボでグロス175PSを発揮。1984年には、グロス200PSに到達したGSR-Vも加わった。バブル最盛期の1988年には、ブリスターフェンダーを備えた拡幅ボディの2・6Lも日本に導入されている。
スタリオンGSR-VR(1988年)
1988年に追加された最終進化系グレード「GSR-VR」は、迫力あるブリスターフェンダーを装備した3ナンバーワイドボディを採用。
主要諸元:スタリオンターボ2600GSR-VR(1988年式)
●全長×全幅×全高:4410㎜×1745㎜×1320㎜●ホイールベース:2435㎜●車両重量:1320㎏●エンジン(G54B型):水冷直列4気筒SOHCインタークーラーターボ2555㏄●最高出力175PS/5000rpm ●最大トルク:32.0㎏-m/3000rpm●燃料タンク容量:75L●トランスミッション:5速MT(4速AT)●タイヤサイズ:前205/55R16・後225/50R16●最小回転半径:4.8m●乗車定員:5名
視認性と実用性を重視した多眼式のアナログメーター(スピード、タコ、ブースト圧計、油圧、水温、燃料)中央に配置。ヘッドライトやワイパーなどの主要な操作系もステアリングのすぐ近くに集約され、ドライバーはハンドルから大きく手を離すことなく操作することができた。
大型サイドサポートにより、サポート性に優れたバケットタイプのスポーツシートを採用。
2.6L(2597cc)の直列4気筒SOHCターボエンジン(G54B)へと換装。最高出力は175ps(ネット値)と若干控えめの数値だったが、32.0kg-mという大トルクをわずか3000回転で発生させたため、軽くアクセルを踏むだけで官能的な加速感を味わえた。
前後独立した減衰力8段可変切替ショックアブソーバーをオプションとして用意されていた。
プロトタイプの4WD車によるWRCへのスポット参戦も行われ、のちのランエボの活躍へと繋がっていった
1983年に公開されたハリウッド映画「キャノンボール2」では、人気アクションスター、ジャッキー・チェンの愛車としてスクリーンを爆走するなど、プロモーションも活発だったほか、1984年に三菱のワークスモータースポーツ部門となるラリーアートが設立されたこともあり、サーキットにも活躍の場は広がっていった。
高橋国光選手/中谷明彦選手のコンビがボルボ240などの海外勢を相手に多くの優勝・入賞を果たしたツーリングカー選手権を始め、プロトタイプの4WD車によるWRCへのスポット参戦も行われ、のちのランエボの活躍へと繋がっていったのだ。
日本国内では、ライバルより武骨ないでたちのためか大ヒットとまでは言えなかったスタリオンだが、北米では合格点。マッチョなイメージは後継となる横置きエンジンのエクリプス(これも競走馬の名に由来する。現在のエクリプスクロスとは違う、主に北米向けのクーペとカブリオレ)やGTO(クライスラーではダッジ・ステルスとして販売。日本では重戦車とも呼ばれた)にも活かされ、北米における三菱のブランドイメージを固める役割を果たしたのだった。
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