
先日、日産は2023年度(23年4月~24年3月)の国内電気自動車販売において、サクラ(SAKURA)が販売台数No.1になったことを発表した。軽離れしたデザインや上質なキャビン空間、さらに比較的求めやすい価格設定など、売れる理由はいろいろと予想できるが、それでもこれほどまでのヒットモデルになるとは想像していなかった人も多いはずだ。ここでは改めてサクラが人気を集める理由を考察してみたい。
●文:横田晃/編集部
順調な伸びを見せるサクラの販売台数。2023年度は国内EVシェアの40%超を獲得
日産自動車は2024年4月11日付けのニュースリリースで、同社の軽乗用車EV(電気自動車)のサクラが、2023年度(23年4月~24年3月)の国内電気自動車販売台数ナンバー1を獲得したと発表しました。それによれば、サクラの上記期間の累計販売台数は3万4083台で、日本国内のEV販売台数としては2022年度に続く連続での首位獲得。2023年度における国内のEV販売台数に占めるシェアは、約41%に達するといいます。
本サイトの兄弟となる「月刊自家用車」編集部調べのデータでは、サクラの2024年3月単月の販売台数は3228台で、前年同月比111.8%、前月比123.7%となっています。サクラの発売は2022年夏でしたから、しり上がりに販売を伸ばしていることになります。ちなみにこの数字は、3月に3477台売れたスズキの人気軽乗用車、アルトラパンに迫るもの。サクラの兄弟に当たる三菱ekクロス EVと合わせると、ラパンを上回ります。
空間効率の高いパッケージングだが、和をテーマにした独自のプレミアムデザインを注入することで、普通の軽自動車とは違ったイメージを楽しめる。実際、プロパイロットなどの上級装備が備わる最上級の「G」が30%以上のシェアを持つ。
実際に、街中でサクラを見かける機会は確実に増えています。とくに夜になると、サクラはグリル中央の日産エンブレムが鮮やかに発光していて「あ、サクラだ」と分かります。ときには東京郊外の最寄り駅まで家族を迎えに行く1㎞ほどの道のりで、複数のサクラとすれ違うこともあり、「売れてるな」と思っていたのです。
世界的には停滞感があるEV市場だが、なぜサクラは売れ続けるのか?
一方で、世界市場ではEVの販売頭打ちがいわれています。EV市場のパイオニアとして急成長したアメリカのテスラも、販売が伸び悩んで値引き拡大を余儀なくされ、新興EVメーカーが勃興して隆盛を極めていた中国でも、競争激化と販売鈍化で中小メーカーの倒産も始まっています。じつは日本でも、サクラと同じ日産が2010年に世界初の量産EVとして初代を発売した小型車、リーフの現行モデル(2代目)は、3月の国内販売台数わずかに575台と、お世辞にも好調とは言えません。
では、サクラの好調はどう読み解くべきなのでしょう。筆者は「現在のEVの立ち位置を的確に商品化したサクラの価値を、日本の消費者が正しく理解した」のだと考えています。
高価なバッテリーが、EV普及の大きな足かせ。それを逆手にとって……
EVが地球温暖化防止のために目指すべきカーボンニュートラルな未来車の、大きな柱であることは確かです。ただし、それは唯一絶対の正解ではなく、またあらゆるシーンに適合する万能解でもありません。
ユーザー目線でも、バッテリーが高価なために価格はエンジン車より高く、それでいて航続距離はエンジン車より短め。しかも、世界的にも充電施設の整備が地方部にまで及んでおらず、安心して長距離ドライブを楽しむことができないといったネガティブ要素がEVにはあるのです。
中国では、自国の新興メーカーを保護育成するために、EVには手厚い補助金が出されて急速な普及を実現させましたが、需要が一巡した今では、前述のような弱点から航続距離が長いハイブリッド車へと関心が移っています。
一方、北米ではテスラなどのEVは富裕層が近場の足にするセカンドカーとして普及が進みましたが、庶民の足としてはやはり航続距離や価格がネックになって、需要が伸び悩んでいるのです。
