
【クルマのメカニズム進化論 Vol.2】サスペンション編(3)~電子制御サス~
自動車が開発されて以来、様々な形式のサスペンションが考案されてきたが、減衰力をアクティブ制御したり、油圧や空気をスプリング代わりに用いるサスペンションも登場した。今回は、電子制御式のサスペンションにフォーカスして、その進化を紹介していこう。
※この記事は、オートメカニック2018年当時の記事を再編集したものです。
●文:オートメカニック車編集部
電子制御サスペンションは、3つの制御方式に大きく分類される
サスペンションに電子制御を持ち込み、走行状態、路面の状況に合わせた最適な乗り心地やアジリティ、スタビリティが得られるものも一部のクルマに採用されてきた。
制御方式は大きく3つに分類される。1つめはショックアブソーバーの減衰力を調整するもの、2つめがスプリングの代わりにエアチャンバーを採用し、走行性や乗り心地を向上させるもの、そして3つめが油圧を用いてサスペンションをアクティブコントロールするものだ。
1983年、トヨタが最初にこの分野に電子制御を持ち込んだ。TEMS(Toyota Electric Modurated Suspension)と名付けたものを開発し、ソアラに搭載した。
減衰力の調整モードはオート、スポーツ、ノーマルの3種類があり、オートモードでは路面の状態、走行状況に合わせて、自動的にハードとソフトの切り替えが行われ、最適な乗り心地と走行安定性が得られた。減衰力調整は2段切り替え式のオリフィスとコントロールロッドを回転させるアクチュエーターによって行われた。
トヨタAVSの構成パーツ。4輪のショックアブソーバーにアクチュエーターがセットされ、その作動のためのデータを得るためにGセンサー、ステアリングセンサー、車速センサーなどが設けられていた。
進化を続けたTEMS 。AVS、カーナビとの協調も
TEMSはその後も進化を続け、ピエゾ素子を用いて路面からのショックを検知する方法を一時取り入れたり、電磁ソレノイドからステップモーターへの変更などが行われた。制御はアンチスクォート、アンチダイブ、アンチロール機能に加え、あおり制御、バネ下制震制御、ごつごつ感制御なども加えられきめ細かいものだった。
車両安定制御システムVSCの開発に伴って、クルマの挙動に合わせて減衰力を最適なものにリアルタイムで調整できるようになった他、カーナビとの協調も行われるようになった。プレビュー機能の他に段差学習機能まで備え、道路状況や曲率に合わせて最適な減衰力が得られる。TEMSに起源を持つ電子制御ショックアブソーバーは今も多くのトヨタ車に採用されている。
TEMSと同じような原理を採り入れたショックアブソーバーは他のメーカーでも採用されている。1984年に日産が開発したスーパーソニックサスペンションは、その代表ともいえるもの。大きな特徴は路面と車体の関係を検知する超音波路面ソナーを備えていたことだった。
このような減衰力制御式ショックアブソーバーは、今では多くのメーカー、多くの車種に採用され、スポーティ車、SUV、上級車の必須装備ともなっている。
インフィニティQ45に採用された油圧アクティブサスペンション。上下Gセンサー、前後Gセンサー、車高センサー、車速センサーからの情報を基に、4輪のアクチュエーターに送る油圧が制御され、最適な姿勢が保たれた。
鉄粒子を含んだ化学合成の炭化水素系流体が封入されたマグネティックライド。ピストン内の電磁コイルに送る電流の制御によって流体が繊維状に整列し、粘性が変化する。粘性を連続的に制御することで減衰力の調整が可能になる。
スバル、日産などが開発、アクティブサスペンション
サスペンション全体を電子制御する方式も少数ながら開発され、実用化されてきた。代表的なのはエアサスペンションと油圧サスペンション。
富士重工(スバル)は1984年に電子制御エアサスペンションを開発し、レオーネに搭載した。エアサスペンションそのものはサスペンション技術のブレークスルーでもなく、戦後の一部のアメリカ車や大型バスで実用化され、乗用車では初代センチュリーがフロントサスペンションに導入していた。しかし、スバルのそれは4輪、すべてにということで国産初、乗用4WDに導入したということでは世界初ということになる。
エアサスペンションはその後、レガシィにも引き継がれ、また他のメーカーではセルシオ、クラウン、シーマ、セドリックなどの高級車にも採用されていく。 油圧を用いたアクティブサスペンションも開発された。代表的なものは1989年に日産がインフィニティQ45に搭載した油圧アクティブサスペンション。各輪にアクチュエーターを備え、電子制御された高圧ポンプによって、走行状態に応じた最適な車高、減衰特性が与えられた。この種のサスペンションではシトロエンのハイドロニューマチックがパイオニアとして知られているが、日産のそれはエレクトロニクスを介入させ、あらゆる領域できめ細かく制御するものだった。
変わり種も現れた。GMが2004年に開発したのが磁気流体感応技術を応用したマグネティック・ライド・コントロールで、最初にキャデラックのSTSに採用された。
サスペンションそのものを電磁化する試みも行われた。音響メーカーのボーズが取り組んだもので、スプリングとショックアブソーバーの代わりに直立したリニアモーター(電磁式アクチュエーター)がセットされ、電磁力で走行中の車体を支え、姿勢を制御するというものだ。
