
年間3000万台もの新車が販売される世界ナンバー1の自動車市場となるのが中国だ。500万台未満の日本と比べると、その規模は6倍以上となる。そんな中国では、北京と上海で交互にモーターショーが毎年開催されており、今年は上海で4月23日より開催された。数年ぶりに訪れた現地での様子をリポートしよう。
●文/写真:鈴木ケンイチ
一変した街の様子と、出展者の顔ぶれ。中国メーカーの成長ぶりが著しい
筆者的に中国のモーターショー取材は、コロナ禍前の2018年が最後だ。上海モーターショーとなれば2017年以来であり8年ぶりとなる。訪れた上海で最初に驚いたのが、街を走るクルマの様子だ。
かつての2010年代後半の上海の路上で、主流派となっていたのは、フォルクスワーゲンでありアウディといったドイツ車であった。シトロエンやヒョンデ、それ以外にもトヨタやホンダといった日本車も多かった。もちろん中国の地元メーカーのクルマも走っていたが印象としては半数未満といったところ。また、クルマに装着されるナンバーはエンジン車を示す青色が主流で、新エネルギー車(BEVとPHEV)の白や緑のナンバーはまだまだ少数派だった。
ところがそんな状況が激変! 今の上海を走っているクルマたちはその多くが白&緑ナンバーの新エネルギー車に置き換わっており、しかもその大半が中国ブランドになっていたのだ。ほんの少し前はあれほど走っていたフォルクスワーゲンや日本車が今では少数派。ドイツ以外の欧州ブランドはほとんど見かけない状態になっていたのだ。また、走っているクルマ自体も最先端のスマートで流麗なデザインのものばかり。古いボロボロのクルマはほとんど見かけなくなっていた。
中国政府の強力なEV普及政策もあって、上海を走るクルマの様相は一変。特にEVは充電インフラの積極的な拡充もあって、一気にシェアを伸ばしているのは明らか。
2027年末までにはバスとタクシーを全面的に新エネルギー車に切り替える計画を発表していることもあって、街を走るタクシーの大半は、新エネルギー車であることを示す緑ナンバー車になっている。
肝心の上海モーターショーの会場自体は昔のままであったけれど出展社の顔ぶれも大きく変わっていた。ドイツと日本はあるけれどフランス&イタリアはなし。アメリカもごく一部だけだった。ちなみに主役の中国ブランドも大手メーカーばかりになっていた。かつては数え切れないほどブースを構えていた小さなメーカーたちを見かけなくなってしまったのは少し寂しいところ。
上海モーターショーは、正式名称を「上海国際汽車工業展覧会(Auto Shanghai)」といい、中国で最も重要な自動車展示会のひとつ。北京モーターショーと隔年で開催されており、アジア地域における自動車産業の動向を知る上で非常に重要なイベントとされている。
日本メーカーの発表も中国向け専用車ばかり…
トヨタは現地向けのBEV「bZ7」、レクサスはグローバル戦略車「ES」の新型を発表
続いて日本とドイツのメーカーから、どのようはクルマが発表されたのかを紹介しよう。
トヨタは現地向けのBEV「bZ7」と、レクサスの「ES」の新型を発表した。「bZ7」は全長5mを超えるラージセダンで、現地の広州汽車(GAC)などとの共同開発車だ。「ES」はBEVとハイブリッドが用意される。また、トヨタは開発責任者であるCE(チーフエンジニア)を日本ではなく、中国に置く「RCE(リージョナル・チーフ・エンジニア)」という制度を導入し、より中国のニーズに合わせたクルマづくりを進めるという。そしてレクサスでは、日本で生産する「センチュリー」のカスタム仕様、GRMNを展示していた。現地の超富裕層向けの要望に応える格好だ。また、中国のベンチャーとなるポニーAIとコラボした自動運転技術レベル4のロボットタクシーも展示されていた。
今回のフルモデルチェンジで7代目となるレクサス新型ESは、電動化をさらに進めることで静粛性と乗り心地をさらに向上させたプレミアムセダン。2026年には日本国内への導入も予定されている。
トヨタbZ7はトヨタの中国合弁会社の広汽トヨタ自動車有限会社と、トヨタの中国における研究開発拠点であるトヨタ知能電動車研究開発センター(中国)有限会社が共同で開発した中国市場に特化したモデル。トヨタの中国におけるEVブランド「bZ」シリーズのフラッグシップモデルとなる。
ホンダは中国向けEV「ye(イエ)」シリーズの第2弾モデルを公開
