
3月19日、トヨタ自動車は交通事故ゼロを目指した安全技術説明会を開催。過去から現在への安全への取り組み、さらにこれからの展望を紹介した。また、実際に安全技術を体験できる試乗会も行われた。
●文:月刊自家用車編集部
クルマ開発センター フェロー 御沓悟司氏が登壇
今回の安全技術説明会には、クルマ開発センターのフェローに就任し、車両安全技術全般の責任者も務める、御沓悟司氏が登壇。1990年の入社時から現在まで、長らく衝突安全性能向上に携わっている。御沓氏は今回の説明会をトヨタの過去から現在、未来に至るまで、トヨタがどんな思いで安全技術を開発しているのか。また、背景やストーリーを理解してもらう場として設けたという。
御沓悟司氏
1995年のGOA発表から今年で30年
2025年はトヨタの衝突安全に関する考え方である「GOA」を発表してから、ちょうど30年となり、トヨタにとって節目となる。GOAとは、“クルマが衝突した際に被害を少しでも軽減する”トヨタ独自の安全性能評価のことで、各国が定める第三者機関のアセスメントよりも高い基準を設定。GOAを基準とし、衝突時のエネルギーを分散させ、キャビンの変形を最小限に抑制する高強度ボデーを開発した。
過去から現在へ、交通事故死者数の変化
トヨタはまず、1960年代~1980年代への交通事故死者数の変遷とその背景を説明。
1970年初期までの第1次交通戦争、ベビーブームやスポーツカーの全盛期である1990年代半ばころの第2次交通戦争を経て、トヨタは、安全技術を“ぶつかった時の安全”と“ぶつからないようにする安全”の2つを統合安全コンセプトとし、現在に至るまで安全技術開発に尽力してきた。
自動車の保有台数の急増や、整備が追い付いていないインフラ状況などにより、交通事故死傷者数が急増。
乗員と歩行者を守る“ぶつかった時の安全”
トヨタは“ぶつかった時の安全”について、「乗員を守る」「歩行者を守る」ということを2つの柱とし、衝撃吸収ボデーや高強度キャビンを開発。乗員を守る技術では、正面衝突の事故実態と向き合い、衝突時の衝撃を逃がす構造(衝突吸収ボデー)やドア開口部に環状構造(高強度キャビン)を採用し、乗員を守る安全性を確保している。
事故実態を徹底的に分析し、GOAを開発。
さらに、多量出血時に治療開始が20分を超えると死亡率が急上昇するという救命現場の実態から、救急自動通報システムを構築。エアバックの展開から、治療開始を約20分という短い時間で行うことを実現した。
救命率向上へつながる救急自動通報システムを構築。
「歩行者を守る」という取り組みでは、脚部の損傷が頭部への損傷に繋がることを分析し、脚部の衝撃を緩和するアブソーバーの追加や、頭部を守るポップアップフードを採用し、GOAを歩行者を保護できるように進化させている。また、事故受傷者の被害度を正確に分析できるよう、さまざまな献体と向き合い、バーチャル人体モデル「THUMS(サムス)」を開発。人体への傷害度の正しい評価が可能となった。
“ぶつからないようにする安全”
事故を事前に防ぐ“ぶつからないようにする安全”では、ドライバーの認知/判断/操作に対し、クルマによる支援を拡大。“操作”では、タイヤロックを抑制するABS(アンチロックブレーキシステム)や、不安定な路面状況で横滑りを抑制するVSCを開発し、標準装備化を進めてきた。
さまざまな路面状況下で車両挙動を評価。
“認知”としては、20~60代のドライバー113名から停止時間データを集計。前方車両への衝突までの時間を計測し、最適なタイミングで警報する「PCS(プリクラッシュセーフティ)」を開発している。
“判断”では、PCSを含む、レーダークルーズコントロールやレーンデパーチャーアラートなどの機能を搭載した「トヨタセーフティセンス」を2015年に発表。200万キロにも及ぶ走行検証で、誤作動を徹底的に検証し、あらゆる条件下でも正しく作動する予防安全パッケージとなっている。さらに、事故発生状況を事故の現場/時刻で調査。現地現物で夜間の歩行者検知や衝突回避技術を向上させ、夜間の対歩行者事故を低減している。
交通事故ゼロを目指すトヨタのこれから
日進月歩で安全技術を進化させているトヨタは、ヒトやクルマの行動を予測するAIの採用であったり、視認困難な状況での事故を低減できるようインフラとの協調を進めていくとし、安全技術の継承と進化の両輪で交通事故ゼロ社会を目指すとした。
現行車の安全技術はすでにスゴイ!