2つの新しいテクノロジーは、サスペンション技術のブレークスルーでもあったが、マグネティックライドはGMの他にアウディなどの一部車種に用いられているだけで、ボーズのそれは未だ実用化に至っていない。
BOSEがリサーチしたリニアモーター(電磁式アクチュエーター)を使う方式。電磁力で車体を支え、姿勢を制御するというもの。
VWトゥアレグに採用されたエアサスペンション。スプリングの代わりにエアチャンバーを持つが、減衰力調整式のショックアブソーバーが加わる。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(旧車FAN)
頑健だが「色気のない三菱車」。そんなイメージを覆して大ヒット車に 三菱自動車工業という会社が誕生したのは、1970年のこと。ただし、その前身である三菱重工の歴史を遡れば、坂本龍馬が作った海援隊にルーツ[…]
人気タレントを使ったテレビCM戦略は、ミゼットから始まった クルマのCMにタレントが登場するのは、今では当たり前のこと。旬のタレントと新型車の取り合わせは、時に大きな話題にもなる。その先駆けとなったの[…]
最後のFRレイアウトとなった4代目のカローラ 「カローラ」として4代目になる「E70系」シリーズは1979年に発売されました。 初代の時からニーズに細かく合わせて、セダン/クーペ/バン/ワゴンと多くの[…]
自動車での物流に先駆け、安価なオート三輪を開発 マツダの自動車製造の第一歩 1920 年(大正9年)、中国地方の山間部で自生していたブナ科の落葉樹「アベマキ」を使用したコルクを製造するメーカーとして、[…]
初代センチュリー(VG20) 政財界のVIPにより認知度を上げていった国産ショーファーカー ショーファードリブン。後席に乗る主役のために運転手つきで運用される大型セダンは、専属の御者が操る貴族の自家用[…]
最新の関連記事(トヨタ)
コンパクトボディに快適空間を凝縮。夫婦旅に最適な「北斗 対座モデル」 キャンピングカー選びにおいて重要なのは、自分たちのライフスタイルに合った1台を見つけること。家族4人でワイワイ出かけたい人もいれば[…]
最後のFRレイアウトとなった4代目のカローラ 「カローラ」として4代目になる「E70系」シリーズは1979年に発売されました。 初代の時からニーズに細かく合わせて、セダン/クーペ/バン/ワゴンと多くの[…]
初代センチュリー(VG20) 政財界のVIPにより認知度を上げていった国産ショーファーカー ショーファードリブン。後席に乗る主役のために運転手つきで運用される大型セダンは、専属の御者が操る貴族の自家用[…]
ミニバンの可能性を拡張する、スマートなキャンピングカー「DAYs」 街乗りにもキャンプにも使える“ちょうどいい”サイズ感と、独自開発の回転シートやロフト空間といった遊び心ある装備。これまでのキャンピン[…]
タウンエースベースが生む、扱いやすさと拡張性 「Plaything Ace SP」のベース車両は、トヨタ・タウンエース。取り回しの良さと荷室の広さを両立したミドルサイズバンで、日常使いでも不便を感じに[…]
人気記事ランキング(全体)
侮るなかれ、さまざまな効果が得られる空力パーツ 先日、知り合いからユニークなカーグッズを紹介された。細長いプラスチックパーツが12個並べられているパッケージ。一見すると、どんな用途でどのように使用する[…]
コンパクトボディに快適空間を凝縮。夫婦旅に最適な「北斗 対座モデル」 キャンピングカー選びにおいて重要なのは、自分たちのライフスタイルに合った1台を見つけること。家族4人でワイワイ出かけたい人もいれば[…]
最後のFRレイアウトとなった4代目のカローラ 「カローラ」として4代目になる「E70系」シリーズは1979年に発売されました。 初代の時からニーズに細かく合わせて、セダン/クーペ/バン/ワゴンと多くの[…]
トラブル時にも対応可能。万が一に備えて安心ドライブ 車に乗っていると、どうしても避けられれないトラブルに遭遇することがある。どれだけ用心していても、不可抗力で発生することもある。例えば、釘やネジを踏ん[…]
夏の猛暑も怖くない、ロール式サンシェードが作る快適空間 夏のドライブで誰もが感じる悩みは、車内の暑さだ。炎天下に駐車すれば、シートやダッシュボード、ハンドルが触れないほど熱くなる。さらに紫外線による内[…]
最新の投稿記事(全体)
1995年登場のプロメカニック用ツール「nepros」 KTCと言えば、クオリティと信頼性の高いハンドツールを数多くリリースするメーカーとして広く知られており、プロの現場で使用されている工具である。そ[…]
頑健だが「色気のない三菱車」。そんなイメージを覆して大ヒット車に 三菱自動車工業という会社が誕生したのは、1970年のこと。ただし、その前身である三菱重工の歴史を遡れば、坂本龍馬が作った海援隊にルーツ[…]
ガソリンモデルにクラス初となるインテリジェントクルーズコントロールを採用 今回実施される仕様向上では、各種法規に適合したうえで、安心安全快適を提供する機能を追加。 ガソリンモデルにクラス初となるインテ[…]
家族連れにも楽しんでもらえる、多くのコンテンツを用意 「フォーラムエイト・ラリージャパン 2025」は、ラリー競技の最高峰であるFIA世界ラリー選手権のシリーズ戦の一つである世界大会で、全14戦となる[…]
静粛性強化で、より自然に寛げるキャビンを実現 今回の改良では、静粛性の向上と居住空間の快適性、利便性の改善が図られた。 具体的には、 後輪からのロードノイズやバックドアからの振動音を軽減するため、リヤ[…]
- 1
- 2