
国産旧車のなかで最も人気の高い車種が集中しているのが1970年代です。「ハコスカ」こと日産・スカイライン2000GT(C10系)や「サンマル」ことフェアレディZ(S30系)、「ダルマ」ことトヨタ・セリカ1600GT、カローラレビン/スプリンタートレノ(TE27型)、マツダ・サバンナ(RX-3)などなど。今見ると、とても新鮮に映るその外観デザインは、どれも個性的で魅力をたっぷり感じます。しかし一方では、その当時の車種のデザインのいくつかは、海外のメーカーのオマージュであるという指摘があります。ここでは、当時アメリカや欧州の名車をオマージュした気配が感じられる車種についてちょっと掘り下げていきましょう。
●文:月刊自家用車編集部(往機人)
1970年代当時の日本車のデザインは、まだまだ先達に教えを請う立場だった
今でこそ、世界的に見ても日本の自動車メーカーの技術はトップレベルだということは誰もが認めるところだと思いますが、今から50年以上前の1970年代の国産車メーカーの技術レベルは、欧米の先進国からしたらまだまだ未熟なものでした。
1960年代までは、その時点ですでに40年以上の歴史があった欧州のメーカーに倣い、時には技術提携を受けたりしながら、その蓄えたノウハウを自社の製品に活かしていました。
実際にピニンファリーナやベルトーネなどイタリアのカロッツェリアにデザインを依頼するケースもありました。
1970年代になると、それまで憧れの対象だったアメリカの文化が日本にどんどん普及していきます。アメリカン・ポップカルチャーの流行や、マクドナルドの1号店が銀座に登場したのもこの頃です。
当然、クルマの世界にもその流れは及びます。
高度成長期を迎えた日本の経済は豊かになりつつあり、国産車のサイズも徐々に大柄になっていきました。
このアメリカに追い付け追い越せの風潮のなか、“カッコイイ”の対象だったアメリカ車のテイストを採り入れる動きがあったようです。
ここからは、そんなアメリカ車や欧州車のテイストが濃厚に感じられる1970年代の国産旧車を紹介していきます。
※この内容は公式なデータのほか、マニア間で囁かれるウワサ話や、歴史的背景から筆者が考察した結果も含まれます。なので、「言われてみれば確かにそうかも……」くらいに軽く受け止めていただけると幸いです。
日産・フェアレディZ(S30系)
国産旧車の2大スターの一角、S30系フェアレディZのデザインには、英国MG社の名車MG-Bのテイストが感じられます。
MG GT-B
実はより濃くその要素を含んでいるのは、先代のSP/SR型のフェアレディで、ライトユニットが奥まって配置された特徴的なヘッドライトベゼルの形状にクッキリと現れていると感じます。
そのデザインを昇華し、アメリカの市場でも映える流麗なファストバックスタイルのクーペボディをまとわせて仕立てられたのがS30系フェアレディZです。
最終案はフェラーリ・ディノのような欧州のスポーツモデルの定番デザインに落ち着きましたが、デザインの過程ではトヨタ・2000GTを思わせるリトラクタブルヘッドライトのものや、丸目4灯の固定式ライトのものもあったようです。
日産・スカイライン2000GT(C10系)
国産旧車2大スターのもう一角、ハコスカにもオマージュ元が指摘されています。
アメリカ市場を意識したフェアレディZとは異なり、日本のドメスティックなモデルとして日産合併前のプリンス自動車が世界に誇れるGTカーとして練り上げたスカイライン。
日産と合併後につくられた3代目のC10型(愛称:ハコスカ)は、ダッジ・コロネット(1968〜1969年式R/T)に顔つきが酷似しているとの指摘があります。
ダッジ・コロネット
スカイラインは生い立ちがセダンベースということもあって、初代よりアメリカの大型セダンのモチーフが色濃く出ていますが、結びつけようと思えば、その頃からダッジ・コロネットの面影を見付けることはできます。
ハコスカに至っては、蝶ネクタイの真ん中を細長く伸ばしたような独特の造形がダッジ・コロネットR/Tにそっくりに感じます。
ただし、ハコスカも発売開始は1968年。開発の途中の段階でデザイン画を入手していない限り、盗用は不可能です。
現実的には「たまたま結果が似てしまった」というのが妥当でしょう。
日産・スカイライン 2000GT(C110系)
ハコスカの次代モデル「ケンメリ」ことC110系のスカイラインも同じダッジの車種のオマージュを指摘されています。
丸目4灯のヘッドライトと、その間のシンプルなグリルがフロントの横長の開口部に一段奥まって配置され、グリルの下側に面一に造形されたメッキバンパーが収まるというデザインは、並べてみると確かにオマージュを意識させます。
対象車種は初代のダッジ・チャレンジャー(1970年)です。
ダッジ・チャレンジャー
ボディ全体の構成もなんとなく意識したようにも思えます。
しかし、この頃のヘッドライトは規格が2種しかなく、必然的に丸目の2灯か4灯しか選べない状態でした。
なのでシンプルなデザインにしようとすれば、似てしまうのは仕方が無いことだとも言えるでしょう。
ただ、当時の日産のデザインは、全体的にダッジなどのアメ車を意識していたことは事実ではないかと感じます。
トヨタ・セリカ(A20/30系)
日産に限らず、当時のトヨタ車にもオマージュを指摘される車種はあります。
初代のセリカは、顔つきがフォード・トリノで、LB(リフトバック)の3連ブーメラン形テールが同じフォードのマスタングにそっくりという意見が多く見られます。
顔つきに関しては上記のケンメリの例と同様に、当時のアメ車の何車種かがこの構成を採用しているので、これも「たまたま……」と言うしかありません。
しかしテールに関してはマスタングのファストバックモデルと酷似していると言って良いデザインです。
同時に、内装や外装色を選べる「フルチョイスシステム」もマスタングから倣って導入していることから、意識していた可能性は高いと考えます。
三菱・ギャランGTO(A5○C型)
セリカLBを挙げたらセットで出さなくてはならないのがギャランGTOでしょう。
ほぼ同じ時期に登場したセリカLBとギャランGTOのダックテール形状と3連のブーメラン形テールランプのデザインの類似は偶然でしょうか?
真偽のほどは確かではありませんが、Cピラーのエアダクトやレースイメージのデカールなどを見ても、おそらくこちらもマスタングのオマージュではないかという見方が濃厚でしょう。
他とは代え難い魅力を備えているからこそ今でも高い人気を博している
と、わりと有名なケースを5つピックアップして紹介してみました。
どれも疑惑がクロだとハッキリ言えるものではありませんが、前述のように当時の日本は明確にアメリカの文化に傾倒していたため、ファッションの要素もあるクルマの外観デザインにも、少なからず影響を及ぼしていたことは事実と言っていいでしょう。
そんな次代を経て、今ではデザインも技術力も販売面でも世界トップの一角を占めるくらいに成長しました。
それを差し置いても、1970年代当時の国産旧車のデザインには他とは代え難い魅力が備わっていると感じます。
そうしていちど惚れ込んでしまったら、似ているとか似ていないとかはさして重要な事柄ではなくなってしまうでしょう。
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