今回、スズキ・キャリーに追加された「スーパーキャリー Xリミテッド」は、見た目からして”商用”を狙っていない。率直にいって、こんな軽トラを作っちゃうんだ……(笑)が、偽らざる想いだ。今回は内外装の雰囲気や試乗を中心に、愛すべき異端児の魅力をお伝えしよう。
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之
働くクルマから、趣味のクルマへ、上手にイメージチェンジ
農家必須のクルマと言えば軽トラック。畦道のスポーツカーと称されることもある。スズキ・キャリーはそんな軽トラックの代表的なモデル。もっとも、3年前にホンダ・アクティが販売終了し、現在市販されている軽トラックは、キャリーとダイハツ・ハイゼット、およびそのOEMモデルのみだ。
スーパーキャリーは、車名のとおりキャリーの上級バリエーション。何が「スーパー」かと言えばキャビンの大きさが異なっており、ハイルーフ化とキャビン長を増加させたことで、一回り広いスペースを確保している。また、ロングキャビン仕様はOEMモデル(日産、マツダ)に設定がなく、キャリー専用だ。
走行ハードウェアはキャリーとまったく同じ。パワートレーンはNAの660ccに5速MTまたは4速ATが組み合わされる。シャシーはラダーフレームの前ストラット/後リーフリジッドアクスルというトラックでは定番の形式。駆動方式は2WDがFR、4WDはFRベースのパートタイム方式で、上級グレードのXのMT仕様には4WD走行時のハイ/ロー切替機構や、後輪デフロックも採用されている。
専用デカール&ホイールで、オフロードテイストをプラス
今回試乗した「スーパーキャリー Xリミテッド」は、Xをベースにした特別仕様車。外観を見れば一目で理解できると思うが、働くクルマからアウトドア趣味のオフローダーへのイメチェンを図っている。実際、選べる駆動方式は4WDのみと、思わずニヤリとしてしまう仕様になっている。
主な特徴は、専用デカールの追加や、黒色仕立てのヘッドランプエクステンションやフォグランプベゼル、ブラックメタリック塗装のホイールなど。薄化粧程度の違いだが、オーナーが趣味のために選んだモデルと理解できる外観イメージの変化が面白い。XではOPのLEDヘッドランプが標準装備されることもあり価格はベース車の約18万円高となるが、マニア的に流行っている、軽トラカスタマイズのベースモデルとしては悪くない一台だ。
軽トラックでも快適に過ごせる、余裕十分のキャビン設計が嬉しい
いざ試乗してみると、ロングキャビンとハイルーフは、キャビン実用性と居心地に劇的な変化をもたらすことを改めて実感できる。最も大きいのはバッグ等の荷物収納。標準キャビン車だと、バックなどの置き場は助手席しかない。足元に置いても助手席に座るに有効なスペースがないので、荷物を持ち込めば実質一人乗りで、二人乗車ならキャビンに荷物は持ち込めない。
しかし、スーパーキャリーは、シートを最後端までスライドさせてもまだ25cmくらいのスペースがあり、大きめのバッグもなんとか収納できる。さらにオーバーヘッドシェルフも加わり、小物収納にも困らない。
さらに運転席シートスライド量が増加したことで、最後端でのリクライニングも可能。標準キャビンは大柄なドライバーだとかなりアップライトなドラポジを採らざるを得ないが、スーパーキャリーならドラポジと助手席着座姿勢の自由度が大幅に改善されるのだ。
内装の質感は、生の樹脂の素材感が強め。シボもベーシックなもので、高級感の演出はまったくない。さらに大型液晶ディスプレイもなく、オーディオやナビはOPアクセサリー設定だ。
乗れば乗るほど、妙な魅力を感じてくる不思議なクルマ
荷台350kgの最大積載重量に対応したサスチューンは、かなり硬め。段差乗り越えで、頭に響くような突き上げはないものの、荒れた路面の空荷ではちょっと跳ねるような乗り心地だ。軽量とはいえNAエンジンでは余裕がなく、それなりに走らせたいなら、MTの利点を活かし回転レンジを広く使う、ドラテクみたいな感覚も必須だろう。
ただ、そんな不自由さがあるにもかかわらず、ぜんぜんネガティブな想いを感じない。もちろん、高性能とか快適性を求めればありえない選択肢だが、実用的な役割に留めておくのは、少しもったいなく思える、不思議な魅力を持つ一台なのだ。
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