試乗では、現行のトヨタ車に採用されている安全技術を体感。駐車場などで発生するペダルの踏み間違え事故を抑止するパーキングブレーキサポート、ブレーキと間違いアクセルを強く踏んでしまった時の急加速を抑制するプラスサポートに加え、ドライバーの操作なく、駐車をしてくれるアドバンストパーク機能を実際に体感した。
ペダルの踏み間違いによる事故を抑止するパーキングブレーキサポート
停止状態から約2秒以上経過後に、アクセルを強く踏むと自動で急加速を抑制してくれるプラスサポート
パーキングブレーキとプラスサポートは、重大な事故の原因となるペダルの踏み間違えというドライバーのミスをクルマ自体がカバーしてくれる。この機能がさらに普及すれば、高齢者ドライバーはもちろん、運転に慣れているドライバーでも、万が一の場面で事故を防げた、というようなシーンが増えてくるのではないだろうか。
また、アドバンストパーク機能は、ステアリング操作だけでなく、アクセル/ブレーキの操作も不要。しかも、障害物や人を検知して狭い駐車場でも安全に駐車できる。もちろんドライバー自身も視認などの安全確認は必須だが、慣れない駐車場などでも安全に、正確に駐車できるという安心感は、ドライバーの負担を大きく減らしてくれると感じた。
トヨタだけでなく、他メーカーも同様な安全技術のさらなる普及を進めれば、交通事故ゼロ社会の実現も夢ではない、と感じた試乗会であった。安全を最優先にクルマを開発するトヨタは、これからのクルマ社会に対して、さらなる発展や貢献をもたらしていくだろう。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(交通/社会問題)
マルチパスウェイ戦略の下で、多様なパワートレーンが併存していくことをふまえた税制とする そもそも現行の自動車税制が何が問題なのかといえば、購入時の“自動車税の環境性能割”は消費税との二重課税。毎年払う[…]
道路管理も先進技術で高度・確実に みなさんも見かけたことがあるだろう、黄色く塗られた高速道路の巡回管理車両。交通管理隊が使用する、「高速道路パトロールカー」だ。その名の通り高速道路上に異物、事故などの[…]
保険料引き上げのおもな理由は「2つ」 そもそも、なぜ保険料が値上がりするかというと、保険各社の「保険金の支払いが急増しているから」だ。交通事故増加などで支払いが増えれば、各社の収支は当然悪化する。これ[…]
自然と速度が落ちていく場所が、大渋滞のスタート地点 お盆シーズンは、長期休暇と相まって帰省や行楽地へ向かうクルマで大渋滞となるのが恒例です。どうしても出かけなければいけないなら、なんとかこの渋滞を回避[…]
病院などのそばに設けられている高齢者専用駐車場に、非高齢者が駐車してはいけないの? 高齢者専用駐車場は、病院/高齢者福祉施設/身体障害者施設/官公庁施設など、高齢者が日常生活で頻繁に利用する施設の周辺[…]
最新の関連記事(ニュース)
陸・海・空のモビリティと夢の力がテーマ 今回のホンダブースの展示では、陸・海・空にわたる幅広いモビリティを披露し、「夢の力」が生み出した多様な技術とコンセプトが示される。 展示の中心となるのは、202[…]
Willys MBのシルエットをあしらったデカールもプラス 「Jeep Wrangler Unlimited Sport ’41 Edition」は、アンリミテッド スポーツグレードをベースモデルに、[…]
インドから欧州、日本へ輸出される世界戦略車 「e VITARA」は、スズキのBEV世界戦略車第一弾となるe-SUV。「Emotional Versatile Cruiser」をコンセプトに、先進的かつ[…]
※10月号は販売実績ランキングのページが休載となっておりますが、後日WEBにて公開いたします。[…]
年次改良で常に性能向上が図られた、高性能スポーツカーの代表モデル 2007年にデビューしたR35 GT-Rは、「誰でも、どこでも、どんな時でも最高のスーパーカーライフを楽しめる」というコンセプトを具現[…]
人気記事ランキング(全体)
身長180cmでも快適に車中泊できる! 標準ルーフだから街乗りも便利! ファシールバカンチェス ダイネット40は、リンエイプロダクト(本社:埼玉県川越市)の40周年記念車として2025年2月に発表され[…]
車の鍵も家の鍵もこれひとつに収まる 大阪・茨木市の革小物ブランド「クアトロガッツ」が手がけるのは、そのナンバープレートをモチーフにしたオーダーメイドの本革キーケース。愛車の写真を送るだけで、世界にひと[…]
作業者のストレスを軽減、従来比約1.4倍の高回転で時短を実現! KTCと言えば、自動車整備のプロも愛用する、ハンドツールの名門メーカー。そのKTCから、コンパクトなコードレスラチェットが新たに登場した[…]
“GT”として不遇の時代を生きた悲劇のスカイライン スカイラインシリーズとして5代目にあたる「C210系・スカイライン」は1977年に誕生しました。このモデルは「ジャパン」という愛称で呼ばれていて、そ[…]
コンテッサ1300クーペ(1965年) 高い技術から生み出された美しいクルマは、大きな注目を集めることに 今では、日野自動車が乗用車メーカーだというと、首を傾げる人も多いかもしれない。日本初の国産トラ[…]
最新の投稿記事(全体)
陸・海・空のモビリティと夢の力がテーマ 今回のホンダブースの展示では、陸・海・空にわたる幅広いモビリティを披露し、「夢の力」が生み出した多様な技術とコンセプトが示される。 展示の中心となるのは、202[…]
人気の「セレニウムグレー」を、208として初めて採用 「プジョー208」は、日本の街中での取り回しやすさに加え、独創的なデザインと先進運転支援システムを備えることで、多くのユーザーから人気を集めている[…]
センシング能力を強化し、「後席リマインダー」も全車標準装備へ 今回の仕様向上では、走行中に車両や歩行者を検知して衝突回避を支援する「インテリジェント エマージェンシーブレーキ」の左右検知範囲が拡大され[…]
日本初の「車専用」除湿剤が登場!AeroRide90がAmazonで販売開始 梅雨や冬の結露、長期保管車のこもり臭。クルマ好きにとって悩ましい車内環境の問題を解決してくれる、日本初の“クルマ専用”除湿[…]
生誕145周年のピカソ。その革新性に触発された創業70周年の老舗が手がけた特別記念モデル カトーモーターのパブロは、画家のピカソ生誕145周年とカトーモーター創業70周年を記念して作られた特別記念モデ[…]
- 1
- 2