
真夏のドライブは楽しみな反面、渋滞中にオーバーヒートするリスクも高まります。エンジンの温度が異常に上昇するこの現象は、深刻な故障や事故につながる可能性があり大変危険ですが、渋滞中にオーバーヒートが起きる原因はいったいなんなのでしょうか。
●文:月刊自家用車編集部(ピーコックブルー)
オーバーヒートは、エンジンの冷却不足が原因
オーバーヒートとは、エンジン熱量が冷却システムの処理能力を上回ってしまうと発生する、深刻なエンジントラブルのこと。
通常、エンジンは適切な温度範囲内で動作するように設計されていますが、さまざまな要因によってこの冷却機能が阻害されると、エンジン温度が規定の温度より上昇してしまい、さらにその状態を放置すると、エンジンの動作を損なうことになります。
そんな厄介なオーバーヒートを避けるために、ドライバーが注意したいのが水温計です。
水冷エンジンのクルマには、エンジン内部を流れる冷却水の温度を示す水温計がメーターパネル内に設置されており、通常時は針が「C(cool)」と「H(hot)」の中間付近を指しています。
ところが走行中にオーバーヒートが発生すると、針がH側に大きく振れ、場合によっては振り切れてしまいます。この状態になったら、速やかにクルマを停車して状況を確認する必要があります。
ただ、この時に焦ってエンジンを切るのは厳禁。冷却水が循環せずに、一気に温度が上昇したり、エンジンオイルの循環が停止し油膜切れを起こしてエンジンが焼き付く可能性があるからです。
冷却水を冷やすラジエターそばのクーリングファンが回転していることを確認したら、その状態でアイドリングを続けるのが、最悪の事態を防げる最善の方法になります。
また、エンジンルームから湯気/蒸気/焦げ臭いがする時も要注意。冷却水が漏れて蒸発したり、オイルが過熱されて焦げている可能性があるからです。また、エンジンから「カンカン」「キンキン」といった異音(ノッキング音)が聞こえ始めたら、オーバーヒートの可能性があります。
オーバーヒートが続くと、エンジンの動作にも明らかな異常が現れます。
エンジン回転数が不安定になったり、通常よりも加速の鈍さが典型的な症例です。さらに症状が悪化すると、アイドリングができなくなったり、最悪の場合はエンジンが完全に停止してしまいます。
渋滞中は冷却効率が低下、リスクが大きく高まってしまう
また、渋滞中にオーバーヒートが発生しやすい理由は、エンジンに過度な負荷がかかりやすいため。
クルマは、走行時は前方から流れ込む風がラジエーターを通過し冷却水を冷やすことで、エンジンを冷却していますが、渋滞で車速が落ちると走行風が当たらなくなり、冷却効果が弱くなってしまいます。渋滞中はアイドリング状態が長時間続くため、エンジンは常に熱を発生し続けます。
真夏の炎天下の渋滞では、冷却水の温度が上がりやすくなる要因が増えるため、オーバーヒートが発生する可能性も高まるというわけです。
また、クルマの整備不良も、オーバーヒートを引き起こす原因です。
たとえば、冷却水が漏れていると、エンジンの冷却システムの機能は著しく低下します。冷却水が適切なレベルに保たれていないと、エンジンの冷却力が落ちてしまい、最終的にはオーバーヒートにつながる可能性が高くなります。
同様に、ラジエーターの目詰まりも原因のひとつ。ラジエーターは冷却水を冷やす重要な役割を果たしますが、長年の使用で内部に汚れや異物が蓄積すると、冷却効率が大幅に低下します。ウォーターポンプの故障も冷却水の循環を妨げ、オーバーヒートのリスクを高めるそうです。
さらに、サーモスタットの不具合も見逃せない原因のひとつ。サーモスタットは、エンジンの温度に応じて冷却水の流れを調整する重要な部品ですが、正常に機能しないと、適切なタイミングで冷却水を循環させることができなくなります。
当たり前レベルの点検の徹底が、トラブル防止の早道
渋滞中のオーバーヒートを防ぐためのポイントは、事前の準備と正しい運転方法を心がけることです。
まず、長距離ドライブや渋滞が予想される場合は、出発前に車両の点検を行いましょう。冷却水の残量を確認し、必要に応じて補充します。また、ラジエーターやホースに目立った劣化や損傷がないか、入念にチェックします。
エンジンオイルの量/質も、オーバーヒート防止に大きく関わります。エンジンオイルが循環することで、エンジン内部の摩擦を減らし、熱の発生を抑えられるため、定期的なオイル交換と、走行前のオイルレベルチェックを習慣づけましょう。
