馬運車とは、その名の通り競走馬を安全に輸送するための専用車両。大型バスやトラックのような見た目をしており、車両の背面に「競走馬輸送中」「馬輸送中」などと書かれているのが特徴です。内部には馬の体重を分散させるための高性能なサスペンションを装備し、車両の揺れ/振動を最小限に抑えることが可能。また空調設備も完備されているため、暑さ/寒さから馬を守り、常に快適な環境を保っています。あまり目にする機会のない馬運車ですが、「馬運車には割り込み厳禁」という話なら聞いたことがある人も多いかもしれません。いったいなぜ、馬運車に対して割り込みが厳禁とされているのでしょうか?
●文:月刊自家用車編集部(ピーコックブルー)
移動中の馬運車のリスクは相当なもの。危険を避けるために“割り込み厳禁”としているのが実情
馬運車が割り込み厳禁と言われる理由は、馬という動物の特徴や競走馬としての価値が関係しているとのこと。
そもそも、馬は敏感でストレスに弱い動物。運送中の急ブレーキ/急ハンドル/急発進などは、馬に大きな負担を与え、ストレスやケガの原因になることがあります。
馬は体重がとても重く、脚1本にかかる負荷が大きいため、万が一骨折してしまうとさまざまな病気を発症するリスクも抱えています。病状が悪化した馬は自力で立てなくなり、最終的には命を落としてしまうそうです。
したがって、割り込みが原因で突然の減速や急なハンドル操作を行うと、馬が驚いて暴れたり、車内で転倒したりするおそれがあることから、馬運車への割り込みは厳禁と言われています。
馬運車の運転手は、馬の健康と安全を最優先に運転しています。運転手が常に安全運転を心かけているにもかかわらず、外部からの影響でその努力が台なしになる可能性があるのです。
次に、競走馬に与える影響について考えてみましょう。
もしも割り込みで競走馬にケガをさせてしまうと、レースに出場できなくなる可能性があります。その場合、治療費やレースを欠場することによる経済的な損失は計り知れません。
また競走馬はとても高価で貴重な存在であり、一頭あたりの価値が数千万円になることもあります。1台で最大4頭の競走馬を積載できる馬運車に対し、仮に割り込みが原因で馬4頭をケガもしくは死なせてしまった場合、割り込んだドライバーに対してありえないぐらい高額の損害賠償が請求される可能性も考えられます。
こうした理由から、ドライバーの間では「馬運車には絶対に割り込むな」「馬運車を見かけたら距離を取れ」という話が定着しているというわけです。
“割り込み厳禁”に強制力はないけれど、そもそも割り込み行為自体が法律的に違反
では、“馬運車に割り込んだらダメ”という道路交通法は存在するのでしょうか。
じつは、「割り込み厳禁」と表記されているからといって、それ自体に法的な強制力があるわけではありません。
法律上、馬運車への割り込みは禁止というルールはなく、違反として罰せられることはないようですが、そもそも“割り込み”という行為自体が道路交通法第32条によって禁止されています。
ここで言う割り込みとは、赤信号や渋滞などで徐行/停止している車列の前へ、無理に進路変更する危険行為のこと。
したがって、馬運車だから割り込み厳禁ということではなく、いかなる車両であっても危険な割り込みは禁止されているというのが正しい認識です。
このように、馬運車が割り込み厳禁とされる理由は、競走馬の安全を確保し、ストレスやケガを防ぐためです。
競走馬は高価で貴重な存在のため、一頭あたりの価値が数千万円になることがあります。
万が一、割り込みが原因で競走馬をケガもしくは死なせてしまった場合、多額の損害賠償が請求されることも考えられるでしょう。
厳密に法的な強制力はないものの、基本的な交通ルールとして馬運車に割り込むのは控えるべきでしょう。
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