![本家が日本の漫画に挑んだ?! 【面白レア車物語】ポルシェ911[964]ターボSライトウェイトパッケージ](https://jikayosha.jp/main/wp-content/uploads/2025/03/964turbo_top.jpg?v=1741589231)
世相に、市場。ファンと、開発者。クルマにはそれぞれに生まれた背景があり、そこには必ず物語があります。それは知る人ぞ知る、レアなクルマだって同じこと。今回は、ポルシェ964ターボについてご紹介します。シューマッハの酷評からスタートしつつ、やがてスパルタンな最強モデルの誕生へ。このモデルが、あの日本の漫画への挑戦だったとら想像すると、面白いかもしれませんね!
●文:石橋 寛(月刊自家用車編集部) ●写真:RM SOTHEBY’S
シューマッハをして「重すぎる&遅すぎる」と言わしめた登場時の964ターボ
歴代ポルシェ911ターボの中でも、1991年に発売された964ターボほど評判の悪かったモデルはありません。
なにしろ、ボディや足まわりは964と同じくアップデートされていたにもかかわらず、肝心のエンジンが930ターボそのまんま。
3.3リッター、320馬力仕様とはいえ、カレラ2ベースのシャーシに役不足は否めないところ。発表当時、かのシューマッハによれば「重すぎる&遅すぎる」と辛らつなインプレが寄せられているのも仕方ないでしょう。
とはいえ、そんな911ターボをバイザッハのイケイケ頭脳集団が放っておくわけもなく、すぐさまターボ2へと進化したばかりか、極めつけのハイチューン仕様が86台という限定数で登場。さらに、このうち14台だけは911ターボ史上、もっとも過激なモデル「911ターボS ライトウェイト」として知られることになったのです。
今回紹介するのは最終的に誕生した最強・スパルタン仕様、写真の911ターボSライトウェイト。1993年にドイツ国内にデリバリーされ、身にまとうポーラーシルバーメタリックはオプションカラー。それまでのツェルマットシルバーにより深みと艶が加わったもの。
911ターボの開発が優先されなかったそもそもの背景
1980年代の初めからポルシェは深刻な財政難に見舞われていました。
1970年代のオイルショックから、得意先の北米で売り上げが頭打ちとなり、それが尾を引いて人員整理や工場の縮小まで実施されるという目も当てられない状態だったのです。(ちなみにポルシェが財政難に陥る、倒産の危機は何度もあり、そのたびにメルセデスベンツやフォルクスワーゲンに助けられたこと、ご承知の通りです)。
この状況を打破しようと企てられたのが911のフルモデルチェンジでした。それまでどうにか延命処置で過ごしてきた930ですが、デビューから10年以上ともなれば古さを隠しきれるものでもありません。
そして、964の開発がスタートするのですが、バイザッハは「エンジンよりも速いシャーシ」にこだわったとされています。つまり、930の旧態は足まわりに発するものであり、サスペンションや駆動系を刷新することで現代にも通じるスポーツカーに生まれ変わると考えられたのです。
もちろん、エンジンも多少の排気量アップが図られましたが1気筒当たり100ccにも満たない増量ですから、基礎設計を上回るものでもありません。
911ターボSライトウェイトには964RSのダンパーが移植され、再セッティングが施された結果、車高は40mmダウン。また、F225/40、R265/35、ともに18インチの足元も964ターボとは別物。ホイールはポルシェ御用達のスピードライン製3ピースが選ばれている。
過給ゆえに手間ひまかけた開発、だったのだが…
ただし、ターボによる過給が加わった場合は別の話。フラットシックスユニットの特性上、タービンはポン付けというわけにはいかず、さまざまなパーツの再検討が必要となったのです。
たとえば、シリンダーを組み付けるスタッドボルトやバルブガイドの強度、および耐久性、あるいはクラッチハウジングの設計し直しなどそれは多岐にわたるものだったことご想像の通りです。
964カレラ2、およびカレラ4は(959というテストベッドのおかげで)順調に開発が進んだものの、上記の理由からターボのエンジンは遅れに遅れました。
折しも発表された1991年末には、IMSAスーパーカー選手権で911ターボが”優勝しちゃった”ものですから、市場の期待はマックスだったに違いありません。それが「重い&遅い」と来た日には、シューマッハでなくとも失望することは確かでしょう。
もっとも、失望したのはバイザッハのエンジニアたちも同様でした。わかっていたこととはいえ、マーケティング部門の先導で「嫌々仕方なしに」リリースした911ターボでしたから、1991年末には最強の911ターボを作ることがなによりも優先されたのでした。