ホンダは昨年の北京モーターショーで発表した中国向けEV「ye(イエ)」シリーズ第2弾として「広汽HONDA GT/東風HONDA GT」を公開した。シリーズのフラッグシップとなるスポーティな4ドアセダンだ。中国で開発したEV専用プラットフォームを使い、安全性の高いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーをホンダとして初採用している。
ホンダが上海モーターショー2025で発表したEVクーペSUV、広汽ホンダGT。未来的なシャープなラインと大胆なフロントが特徴。最新の電動パワートレーンと知能化技術が搭載される。広汽ホンダの電動化戦略における重要モデルになる。
日産の目玉は新型EVセダン「N7」と、PHEVのピックアップトラック「フロンティア・プロ」
日産は新型EVセダンの「N7」とプラグインハイブリッドのピックアップトラック「フロンティア・プロ」を公開した。EVセダン「N7」は東風日産から発売されるモデル。昨年11月の広州国際モーターショーで初公開され、わずか半年を切るタイミングでの今回の量産モデルの発表となった。
日産「N7」と「フロンティア・プロ」。ともに先進的なデザインと知能化技術が特徴。中国市場のニーズに応えるモデルとして「N7」は間もなく、「フロンティア・プロ」も2025年中に中国に投入される予定だ。
マツダはクロスオーバーEV「EZ-60」を発表
マツダは現地の長安汽車との共同開発されたクロスオーバーの「EZ-60」を発表した。これはBEVとPHEVの2つが用意されるもの。すでに発売されているセダン「EZ-6」のクロスオーバー版だ。ただし、外装にエアダクトを多数導入したり内装デザインを変えるなど力の入ったモデルとなる。
驚くのはこうした日本メーカーの発表のほとんどが中国市場向けの専用車ばかりという点だ。ちょっと寂しい気もするが、これらの中で日本への導入の可能性があるのは「ES」くらいではないだろうか。
EZ-60は新型電動クロスオーバーSUV。マツダと長安汽車の協業による電動車第2弾だ。エレガントなスタイリング、人馬一体の走行性能、スマート機能を備えている。EVモデルは約600km、PHVモデルは1回の給油で1000km以上の航続距離を想定。2025年中に中国で発売予定だ。
フォルクスワーゲン・グループは大攻勢!巻き返しを図る
もともと中国市場で大きな存在感を放っていたのがフォルクスワーゲン・グループだ。ところが街の様子を見るともはや主役とは言えなさそうだ。その状況からの挽回にかける意気込みの強さは、会場に掲げられた広告からも感じられた。上海モーターショー会場の入り口には、巨大なアウディの広告が掲げられていた。
そんなフォルクスワーゲン・グループは、中国向けにフォルクスワーゲンで3つのコンセプトカー、アウディで5つの新型モデルを発表している。フォルクスワーゲンはコンパクトセダンの「ID.AURA」、フルサイズSUVの「ID.ERA」、SUVクーペの「ID.EVO」の3台。アウディは「A5L」「A5L Sportback」「Q5L」「A6L e-tron」「E5 Sportback」の5モデル。中でも「E5 Sportback」はアウディの象徴でもある4リングスのエンブレムを使わない新しいデザインを採用しているのが特徴となる。会場では人が相当集まっており注目度の高さを感じる1台であった。
VWのID. Evoは、近未来的なデザインが印象的なe-SUVのコンセプトカー。ID.シリーズの流れを汲みとった先進的なスタイリングに加え、新デジタルサービスが提供されるという。フォルクスワーゲンの新たな電動SUVの提案として注目される一台。
大文字で「AUDI」と表記されるE5 Sportbackは中国市場専用となる新プレミアムEVブランドの最初のモデルになる。プラットフォームもパワーユニットもオールニューとなる。2025年夏を目処に中国市場で発売が開始予定。
メルセデス・ベンツはミニバンのコンセプトカー「ビジョンV」を公開した。一人っ子政策が長く続いた中国市場においてミニバンはファミリー向けではなく、VIP向けやハイヤーなどで最近特に人気を集めているジャンル。あちこちの中国メーカーのブースには高級ミニバンが飾られており、またカスタム・ブランドでは、必ずゴージャスに飾り付けられたそれらのミニバンを見ることができた。
上海モーターショーで公開されたメルセデス・ベンツ Vision Vは、プレミアムMPVという新たなセグメントを提案するコンセプトカー。広大なラウンジ風インテリアや特殊な機構を持つ自動ドア、没入型デジタル体験など、未来的なアプローチが注がれる。メルセデス・ベンツは、2026年以降の電動バンアーキテクチャを示唆する車両と位置づけており、未来の高級ミニバン像を体現したモデルとしている。
