
1970年代初頭、当時の商用車は、軽トラックの派生車種やキャブオーバー型のワンボックスカーが主流だった。ホンダは「荷物を運ぶだけでなく、もっと楽しく、使いやすく、デザイン性の高い軽商用車」というコンセプトを掲げ、従来の軽バンの常識を覆す全く新しいクルマを目指し開発をスタートさせた。そして、軽乗用車「ライフ」をベースに単なる商用車ではなく、ホンダの「創造性」と「挑戦心」を象徴するクルマとして登場したのが、ステップバンなのだ。
●文:月刊自家用車編集部
軽規格を最大限に活用するため、徹底的に「四角い箱」を追求したデザイン。これまでになかった新しい発想のエクステリアは、現在の軽トールワゴンに継承されている。
ステップバン主要データ(1972年式)
●全長×全幅×全高:2995㎜×1295㎜×1620㎜●ホイールベース:2080㎜●車両重量:605㎏●エンジン(EA型):水冷直列2気筒SOHC 356㏄●最高出力:30PS/8000rpm ●最大トルク:2.9㎏-m/6000rpm●トランスミッション:4速MT●乗車定員: 4名●サスペンション:前マクファーソン式コイルバネ/リジットアクスル半楕円バネ●タイヤサイズ:5.00-10-4PR ULT
メーター類をセンター部分に集約したシンプルなデザインのコックピット。
ダッシュボードは運転席から助手席にかけて奥行きのある平らなボードを採用。簡単なテーブルとしても使用することができた。助手席側には小物入れも設定。
N360の後継モデル「ライフ」をベースに開発
N360の後継車種として、1971年に登場した「ライフ」は軽乗用車市場で高い人気を得たモデルだった。そのライフのプラットフォームをベースに、軽商用車市場へ参入するために開発されたのが「ステップバン」だった。
当時の軽商用車は、軽トラックの派生車種やキャブオーバー型のワンボックスカーが主流だったが、ホンダは「荷物を運ぶだけでなく、もっと楽しく、使いやすく、デザイン性の高い軽商用車」というコンセプトを掲げ、従来の軽バンの常識を覆す全く新しいクルマを目指し開発された。
当時の軽規格を最大限に生かすため「四角い箱」を追求
ステップバンの最大の特徴は、徹底的に空間効率を追求したデザイン。全長3m、全幅1.3mという当時の軽自動車規格の制約の中で、最大限の室内空間を確保するために、徹底的に「四角い箱」を追求した。ボンネットがないため、全長に対する荷室スペースが非常に広く、大人4人がゆったりと座れる室内と、荷物を積めるスペースを両立しているのも当時の商用車としても画期的であった。特に後部座席は、シートバックを倒すことでフラットな荷台になり、様々な用途に対応できるのも大きな魅力だった。
また、ボディの四隅まで見切りが良く、運転しやすいという利点もあった。当時の軽自動車としては珍しく、スライドドアではなくヒンジ式の大きなドアを採用したことも、乗り降りのしやすさに貢献していた。
商用バンとしては珍しくリヤドアもスライド式ではなくヒンジ式の大きなドアを採用。こういう部分も商用車というより乗用車的な設計だった。またリヤゲートは、上下分割式となり、ここにも開発者のこだわりが採用されていた。
商用車としての使い勝手を最大限に追求したクルマだった
ライフのFFプラットフォームを活かし、荷室の床を低く設定することによって、重い荷物の積み下ろしが容易になり、また、荷室全体をフラットにすることで、大きな荷物も効率よく積載できるようになった。さらにリアゲートは、上半分が跳ね上がり、下半分が下に開く上下分割式を採用。上半分だけ開けて荷物を出し入れしたり、下半分をテーブルとして使ったりと、さまざまな用途に対応できる画期的な機構を採用するなど、商用車以上の使い勝手を追求したモデルとなっている。
リアゲートは、上半分が跳ね上がり、下半分が下に開く上下分割式を採用。低い床面と相まって、荷室の使い勝手は良かった。
ライフのエンジンを流用
エンジンは、 ライフと共通の水冷直列2気筒SOHC・356ccエンジン「EA型」を搭載。最高出力30PS、最大トルク3.0kg-mを発揮した。当時の軽自動車としては車高は高めだったが、FF駆動と軽量な車体により、きびきびとした走りを楽しめたのも特徴的だった。
ライフと共通のEA型水冷直2SOHCを搭載。最高出力30ps、最大トルク3.0kg-mを発生した。
ホンダの軽自動車市場撤退により、わずか2年あまりで生産が終了
そのユニークなコンセプトとデザインが評価され、商業的な成功を収めたものの、1974年の排ガス規制強化と、ホンダの経営資金集中による軽自動車市場の一時的な撤退により、わずか2年あまりで生産が終了した。しかし、生産終了後も、その愛らしいデザインと実用性、そして希少性が加わり、現在でも根強い人気を誇っている。
また、ステップバンをベースにした派生車種として、荷台を搭載した「ライフピックアップ」もライナップされたが、こちらはさらに生産台数が少なく、非常に希少なモデルである。
ステップバンのキャビンを流用し、その後ろを荷台とすることで、軽トラックとしての機能を持ちながら、乗用車のような快適性やデザイン性を両立させようとしたモデル。しかし、当時の市場では、より積載性や実用性を重視したキャブオーバー型の軽トラックが主流だったため、商業的には成功しなかった。そのため、総生産台数はわずか1429台と非常に少ない。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