タイヤの空気圧も見逃せないポイント。空気圧を適切に保つとタイヤの転がり抵抗が減少し、エンジンへの負担が軽減されるため、長距離ドライブや高速道路走行時は忘れずに確認しましょう。
外出時に渋滞に巻き込まれた場合は、可能な限り前のクルマとの間隔を保ち、急発進や急ブレーキを避けてエンジンへの負担を軽減することが大切です。
真夏の渋滞中におけるオーバーヒートは、複数の要因が重なって発生する深刻な問題ですが、事前準備と日常的なメンテナンス、ゆとりを持った運転を心がけることで、そのリスクを大幅に軽減できます。
快適な夏のドライブを楽しむためにも、常に車両の状態に気を配り、安全対策を忘れないようにしましょう。
※本記事の文責は当該執筆者(もしくはメディア)に属します。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(クルマ雑学)
リアサスは、固定式リーフスプリングからコイルスプリングへ進化していった 長い間、リアの車軸は固定式で、それをリーフスプリングで支えていた。コイルスプリングが実用化されると、一部の高級車でそれを使うもの[…]
馬車の時代から採用されていたサスペンション サスペンションを日本語にした懸架装置という言葉が長く使われていた。その名のとおり、初期のサスペンションは車輪を車体から吊すものととらえられていたのだ。 サス[…]
初期のCVTは、駆動プーリーのみで変速比幅は狭かった ベルトやチェーンで動力を伝達する方法は古くから行われていた。この方式で変速までも行おうと考案されたのがCVTだ。 オランダのDAF社は1959年、[…]
1速からはじまった変速機 世界で初めてガソリンエンジンを搭載した自動車はベンツの3輪車で、次いでダイムラーが4輪車を送り出した。ベンツのエンジンは985㏄で最高出力は0.88ps/400回転と非力なも[…]
トーイングトラクター TOYOTA L&F 2TD-25:小さくても超ヘビー! 重い理由はボディの鉄板にあり 旅客機に積み込まれる手荷物の入ったコンテナを運ぶ。これも空港での重要な仕事のひとつ[…]
人気記事ランキング(全体)
「未来の国からやって来た」挑戦的なキャッチフレーズも話題 初代の「A20/30系セリカ」は1970年に登場しました。ちょうどこの時期は、モータリゼーション先進国の欧米に追い付けという気概で貪欲に技術を[…]
アウトドアに最適化された外観 まず目を引くのは、アウトドアギアのような無骨さと機能美を感じさせるエクステリアだ。純正の商用車然とした表情は完全に姿を消し、精悍なライトカスタムやリフトアップ、アンダーガ[…]
一年中快適。冷暖房完備の“住める”軽キャンパー これまでの軽キャンパーに対する常識は、スペースや装備の制限を前提とした“妥協の産物”という印象が拭えなかった。しかしこの「TAIZA PRO」は、そんな[…]
サイドソファとスライドベッドがもたらす“ゆとりの居住空間” 「BASE CAMP Cross」のインテリアでまず印象的なのは、左側に設けられたL字型のサイドソファと、そのソファと組み合わせるように設計[…]
前輪ディスクブレーキ装備やトレッド拡大で、高速走行に対応 オーナーカー時代に向けて提案したスタイリングが時代を先取りしすぎたのか、世間の無理解と保守性に翻弄されてしまった4代目クラウン(MS60系)。[…]
最新の投稿記事(全体)
3年ぶりの総合優勝を目指し、3台体制で参戦 今年で30回目を迎えるAXCRは、例年の約2000kmから約2500kmへと総走行距離が延長され、競技期間も8日間に延びるなど、例年以上に過酷な設定で競われ[…]
鉄粉やドロ、油などの汚れが蓄積されがちなホイール 普段の洗車で、ある程度洗えていると思っていても、実は、汚れを見落としがちなのがホイールだ。最近は、複雑な形状のものも多く、なかなか細部まで洗浄しにくい[…]
アウトドアに最適化された外観 まず目を引くのは、アウトドアギアのような無骨さと機能美を感じさせるエクステリアだ。純正の商用車然とした表情は完全に姿を消し、精悍なライトカスタムやリフトアップ、アンダーガ[…]
「未来の国からやって来た」挑戦的なキャッチフレーズも話題 初代の「A20/30系セリカ」は1970年に登場しました。ちょうどこの時期は、モータリゼーション先進国の欧米に追い付けという気概で貪欲に技術を[…]
スノーピークが特別出展「キャンパーの食卓」も登場 スターキャンプは、1991年から続く三菱自動車が主催する名物オートキャンプイベント。これまで1万組以上の家族が参加し、自然の尊さを学びながら、家族や仲[…]