2022年11月16日にワールドプレミアされた5代目となる新型プリウス。斬新なエクステリアデザインにシリーズ初の1.8L/2.0Lという異なるエンジン排気量を持つハイブリッドに2.0Lエンジンを搭載するPHEVも同時に発表された。ハイブリッド車は今冬、PHEVは2023年春の発売が予定されているが、今回富士スピードウェイのショートサーキットでハイブリッド車のプロトタイプに試乗することができた。まずは新型プリウスの印象、そして1.8L/2.0Lハイブリッドの走りの違いについてお届けしよう。
●文:川島茂夫 ●写真:トヨタ自動車株式会社
積極的に選びたくなる、生活四駆から大幅に進化した電気式AWD・E-Fourの走り
ワールドプレミアで目の当たりにした5代目プリウスの姿には少なからず衝撃を受けた。コーダトロンカ状に処理された涙滴型のスタイルをモチーフにしたところは「プリウス的」ではあるが、プリウス系統の新たな4ドアクーペといった印象のほうが強かった。そんな5代目が一体どのような走りを示すか。とくにGR的方向でスポーツ色濃い味付けになるか、まったく予想も付かない。
果たして、プリウスの走りはプリウスだったのだ。
富士スピードウェイのショートサーキットは平坦直線路もほとんどなく、実用域の特性を試すには不向きなのだが、限定された条件ながら大まかな特性は確認できた。
動力性能面では先代の特性とよく似ている。基本的には穏やかな加減速コントロールでの加速や巡航速度の調節しやすさを主とし、全閉全開を繰り返すような走りでは最大加速度までのタイムラグは長め。ドライブモードを切り替えても基本特性は変わらない。
また、高負走行ではエンジン回転数は高回転を維持する。全開近くでそうなるのは当然だが、感覚的な加速の盛り上がりや伸びに欠くポイント。この試乗環境ではチェックが難しいが、これまでの制御傾向を考えるならば低中負荷域でのエンジン稼働の制御はもう少し速度と連動したものとなりそうだ。
ただ、応答が悪いわけではない。微細なペダルコントロールでも反応遅れはほとんどない。急激なアクセル踏み込みの時はトルクの立ち上がり方を鈍した感じ。
また、これは1.8L車と2L車でも大きく変わらない。パワースペック分だけ2L車が加速性能に優れている。つまりは急加速や高速域での余力が高まっているが、瞬発力や加減速の小気味よさに変化はない。2L車は燃費も含めて高速巡航性能を高めた仕様と理解すべきだろう。
フットワークについては乗り心地のチェックができなかったが、ロール等におけるサスストロークの大小では新旧でそれほど大きな違いはなかった。新型では195/50R19という大径/ロープロファイル/ナロートレッドのタイヤを履くが、意外とマイルドな接地感を示した。ちなみにブランドは現在のところブリヂストンのエコピアと横浜ゴムのブルーアースの二銘柄に限定されている。
いずれにせよ、サスチューンはスポーツを標榜するには柔らかめの設定であり、一般用途での刺激の少なさ、高速や山岳路の安心感をバランスさせたのがプリウスらしさである。
操安性は急激な回頭変化少なく、深めの舵角でラインコントロール性を保持するタイプ。要するに操舵に対して神経質ではなく、それでいて思ったラインに乗せやすい。
高速から減速なしの急転舵や全制動からの旋回、加速しながらの旋回などを試してみたが、特性が大きく変わるようなこともなかった。状況別のドラテクを用いずに同じような運転で対応できるのはドライバーに安心と余裕を与えるキーポイントでもある。
併せて試乗した従来車も大まかには同じような特性なのだが、安定感が違っている。コントロール性は大差なく、危なげなさも同じ。だが、体感する微妙な車体の動きが違っている。旧型では大きな横Gを受けている時に回頭方向に微妙に揺らぐような挙動が混ざる。それでラインが乱れることもなく、修正操舵も不要なので安定”感”としたのだが、クルマの体幹が強くなったような印象だ。
新型の走りのもうひとつのポイントは4WD車の後輪駆動力の強化。従来車は小出力の誘導モーターを用いたE-Fourを用い、発進時の駆動補助を主目的に低速域でのみ稼働。いわゆる生活四駆だった。対して新型はノア&ヴォクシーと同じく同期モーターを用いたeアクスルを採用し、後輪駆動容量を大幅アップ。トルクフローインジケーターを加速や旋回中に頻繁に前後駆動力配分を制御。後輪駆動力を積極的に使う。
滑りやすい路面での発進性能や操安性向上が主眼とは思うものの旋回時の前輪の負担減もあって限界域でのコントロール性や駆動余力もアップ。サーキットでの速さを求めるようなモデルではないが、加速と回生で後輪を上手に使うことでFF車よりも無理が利けば、安心感も高まる。従来車では4WDを選ぶメリットは雪路での発進性能くらいだったが、新型は一般路面でも操安性や乗り味にメリットがある。
この試乗で感じられた新型の走りだが、従来までのコンセプトを維持して安心感や質感、余裕などを向上。つまりは正常進化といえる。ファントゥドライブやスポーツ感覚にこだわれば物足りなさを感じるものの、プリウスらしい賢明なウェルバランスが保たれたのは既存のプリウスユーザーには歓迎される点である。4ドアクーペ的な外観にしてもSUVを含むハイト系実用モデルを背景にすれば今様セダンの在り方だろう。しかも、低全高化を図りながら居住性や乗降性などの使い勝手を従来車と同等としているのも見逃せない。
省燃費で安心感が高く、長距離も街乗りも無難にこなせる汎用性。燃費性能のリーダーではなくなったプリウスだが、プリウスユーザーの実態を的確に捉えたまとめ方と進化はプリウスらしくもある。近未来から現在の最適へと軸脚を移したのが五代目と言えそうだ。
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