成長著しい中国自動車メーカー。デザイン面での成長を強く実感
最後にレポートしたいのが中国の自動車メーカーの進化と人気の高さだ。中国の場合、ひとつの自動車メーカーが傘下にいくつものサブブランドを抱えている。BYDであれば、DRNZAや仰望(Yangwang)であり、ジーリーであればZEECARやGALAXYなどだ。そのため展示ブースは自身のブランドと、それらのサブブランドを並べた、非常に大きなものとなっていた。
そこで目を引いたのがデザインのクオリティの高さだ。かつての中国自動車メーカーのクルマといえば、どこか日欧米のクルマに似ている部分があった。「パクリカーだ」などと陰口を叩かれたものであった。一昔前の日本車のような、そこはかとない野暮ったさがどうしても隠し切れなかったのだ。
ところが、今回のショーで見る中国ブランドのクルマは、そのほとんどが高いクオリティを持っていた。しかも、日欧米とは異なる、独特な雰囲気を持つクルマが多かった。ただし細い線のようなヘッドライトに流麗なスタイル、飛び出し式のドアハンドルといった類似性はあった。流行に敏感な分、どうしても似たような要素があるのかもしれない。
シャオミのSU7はシャオミの技術を結集した超高性能EV。3モーターが生み出す圧倒的なパワー(1548馬力)と1秒台の0-100km/h加速、350km/hの最高速度が特徴。量産モデルは2025年3月から納車開始予定とされている。
個人的に注目したのはジーリー傘下のZEEECARのデザインの良さ。そして、かつては格安車というイメージの強かったチェリーの垢抜けっぷり。また超高級ブランドの紅旗も今どきのデザインに進化していたのにも驚いた。チェリーも紅旗もまるで違うブランドのように感じられるほど進化していたのだ。
上海でお披露目されたジーカー9Xは、同社のフラッグシップラグジュアリーSUV。CATL製バッテリーを搭載することでEV航続距離380km超を達成。0-100km/h加速は3秒という。中国では2025年下半期に発売されるとのこと。
中国の自動車メーカー紅旗(ホンチー)のフラッグシップモデルとなるL1。中国の伝統美学を取り入れた風格あるデザインや厳選された高級素材が惜しみなく使用されるキャビンなど、中国の富裕層に向けたプレステージセダンとして人気。
さらに、NIOやシャオペン、シャオミといった新興ブランドや他業種参入組も大きな存在感を放っていた。シャオミのブースに入るための行列が、あの巨大なホールを一周するほど伸びていたのには、本当に驚いたのだ。またNIOやシャオミが、ショッピングモールに構えたショールームも確認できた。
NIOをブランドに掲げる蔚来汽車は上海を拠点に活動する電気自動車メーカー。2014年に設立された比較的新しい自動車メーカーだが、最新のスマートテクノロジーの搭載やユーザー向けのコミュニティサービスを重視するなどプレミアム志向を強く意識している。BEV版のガソリンスタンドといった感じで、専用のバッテリー交換所で充電済みのバッテリーとチェンジできるなど独自の施策でも注目を集めている。日本でもバッテリー交換のアイデアは以前からあったが、商用での実証実験を除いてはなかなか実現できていないのが実情。このあたりのフットワークの軽さが中国メーカー躍進の原動力なのだろう。
中国自動車メーカーは、確実に大きく進化しており、中国国内のユーザーから厚く支持されていることが感じられたのだ。
コロナ禍を挟み、8年ぶりとなった上海モーターショー取材は、驚くことの連続であった。そして、中国自動車メーカーの実力は侮れないものであることを強く感じた取材となったのだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(ニュース)
ベース額と上乗せ補助額で、プラス30万円も補助金がアップ 東京都が打ち出した新たな方針は、EVシフトを一気に加速させる破壊力を秘めている。 公開された補助額の体系・内訳(令和8年7月1日以降に初度登録[…]
BMWでもアルピナでもない!「ボーフェンジーペン」の最新プロダクト「05 GT」とは? ボーフェンジーペンは、ドイツ・ブッフローエを拠点とする家族企業であり、その前身は高性能ラグジュアリーカーで名を馳[…]
