
●文:Nom(埜邑博道) ●写真:楠堂亜希 ●取材協力:ヤマハ発動機
日系二輪大手のヤマハ発動機は、創業当時から四輪ビジネスにも深くかかわってきました。
とくに有名なのは、1968年にトヨタが発売した2000GTに搭載された並列6気筒DOHC12バルブエンジンと、1983年に登場したカローラ・レビン/スプリンター・トレノ(通称ハチロク)に搭載された1600㏄DOHC8バルブエンジンの提供ですが、四輪開発の専門部署を設けて、70年代以降も主にトヨタ車向けの高性能エンジンの提供を行ってきました。
しかし、近年のカーボンニュートラルの大きなうねりとともに、長年継続してきた四輪用エンジンの提供というビジネスモデルに暗雲が立ち込め始めました。
そこで、ヤマハが新たな四輪ビジネスとして取り組んでいるのが、EV用の「疑似エンジン音」を車両メーカーに提供するというもの。BOSEやハーマンインターナショナルという先行する海外音響メーカーなどに交じって、基本的に無音のEVに電子デバイスによるエキサイティングなサウンドを付加する「αlive AD」(アライヴ・エーディー、エーディーはアコースティック・デザインの略)というシステムを用意しているのです。
きっかけは、2015年に車外騒音規制が強化されたことで、それまで進めていたエンジンサウンド作りが難しくなり、室内で耳に届くサウンドをチューニングする方向へと舵を切ったことだったそうです。
そして、本格的なEV時代を迎えて、それまで培ってきたエンジンサウンドつくりのノウハウと、系列会社であるヤマハ(株)の音響技術を融合した独自の電子サウンドを作り出すことに注力し始めたのです。
先行する競合メーカーが多数いる中(日系自動車メーカーではスズキとダイハツ以外はすでに疑似エンジン音を採用しているそうです)、こだわっているのはヤマハらしいスポーティさと、車両イメージに合った音。アライヴ・ADという名称のとおり、その車両に合った音源(これもPC上で製作)をベースに、車種ごとに室内でドライバーの耳に届くサウンド(吸気音)をデザインしていくのです。
システムはとてもシンプルで、スマホサイズのアンプ内蔵ECU(これが通称・電子デバイス)と専用スピーカーのみ。車両のCAN情報とこのECUが連動することで、実際の車両の加減速に同調して、専用スピーカー(ダッシュ内に配置が理想)から加速サウンドが室内に響き渡ります。
アライヴ・ADのシステムはいたってシンプルで、スマホと同じくらいの大きさのアンプ内蔵ECU(出力:15~20W、2チャンネル)とフルレンジの専用スピーカーで構成される。専用スピーカーの設置場所が重要で、車体前方のダッシュ内がベストな位置で、ダッシュ内で音を乱反射させることで最適な音がドライバーに届くそうだ。
車体からのエンジン回転数やアクセル開度、車速、ブレーキ開度、シフト位置といったCAN情報をアンプ内蔵ECUに入力することで、電子サウンドとそれらの情報が連動。専用スピーカーからリニアに車両の加減速などといった状況に応じたサウンドが奏でられる。車両の状態と連動しているため、とても自然に感じられた。
先行他社と異なるところは、先行メーカーはハード(ECU)の提供のみですが、ヤマハはソフト(サウンド)も提供しようとしているところ。これは、レクサス・LFAで作り上げたエンジンサウンドが「天使の咆哮」とメディアなどで大絶賛された経験と実績を生かそうというものです。
レクサス・LFAに搭載されている4.8LV10エンジンの音も、アライヴ・ADではないが、サージタンクの改良、吸気口の作り込み、2系統吸気などさまざまな手法でヤマハによって作り上げられ、そのどこまでも上り詰めるようなハイトーンサウンドは「天使の咆哮」とメディアに評された。このときの経験もアライヴ・ADでの音つくりに生きている。
実際にサウンドを体験してくださいということで、取材当日、トヨタ・86(エンジン車)とニッサン・リーフ(EV)がテストコースに用意されていました。このアライヴ・ADはEVのみならず、ガソリン車にも応用が利くのです。
86にはパワー感を増幅したものと、伸び感を重視したものの2種類のサウンドが用意されていて、どちらもSTD(付加音なし)の状態よりも明らかに迫力が増し、スポーティに操っている感覚を感じられました。
そして、基本的にインバーター音と風切り音しかしないリーフですが、こちらは3種類のサウンドが用意されていて、①EVらしいインバーターの音を増幅したもの、②エンジンっぽいランブル(ゴロゴロした音)を入れたもの、③EVらしいインバーター音にダイナミックさを加えたものでしたが、いずれもEV特有の無味乾燥さとは大きく異なり、ドライバーにアドレナリンを分泌させるような迫力あるサウンドでした。