日本でも、カーボンニュートラルの公約実現のためにEVには手厚い補助金が用意されていますが、それでもリーフやテスラなどの小型車以上のクラスでは、主に航続距離と充電場所の問題が、一定以上の普及を阻害する要因となっていると考えられます。
航続距離よりも価格を優先。セカンドカー需要に徹したことが、サクラの大成功を呼び込んだ
そうした中で、日本独自の軽自動車は、もともと庶民にも通勤などの足に使うセカンドカーとして普及している実態があります。地価の高い東京都心部はいざ知らず、郊外や地方都市では家族のメイン車となるミニバンなどと、奥さんや子供たちが買い物や用足しの足にする軽自動車を併用する家は珍しくはありません。農家の広い庭に、トラックにセダン、ハイトワゴンまで、多数の軽自動車がずらりと並んでいることもあるぐらいです。
そのような使い方なら長い航続距離は必要なく、高価な大容量バッテリーを積む必要はありません。サクラの航続距離は180㎞と控えめですが、足代わりの軽自動車の使い方なら十分なのです。クルマの企画の段階で航続距離は短くてもOKだったので、バッテリーも高価で容量が大きいものを積む必要がありません。当然、その潔い選択は販売価格にも直結するため、サクラはEVでありながら他モデル以上にリーズナブルな価格を実現できたわけです。
自宅充電ならおおよそ8時間で100%充電が可能。出先で便利な急速充電にも対応している。30kWの急速充電器なら約40分間でおおよそ80%の充電量が確保される。充電ポート口は上が普通充電、下が急速充電。
経済性だけを売りとしない、電動車ならではの「パワフルな走り」も快進撃の理由
しかも、サクラは軽自動車の常識を超える走行性能を実現しています。サクラのモーター出力は47㎾(64PS)と、ガソリン軽自動車の自主規制値と同じですが、195Nmのトルクはターボ付きの高性能軽自動車の倍もあります。回さないとトルクもパワーも出ないエンジンに対して、モーターは動き出す瞬間に最大トルクが出ますから、スタートダッシュは軽自動車どころか、格上の小型車以上なのです。
そのうえ、サクラは重いバッテリーをフロア下に敷き詰めているため重心が低く、コーナリングやブレーキングもどっしりと安定していて、運転好きのドライビングカーとしても楽しめてしまいます。
2つのディスプレイを水平方向にレイアウトした統合型インターフェースディスプレイや通信対応純正ナビゲーション、プロパイロットなど、上位モデルで高い評価を集めている最新装備機能が、惜しみなく投入されていることも強み。
指先だけの簡単な操作で、スムースに駐車をしてくれるプロパイロット パーキングもOP装備ながら用意されている。安全運転支援機能の充実ぶりも人気を集める理由だ。
価格も、政府や自治体の補助金を使えば上級のガソリン小型車並み。近所の用足しや日帰りの下道ドライブに使うのなら、これ以上経済的な乗り物はありません。加えて、サクラのバッテリーはフル充電なら一般的な家庭の約1日分の電気容量をまかなえるため、災害などに備える非常用電源としても期待されているようです。
日本人の使い方に合った、日本独自の軽自動車規格のEV、サクラは、そうした価値を理解した目の肥えた消費者に、順調に売れているというわけです。
モーター駆動がもたらす力強い走りは、見かけからは想像できないレベル。高速走行もまったく苦にしない。一充電航続距離は180kmになるが、いちどに距離をあまり走らないユーザーが多い都市部では、ファーストカーとして選ばれるケースも珍しくないほど。現行モデルの価格は254万8700~304万400円。国のCEV補助金は2024年度も満額の55万円。ユーザー居住地によって制度や金額は異なるが、都道府県の補助金も含めれば、実質的にエンジンの軽自動車よりもリーズナブルな予算で狙えることも、人気を集める理由になっている。
ミツビシが販売している兄弟車のekクロス EV。内外装加飾に加えて、装備機能設定も若干異なるが、基本的には同じクルマと考えていい。価格は254万6500~308万1100円。
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