左から初代クラウン RS型、トヨタ スポーツ800 UP15型、トヨタ 2000GT MF10L型、スープラ JZA80型、LEXUS LFAの計5台で参加。 初代クラウンからLEXUS LFAまで、[…]
今週末に富士スピードウェイで開催された、S耐24時間レースの会場内でお披露目されたスバル・アセント。日米貿易合意を受けて施行された国土交通省の認定制度の利用を前提に、国内導入の検討が進んでいることが公[…]
「食・癒・泊」の新商業施設 「富士モータースポーツフォレストテラス」は、富士スピードウェイ(西ゲート)そばに誕生した複合商業施設。 富士の美食をバラエティ豊かに楽しめるレストランの「食」、富士山を真正[…]
最新の関連記事(EV)
EVバンシリーズKia PBVのみを販売 Kia PBVジャパンは、日本国内における第一号直営ディーラー「Kia PBV東京西」を5月15日にオープンした。 そのメディア向け発表会では、発売予定のKi[…]
「TEEMO」は、他社ユーザーも月額基本料0円で利用可能 一部改良されたbZ4Xに続いてbZ4Xツーリングが登場し、マルチパスウェイの一端を担うBEVが着実にユーザーの選択肢の一つとなるよう、販売店と[…]
EVに足りなかったのは「走りの楽しさ」だった! ベースとなっているのは、軽自動車ながらワンメイクレースが行われるほどの走りのポテンシャルを持つN-ONE。 トレッドを50mm拡幅した専用シャシーや、専[…]
「公式サイトに情報がない」という現実 充電インフラサービスを手掛けるミライズエネチェンジ株式会社が、全国のEV・PHEVオーナー約2,500名を対象に実施した最新の調査(2026年3月)によると、実に[…]
EV時代もVシリーズは健在 「キャデラック リリック V」は、レース直系の技術を継承する究極のEVとして開発。ベースモデルのリリックが持つラグジュアリーな快適性と、Vシリーズが誇るモータースポーツの熱[…]
人気記事ランキング(全体)
バブル景気に沸く中誕生した、日産の大ヒット高級車 1980年代までの日本において、3ナンバーの普通自動車は贅沢品の象徴であった。当時の自動車税制では、税額が4万円以内に抑えられていた排気量2L未満の小[…]
1970年代、トヨタとの販売競争で勝利を収めた「セドリック・グロリア」 日産の「セドリック(3代目・230系)」が発売されたのは1971年です。「グロリア」とは姉妹車として認識されている人が多いと思い[…]
アッソ・デイ・フィオーリ ショーモデルの難しい造形を見事に再現した生産技術力 卓越した技術が厳しい競争を生き抜くための大きな武器であることは、言うまでもない。ただし、時にその技術が諸刃の剣になることも[…]
愛車の印象を手軽に変えるワイルドなドアガード 「DZ578 ドアガード クロス Mサイズ」は、ドアエッジを保護しながら、SUVらしいタフなイメージを演出できるドレスアップアイテムである。一般的な透明タ[…]
軽バンキャンパーの最適解となる大人気ベース車両 キャンピングカーのベース車両として、取り回しの良さと圧倒的な室内空間の広さから絶大な支持を集めているのがダイハツのアトレーだ。軽規格ギリギリまで拡大され[…]
最新の投稿記事(全体)
なぜアトレーはレジャーでも選ばれるのか? アトレーは2021年に17年ぶりのフルモデルチェンジを実施。乗用登録の「アトレーワゴン」から、4ナンバーの商用登録「アトレー」へと姿を変えました。商用車になっ[…]
ロードスターらしい軽快な走りをダイレクトに楽しめる。 今回導入される特別仕様車「PS」は、1.5リッターエンジンを搭載するFRオープンスポーツの主力グレートである「S Special Package」[…]
車中泊を安心して、かつ快適に楽しみたい方におすすめのRVパーク 日本RV協会が推し進めている「RVパーク」とは「より安全・安心・快適なくるま旅」をキャンピングカーなどで自動車旅行を楽しんでいるユーザー[…]
2代目から大きな進化を遂げて誕生した、3代目シビック “ワンダー”こと3代目の「シビック」が誕生したのは1983年のことです。初代の面影を多く引き継いだ2代目から、世界市場戦略車としてプラットフォーム[…]
大人気ピックアップトラックの荷台を極上空間へカスタマイズ キャンピングカーのベース車両として、ミニバンや商用バンが主流を占める中、本格的なアウトドア愛好家や釣り人たちから熱い視線を集めているのが、四輪[…]
- 1
- 2




