そして気づいたのが、アライヴ・ADは加速・減速に合わせてサウンドがリニアに変化するため、速度など、運転している状況が把握しやすくなること。例えば減速しながらコーナーに入るようなときでも、曲がるきっかけなどもつかみやすくなっていました。
エキサイティングなサウンドによるファン(楽しさ)だけではなく、アライヴ・ADは安全面にも大きく寄与するのだと思いました。
残念ながら、車両メーカーへの採用実績はまだないとのことですが、バイク好き、クルマ好きをうならせる「本物」の音を知り尽くしているヤマハの今後の取組みに大いに期待しましょう。
聞けば驚く、実際の「サウンド」はコチラ!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(新車)
オートサロン2025で披露された注目バージョンが市販化 2020年に発売が始まったGRヤリスは、走りに直結するさまざまな改良を頻繁に行うことでも有名なモデル。それだけメーカーのこだわりが強いことをユー[…]
WLTCモードで295kmの航続距離を確保 新型軽EV「N-ONE e:」は、「e: Daily Partner」をグランドコンセプトに掲げ、日々の生活をより豊かにするパートナーを目指して開発。 EV[…]
熟成が進んだ走行メカニズムにより、上質な走りを実現 レクサスISは、1999年の初代モデルから「クルマを操る楽しさ」を追求するコンパクトFRセダン。これまで四半世紀以上のあいだ、グローバル40か国と地[…]
グロッシーブラックのアクセントで存在感をプラス 今回導入される「XC60 Ultra B5 AWD Dark Edition」は、今年6月に内外装がリフレッシュされた最新のXC60マイルドハイブリッド[…]
55年の歴史に敬意を表した特別なレンジローバー 1970年の誕生以来、レンジローバーは「ラグジュアリーSUV」という新しいカテゴリーを創造し、そのセグメントを常に牽引してきたモデル。 快適な乗り心地と[…]
人気記事ランキング(全体)
全方位型のツインタイプの小型ファン 先日、ヘッドレストに装着するタイプの扇風機を愛車に導入したのだが、ファンとしてはオーソドックスな丸型タイプの扇風機も使う機会があったので、便利そうな2種を紹介してい[…]
前席は快適でも、後席は意外と暑くて不快な場合も… まだまだ強い日差しが照りつけるこの季節、車内の冷房の稼働は必須と言える。クルマに乗り込んで、涼しい風に当たって「はぁ〜涼しい…」と、ひと息ついていると[…]
2人旅に特化したゆとりある空間 TR540S Joinの魅力は、まず「2人旅に特化」と割り切った設計にある。就寝人数を2名(乗車人数は5名)に絞ったことで、車内レイアウトに余裕を生み出し、広々としたダ[…]
標準ボディで実現する扱いやすさと快適性 レグラス プロの大きな特徴は、ハイエースの標準ボディ・標準ルーフを採用している点にある。全高が抑えられているため立体駐車場や一般的な駐車場にも収まり、街乗りや買[…]
乗用ミニバンの優れた居住性と走行性に車中泊のための快適機能をプラス メティオのラクネルシリーズはバンコンから軽キャンパーまで様々なタイプの人気モデルがそろうが、今回紹介するラクネル ステイ•スイートは[…]
最新の投稿記事(全体)
初期モデル 高嶺の花だったマイカーという夢を、現実のものにした立役者 今では日本人にとって欠かせない足となっている軽自動車の規格は、1955(昭和30)年に全長3m、全幅1.3m、排気量0.36L以内[…]
オートサロン2025で披露された注目バージョンが市販化 2020年に発売が始まったGRヤリスは、走りに直結するさまざまな改良を頻繁に行うことでも有名なモデル。それだけメーカーのこだわりが強いことをユー[…]
BYD初のステーションワゴン 世界初公開された、新型ハイブリッド車「BYD SEAL 6 DM-i TOURING」は、BYD初のステーションワゴンであり、同社が独自に開発したプラグインハイブリッド車[…]
乗用ミニバンの優れた居住性と走行性に車中泊のための快適機能をプラス メティオのラクネルシリーズはバンコンから軽キャンパーまで様々なタイプの人気モデルがそろうが、今回紹介するラクネル ステイ•スイートは[…]
東洋工業(マツダ)は、戦後復興に貢献した3輪トラックのトップメーカーだった プロ野球チーム広島東洋カープは、かつて野武士集団とも形容された個性的な市民球団だ。その歩みは長く、球団オーナーを務める松田家[…]
- 1
- 2