ボルボは2030年までに全モデルをBEV化することを公言しており、2023年には全体の15%強となる11万台ものBEVを販売している。今回国内導入が始まったコンパクトSUVのEX30は、その流れをさらに加速させるモデルとして大きな注目を集めている一台だ。
●文:川島茂夫 ●写真:編集部
“BEV普及”という使命が与えられた、ボルボBEVのエントリーモデルが上陸
「環境負荷の少ないクルマ」は、ボルボの重要な開発テーマのひとつであり、これまでにも汚染大気を浄化する触媒機能が与えられたラジエターの採用など、自車のエンジン性能に留まることなく環境性能の向上を図っている。そんな活動を考えるならば、2021年に発表された「2030年までに全モデルのEV化」というアプローチは、当然とも思える。
具体的なアプローチとしては、既存モデルをベースに純EV(BEV)化を進めてきた。現行ラインナップではXC40/C40リチャージ(ピュアエレクトリック)の2モデルだったが、そこに新たに加わったのが、今回紹介するEX30だ。
車体寸法はヤリスクロスより多少大きい程度で、全幅を除けばコンパクトSUVでも小柄で、タウンユースにも程よいサイズ。BEV専用プラットフォームは、床下に駆動バッテリーを置くこともあって、プロポーションに対してホイールベースは長めだ。駆動方式は最近のボルボ車としては珍しく、RWD(後輪駆動)を採用している。
2WDを後輪駆動とするのはBEVならではのトレンドのひとつで、XC40/C40のBEVモデルも、昨年、駆動方式をRWDに変更している。これはエンジンを搭載する制約がないため、駆動系をコンパクトに効率良く纏めることができる、BEVならではの強みだ。
日本向けは、最も航続距離が長い「Ultra」グレードを導入
グローバルでのEX30には、RWDモデルにはコスパと耐久性に優れたLFP型と、エネルギー密度に優れた大容量のNMC型の異なる2タイプのリチウム電池を設定。さらに高性能仕様となるツインモーター4WDモデルを加えた、3タイプのパワートレーンが用意されているが、日本導入モデルはRWDとNMCバッテリーを組み合わせた、最も満充電航続距離の長い仕様の「Ultra」のみとなる。カタログ航続距離(WLTC)は560kmだ。
運転席に乗り込んでみて、まず驚くのは、キャビンまわりのシンプルなデザイン。ステアリングの奧にも上方にも計器盤がない。情報計はすべて中央に配置された12.3インチディスプレイに表示される。一般的なインパネに比べると、際立ってクリーンなデザインであり、スピーカーの存在感さえ消している。コックピット特有の機能感がなく、そのスマートな佇まいは、自動運転技術が普及した時代のコックピットを予感させる。
ただ、インパクトは大きい分だけ、馴れも必要だ。速度などの運転に必要なデーターは中央ディスプレイ上部に表示されるのだが、経験則に沿った運転視線のイメージとはちょっと外れる。
また、ディスプレイの操作方法もこれまでのボルボ車と異なっており、どちらかといえばGUIとタッチパネルに特化したパッドPCの操作感に近い。スマホ世代にとっては馴染みやすいだろうが、中には不便に思う人も出るだろう。そんな操作感のギャップを埋めるために、ボイスコマンドが充実していることもEX30の特徴だ。
BEVになっても、ボルボらしい落ち着きのある走りの魅力は不変
一方、走りについては、ボルボ車らしい上品な味付け。加速や操縦性の切れ味はそれほどでもないが、コントロール性に富んだ特性で、運転がしやすい。ステアリングもアクセルワークも少し乱暴に扱った程度では破綻することもなく、角を落として綺麗に繋いでいく。
後輪駆動と低重心設計の効果もあって、ハンドリングの滑らかさや、乗り心地のしなやかさは車格から想像していた以上。良質な内装と4名の長時間走行にも不足ない居心地の良さもあって、ロングドライブも悠々とこなしてくれる。急速充電器の設置状況など、BEVを支えるインフラ面に不安があるため、万人にオススメしにくい一面はあるが、この問題がクリアできるユーザーにとっては、性能面でも価格面でもかなり魅力的。BEV時代でも、クルマの楽しさを実感できるモデルに仕立てられていた。
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