
トヨタのスポーツカーブランドである「GR」とスーパー耐久などに参戦する「ルーキーレーシング」は水素エンジンカローラを走らせているが、現在では仲間づくりの輪が広がり、水素エネルギーを活用した街づくりの取り組みも広がっている。今回は九州における実例を紹介しよう。
●文:月刊自家用車編集部 ●写真:トヨタ自動車株式会社/月刊自家用車編集部
2022年の連携協定締結後、驚異のスピードで進む水素活用
福岡市とトヨタ、そして水素社会の早期実現に向け、商用事業での協業に取り組むCJPTは、2022年2月に「水素社会のまちづくり実現に向けた幅広い取り組みに関する連携協定」を締結している。その後、同年12月には福岡県とも「FCモビリティ普及に向けた取り組みに関する連携協定」を締結し、公用車での燃料電池車両の導入拡大に共同で取り組むことに同意。この中で、小型トラックや塵芥車(ゴミ収集車)、救急車、大型バスや小型バスなど、FCEVの車両を導入する企画と検討が宣言された。
FCEVバス
6月30日までに延べ2052名が乗車した「日田彦山線BRT ひこぼしライン」のFCEVバス。航続距離は約380㎞。
FC救急車
トヨタの高級ミニバン「グランエース」をベースに救急車として必要な装備を搭載。航続距離は約300㎞。
FC救急車は、低振動で乗車する患者にも優しく、静かで大きな声を出せない患者との会話も明瞭で好評という。
FC塵芥車(ゴミ収集車)
FC塵芥車(ゴミ収集車)は、CJPTに参画するいすゞ自動車の小型トラック「エルフ」がベース。航続距離は約200㎞。
今回の説明会会場で必要な電力をFC塵芥車で給電。FC化ならではのエピソードとして、「今まではディーゼルだったためエンジン音が大きく、その音を合図にゴミ出しをしていたのに、静かだから気がつかずゴミ出しができなかった……」という意見があったという。
水素カローラが参戦するオートポリス戦で説明会が開催
トヨタ「GR」と「ルーキーレーシング」が共同で、水素エンジンカローラで参戦しているスーパー耐久の2023年オートポリス戦の会場では「B to G(企業と行政が一体となって、地域住民の生活を豊かにする街づくりを行う取り組み)」として具体的な車両導入を宣言。それから約1年が経過し、今回スーパー耐久第3戦期間中の7月27日に、取り組みの実績と課題の説明会がイベント会場の特設ブースで開催された。
スーパー耐久の開発車両などが参戦可能なST-Qクラスを実験の舞台として挑戦している水素エンジンカローラ。
説明会では、トヨタ自動車副社長/CJPT社長の中嶋裕樹氏が九州における水素の取り組み、この1年の総括を行った。まずは九州の話から離れて、福島県での小型FCトラックの実証実験について、「10万㎞を無事走行完了してデータが取れたのは非常に大きなこと。量産へ向けた大きな一歩が踏み出せた」とコメント。
さらに、九州ではJR九州と福岡県と共同で運行している「日田彦山線BRTひこぼしライン」のFCEVバスの有用性や福岡市と共同で運行しているFCの塵芥車(ゴミ収集車)や救急車についても実車の展示を見ながら言及。使用する水素についても、大林組が取り組む大分県の地熱を利用したクリーンな水素を使用している点、FCEVの塵芥車や救急車は下水由来の水素を使用するなど、地産地消でまかなっている点を強調した。
説明会にはCJPT中嶋社長(右)のほか、トヨタ自動車株式会社CVカンパニー 太田博文チーフエンジニア(左)、福岡市 衛材観光文化局 新産業振興部 水素推進担当 三浦慎一朗課長(中央)も登壇した。
加えて、今回は展示されなかったがFCEVの給食配送車についても説明。この配送車は今年の6月30日までに福岡市の27校、約20万人分の給食を配送(3台合計)。中嶋氏は配送車について「お子さんに水素を身近に感じてもらい、大人になった時にエネルギーは水素が当たり前という世界を作りたいし、必ず来ると思う。今ここにいる皆さんと一緒に汗をかくことで実現できると思っている」と熱い思いを語った。
水素社会実現に向けての問題点とは…
そして水素供給の問題点についても触れた。やはり課題は水素の安定供給。現場の課題として水素ステーションの数が少ない(遠い)、待ち時間や点検休止の頻度をあげて説明。しかし、今回展示された車両が人口30万人都市で必要な数(救急車12台、給食配送車20台、塵芥車300台、コミュニティバス30台)FCEVに置き換わった場合の1日あたりの水素量は2000㎏で水素ステーション8基分となり、安定して運営できるようになるという。
このように良いことも課題もある水素事業だが、トヨタとCJPT、そして自治体は「まずはやる事」、そこから課題を洗い出すことに重点を置いていることがわかった。お世辞ではなく、モータスポーツの世界でも取り組む水素へのアプローチと取り組みの厳しさを同じスピード感を持って取り組んでいることに感銘を受けた。また1年後、どれだけ進化しているか楽しみである。
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