
ゼロ・クラウンの一世代前、11代目クラウンに設定されていたクラウンエステートは、旧き佳き時代のワゴンの良さを感じさせてくれる贅沢なモデル。販売されていたのは1999年から2007年までの2世代だけと、クラウンのワゴンとしては短命に終わってしまったが、個人ユーザーから法人ユーザーまで、幅広いニーズに応えてくれていた名車だった。
●文:川島茂夫/月刊自家用車編集部
ワゴン車としては、12年ぶりとなるフルモデルチェンジ
初代クラウンエステートは、1999年(平成11年)に11代目クラウンの新規開発バリエーションモデルとして誕生。
前モデルに当たるクラウンワゴン(ステーションワゴン・バン)は、1987年デビューの8代目をベースとしたモデルになるので、クラウンのワゴンタイプとしては12年ぶりのフルモデルチェンジになる。
クラウンエステート(1999年式 アスリート 2WD)●全長×全幅×全高:4835×1765×1510mm ●ホイールベース:2780mm ●車両重量:1620kg ●乗車定員:5名 ●パワーユニット:2491cc直6DOHC(200ps/26.0kg-m) ●トランスミッション:5速AT ●10・15モード燃費:9.8km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ディスク(R) ●サスペンション:ダブルウィッシュボーン(F)/ダブルウィッシュボーン式(R) ●タイヤ:215/55R16 ●価格:348万円
当時のクラウンは、販売台数の低下を打破すべくブランドの再構築が図られていた時期でもあり、11代目はセダンに専用のボディパーツやサスチューン、直6ターボエンジンを搭載した「アスリート」が設定されるなど、走りを意識させる時代に差し掛かっていた。
久々の新規設計ワゴンとして投入されることになったエステートは、12代目のゼロ・クラウンほど走りを意識させるモデルではなかったが、走行性能の向上と、従来の高級車路線をバランス良く汲み取ったモデルに仕上げられている。
クラウンらしい贅を尽くしたキャビンが印象的。DINスペースに収まるDVDナビはメーカーOPで選択することになる。
直6エンジンを搭載する最後の世代のクラウン
セダン同様にアスリート系をグレード構成の軸に置いているが、長いリアオーバーハングや荷室部にボリューム感を持たせたキャビンデザインなど、ワゴンのセオリーに則ったパッケージングを採用。クラウンとしてもワゴンとしても伝統的といえる、リアショートオーバーハングでクーペ的に纏めた最新のクラウンとは違った風格がある。
もうひとつの注目点はパワートレーンで、11代目は最後の世代となる直6クラウンでもある。高精度な回転体が高速で回っているような重質なエンジンフィールは、まさに往年のクラウンの雰囲気、伝統モデル「クラウン」の格を感じさせてくれる。
実はゼロクラウンからのV6エンジンも、直6的な素直なエンジンフィールを示すが、重質な味わいという面では11代目に分がある。もちろん、変速制御やATの多段化などパワートレーン全体の性能評価ではゼロクラウンには及ばないのだが、悠々とドライブを愉しむためにクラウンを選んだユーザーにとって、かなり魅力的な味付けだった。
そしてアスリート系でありながらサスチューンは穏やか。高速ツーリングや山岳路走行を安心してこなしながらも、クラウンらしさを失なっていない。この辺りはロイヤル系でもアスリート的な引き締まったアシだったゼロクラウンとは違う。当時、大ブームだったスポーツワゴン市場を狙った走りではなかった。
長い荷室スペースが設けられるなど、実用性の高さも売りのひとつ。2003年にセダン系が12代目にフルモデルチェンジした後も、エステートは法人需要の影響(寝台車など)を考慮して継続販売されている。
プレミアムとゆとり十分のキャビン設計、まさに〝高級ワゴン〟
現代のワゴンの多くは、昔ならショートワゴンに分類されるが、それらに比べるとクラウンエステートはリヤセクションを長めで、それが重々しく思える。ただ実用性はスペース効率の面で高い室内高を活かしてキャビンボリュームを稼ぐ、横置プラットフォームベースのSUVに及ばない。まもなく登場する次期クラウンエステートとはまったく異なる思想で造られたモデルだ。
だが、そこには現代の高級車とは違った雰囲気がいっぱいで、唯一無二と思える魅力がある。まさに、古き佳き時代のステーションワゴンという言葉がぴったりな一台だ。
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