ポジションランプが廃され、代わりにフロントブレーキへのダクトとなっているのは964RSと同じ手法。また、バックミラーも964後期タイプの非電動式。
そして最終的に誕生した「3.3リッター最強&最軽量」モデル
ここで活躍したのが、930や959の生みの親として知られるヘルムート・ボット教授でした。3.3リッターエンジンのチューンナップ、および964RSのダンパーセット移植、そしてリヤフェンダー上の追加ダクトなど、博士のノウハウがすべて体現されているのです。
おもなメニューは、カムシャフト、インジェクションバルブ、エアフィルターハウジングなどが変更され、オイルクーラーは2個に増加させたほか、正確なブースト圧は公表されていませんが、これまた上昇させたことは間違いないでしょう。
その結果、964ターボの320馬力から380馬力へと61馬力もの向上を見せています。
また、フェンダー内を刷新したことで18インチまでホイールを拡大できるようになり、IMSAで使用されたブレンボの削り出しキャリパーも採用。スピードライン製3ピースホイールと相まって、スタイルと性能を一気にアップグレードしたわけです。
こうして、1992年にIMSA優勝記念モデルとして北米で発売されると”瞬殺”で完売されたとのことですが、その数は50台程度とされています。
が、バイザッハはターボSにさらなるカスタムを施し、よりスパルタンな3.3リッターターボ最強モデルも用意していたのです。
赤いインタークーラーハウジングとエアフィルターユニットこそターボSの証し。381ps/6000rpm、490Nm/4800rpmはノーマル964ターボから61psもの向上だ。
バイザッハの得意技を発揮、「湾岸をぶっ飛ばしたくなる」スパルタン仕様も
レーシングカーの設計において、軽量化というメソッドほど重要なものはありません。とりわけポルシェはその事実に早くから気づいており、ライバルに先がけさまざまなメソッドを持っているのです。
無論、ターボSにも当てはまるもので、86台が生産されたうちの14台はライトウェイトパッケージ、減量されたモデルとしてロールアウトしています。
具体的にはパワステやパワーウインドウ、エアコンが省かれるのはもちろん、フロントフードとリヤウィングはカーボンマテリアルへと変更され、サイドとリヤのガラスも薄いものへの置き換え。
さらに、車体各所に配置されたインシュレーターもすべて剝ぎ取られたので、車内のノイズは思わず耳をふさぐボリュームとなっています。
おかげで、ノーマルの1450kgから180kg軽くなり、0-100km/h:4.7秒、G50のストックミッションで最高速289km/hというパフォーマンスを獲得。これこそ、964ターボと名乗っても遜色はありません。
が、翌1993年にはようやく3.6リッターターボを搭載したターボ3.6が登場したため、ターボSはカタログ落ちすることに。もっとも、ターボ3.6にしても2年ほどしか生産されず993ターボに後を譲っています。
こちらは911ターボ初の4WDやリヤサスペンションをマルチリンクにするなど、スタビリティとハンドリングが強化されたモデル。言い換えれば、964ターボのダイナミックな乗り味はスポイルされているかと。
いずれにしろ、ボット教授が日本のマンガを読んでいたとは思えませんが、ターボSライトウェイトやターボ3.6はそれこそ「湾岸をぶっ飛ばしたくなる」モデルに違いありません。「打倒、ブラックバード」などともしポルシェが考えていたら……と、想像が膨らみます。
やはり、911ターボには人を虜にする不思議な魅力が満載、ということでしょう。
911ターボSライトウェイトの内装。簡素化されたインテリアはRSとさほど眺めは変わらない。パワステ、パワーウィンドウ、そしてエアコン、ラジオなどが省かれたほか、防音材も一切使用していないため、室内の騒音はレーシングカー並みとされている。
ATIWEの3トーンステアリングも1992年に発表された964RSと同じチョイス。3色のカラーコーデがバケットシートのカラーと等しくなるのもRSから始まったオプション。
レカロのRSバケットシートは1990年代のポルシェではお馴染みの装備。通常はブラックのファブリックだが、オプション設定でご覧のレザー仕様も選べる。なお、この時代の材質はFRPが主流で、カーボンが用意されるのは993以降となる。
ドアハンドルまで省かれたライトウェイト仕様。開ける際はグリップ下にある紐を引く。なお、グリップ上に見える丸いスイッチはドアロックを開閉するためのもの。また、ウインドウは軽量化のために手動レギュレーターに変更されている。
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