キープコンセプトが、クラウンの宿命だった時代 エクステリアを一見しただけでは6代目と区別が難しい7代目クラウン(MS125系)。数少ない特徴を挙げるならば、きらめくパネルを透明な樹脂で覆ったクリスタル[…]
スバル360の後継モデルとして熱い期待を受けて登場したR-2 1969年8月、てんとう虫の愛称で親しまれたスバル360の後継モデルとして登場したのが、「スバルR-2」。当時のキャッチコピーは “ハード[…]
トヨタBJ型(1951年) ランドクルーザー「BJ」(1954年) 始祖にあたるのはジープ由来の軍用トラックだった? 「ランドクルーザー」の源流を辿っていくと、他の国産自動車メーカーと同様に「(バンタ[…]
厳しい排出ガス規制をクリアした証を車名に掲げる自信 「コスモAP」が登場したのは1975年のことです。 1967年に登場した「コスモ・スポーツ」の市場の評判は上々で、その後にファミリア、ルーチェなどR[…]
「コロナ」の派生グレードから独立車種へ。そして高級路線を歩んだマークⅡ トヨタ「マークⅡ」の誕生は1968年にさかのぼります。 “オルガン”の愛称で呼ばれた3代目「コロナ(T40系)」の世代に、勢いが[…]
最新の関連記事(ホンダ)
N-ONE e:をもっと愛せる一台に 先進性や未来感を前面に出したEVにはちょっと気後れしていた人でも、「これなら私にも乗れそう」という安心や愛らしさを感じるのがN-ONE e:。 それなら、ガソリン[…]
「Original」に特別仕様車「CRAFT STYLE」を設定 N-ONEは、エクステリアもインテリアも人を中心としたホンダならではのM・M思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム思想)を現代に具現化[…]
ホンダ ヴェゼル価格:275万8800〜396万8800円登場年月:2021年4月(最新改良:2025年10月) 値引きを引き締めを装うが、しっかりと手順を踏めば25万円オーバーは狙える 一部改良後の[…]
空力と軽量化を貪欲に追求した、リアルチューナーの本気パーツ 今回発売されたパーツ群のコンセプトは「Extreme “R”」。 徹底した解析、素材選び、品質評価を行うことで、パーツ群全体で約38kgの軽[…]
新型プレリュードでのドライブがもっと快適に! TV-KITのメリットは、走行中でも純正ナビのテレビ視聴ができるようになり、長時間のドライブや渋滞中でも同乗者を飽きさせないこと。付属スイッチでテレビ視聴[…]
人気記事ランキング(全体)
愛車の“見えない変化”を可視化するという価値 どれだけ車両の安全装備が進化しても、ドライバー自身が車の状態を理解しておくことは欠かせない。なかでもタイヤは、わずかな空気圧の低下が直進安定性や燃費に影響[…]
電子ミラーの限界を、物理ミラーが補ってくれる 近年、採用する車種も増加傾向にあり、市場の大きく成長しているデジタルルームミラー。日本だけでなく、海外でもルームミラーのデジタル化は進んでいるようだ。 デ[…]
車内に潜む“暗がり”が生むストレスと、その正体 クルマの内装は、昼間こそ明るく整って見えるが、夜になると状況は一変する。特にセンターコンソール下や足元、シート付近はわずかな照明しか届かず、探し物が途端[…]
見た目からは想像できない“意外性の塊”のカーアイテム インターネットでカーグッズを探っていると、ときどき用途が想像できない奇妙な形のアイテムに出会うことがある。TOOENJOYの「ドアステップ103」[…]
KTCが放つ“工具の皮を被った便利ギア” 車内で少し休みたい。取材の移動、趣味の遠征、長距離の仕事など、日常的に車を使う人なら誰しも一度はそんなシーンに向き合うはずだ。短時間でも体を横にできるだけで疲[…]
最新の投稿記事(全体)
一見、何に使うかわからないが、活用の幅は広いアイテム 今回紹介するのは、様々なカー用品を多数リリースするカーメイトのグッズだ。商品の写真や装着した写真だけを見ても、どうやって使用するのかわかりにくいか[…]
手のひらサイズの小さな黒箱が、愛車の“裏側”を開く カー用品のトレンドは、大きくて目立つガジェットから、目に触れないスマートデバイスへと変化しつつある。その代表格が、今回取り上げるMAXWINのOBD[…]
一見すると用途不明。だがSNSの反応は異常に熱い バズったカーグッズの多くは、見た目のインパクトが強かったり、使い方が一見わかりにくかったりする。このGONSIFACHA製スマホホルダーもまさにその代[…]
現在、モデル末期のバーゲンセールを実施中 マツダCX-5は、2026年夏頃にフルモデルチェンジが予定されているため、現行モデルは販売末期で値引きが拡大してきている。車両価格+付属品込みの値引きで平均3[…]
運転する愉しさをさらに追求したアップデートを実施 今回の改良では、ドライビングの愉しさをさらに深化させるとともに、先進機能と日常の使い勝手を強化。 運転の楽しさを追求したアップデートとして、8速デュア[…]
- 1
- 2































