
日本からすぐ近くの隣国・韓国。カルチャーの浸透が進む一方で、その「クルマ社会」の実態は意外と知られていません。SUV主流の日本とは真逆のセダン人気や、東京以上の猛烈な慢性渋滞、一変した路上駐車環境まで。初夏のソウル周辺を実際に走り、現地で見聞きしたリアルなモビリティ事情をお届けします。
●文:まるも亜希子
SUV人気の日本と真逆?ソウルの街にセダンが多い理由
ファッション、グルメ、美容にエンターテインメントと、韓国の文化は若い世代を中心に日本にも急速に浸透しつつある。自動車業界でも、一度は撤退したヒョンデ(以前の日本での呼称はヒュンダイ)の日本再進出に続き、今年に入って日本初進出となるキアも販売をスタート。
どちらも日本ではBEVモデルのみのラインアップとなるものの、ヒョンデは再進出初年度にいきなりIONIQ5が日本COTYのインポート・カー・オブ・ザ・イヤーに輝くなど、世界第3位(ヒョンデグループ全体)のシェアとなるその実力を見せつけている。
そんな韓国の現在のクルマ事情はどうなっているのか、初夏に出かけてソウルを中心に見聞きしてきた。
今回はソウル中心部から30〜40km程度離れた城南、京畿道といった場所へ車で移動したが、すぐに感じたのは走っている車両のボディタイプにセダンが多いことだ。
日本ではすでにセダンは少数派で個人車両よりもタクシーの方が多く感じるほどだが、現地の自動車メーカー関係者に聞いたところによると、韓国ではまだまだセダン人気が根強いという。ひと昔前よりはSUVも増えているものの、とくにエグゼグティブ層のあいだでは、依然としてセダンのステイタス性が際立って高いというのだ。
実際、中古車を展示しているショールームを訪れると、たくさんのセダンが展示されていて、ちょうど2組ほどの来客があり、やはりセダンのキア・K8やキア・K9をじっくりとチェックしていた。市街地ではヒョンデ・グレンジャーやヒョンデのプレミアムラインとなるジェネシスのセダンも多く走っている。
ただし女性には、韓国の軽自動車規格となるスモールカーが人気で、とくにトールワゴンのキア・Rayやヒョンデ・インスターなどをあちこちで見かけることができる。ソウル市内でも、まだまだ昔ながらの街並みが残る地域では道幅が狭く、ヒョンデ・ポーターのような小型トラックも活躍しているようだ。
キアの認定中古車ショールーム(Kia Certified Pre-Owned)の様子。手前には黒のフラッグシップセダン「K9」が鎮座し、奥には女性に人気が高いスモールカー「Ray」が並んで展示されている。
不買運動からEVシフトへ。韓国市場における日本車の現在地は?
そして韓国は圧倒的に国産車のシェアが高いことも特徴だ。約9割が国産車となる日本ほどではないが、2025年度の販売台数で見ると、約8割が韓国メーカーとなっている。
海外メーカーではメルセデス・ベンツ、BMW、MINI、アウディといったドイツ勢が強く、テスラも増えているという。
その一方、日本メーカーはすでに2020年に日産が韓国市場から撤退。ホンダも今年いっぱいでの撤退を2月に発表したばかりで、衰退している状況が見てとれた。そんななか唯一奮闘しているのはレクサスで、2025年にはES300hが販売を牽引し、輸入車販売台数ランキングで6位を獲得している。
およそ15年前にソウルモーターショーや釜山モーターショーを取材した際には、日本メーカーの勢いも強かっただけにこの現状は残念に感じてしまう。
日本車が衰退した理由としては、2019年に日本製品不買運動が起こったことや、日本政府が韓国向け半導体材料の輸出管理を強化したことが大きいといわれており、実際に2019年の日本メーカーの販売台数は前年比19%減となっている。またテスラの躍進により「BEVの方が先進的」というイメージができつつあり、ハイブリッドに強くBEV戦略に出遅れた日本車の後退を進める原因となったともいわれている。
韓国で強い需要を維持するセダン市場を意識し、カムリの大型グラフィックを掲げるトヨタのショールーム。国産車が約8割を占める韓国市場において、日本ブランドが直面する厳しい現状が伺える。
30kmに2時間!猛烈なソウルの渋滞がヤバすぎる
移動していてもう一つ実感したのはソウル市内の慢性的な渋滞だ。
東京なら30〜40km先へ移動すると多少の渋滞があっても1時間見ておけば到着するイメージだが、今回は何度か2時間近くかかることがありスケジュールにしばしば乱れが生じた。
ソウルとその周辺はいくつもの幹線道路が整備されており、片側4〜5車線あるにも関わらず、とくに事故や工事などが原因ではなくてもノロノロとしか進まない時間帯が多い。
現地のドライバーに聞くと、それはソウルの中心部を東西に漢江という川が流れていることが原因のひとつだという。
江南から江北など南北へ移動する場合には、どうしても橋やトンネルを通過しなければならず、そこに車両が集中するためボトルネックになりやすい。2025年のソウル市内の平日の道路交通量は1日あたり約983万台となっており、集計方法が異なるので単純比較はできないが、東京23区内が1日あたり約700万台と考えると、ソウルは交通量そのものが多いことがわかる。
また、ひと昔前の韓国ではどこにでも路上駐車をしている印象があったのだが、今回はほとんど路上駐車している車両を見かけなかった。飲食店の店主に聞くと、実際に取り締まりが厳しくなっているという。道幅が狭い市街地では、路上駐車をした車両はレッカー移動する旨の標識も確認できた。
これは歩行者の安全を守る意識が高まったことや、消防や救急といった緊急車両を通行しやすくするためといった理由が大きい。巡回車での取り締まりもあるが、CCTV(監視カメラシステム)やAIでの取り締まりが進んでおり、住民からの通報も増えたらしい。
漢江にかかる橋は美しく、夜になるとライトアップされたり川沿いに建つ高層マンションを背にまた違った顔を見せる。そんなソウルドライブはアジアというよりヨーロッパの都市を思わせる一面もあり、韓国メーカーのクルマに乗る時にはそうした背景を考えてみるのも面白いかもしれない。
ソウル市内の高層ビル群を背に、交差点へとなだれ込む車列。片側複数車線の広い幹線道路にもかかわらず奥まで車両が隙間なく続き、ソウル市内の交通量の多さと激しい混雑ぶりを物語っている。
路上駐車が激減したソウル市内の路上風景。AIや監視カメラ(CCTV)による取り締まり強化や市民の通報制度により、バスなどの大型車両や緊急車両もスムーズに通れるクリーンな道路環境が保たれている。
「レッカー移動」の標識が設置された市街地の風景。昔ながらの狭い路地が残るエリアでは、緊急車両の通行確保や歩行者の安全のため、こうした標識や監視カメラによる厳格な取締が進んでいるとのこと。
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